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ウサギフェロモン「2M2B」による猫への鎮静効果~インテロモンとして移動ストレスを軽減

 ウサギの乳腺から発見され、さまざまな動物に対する鎮静効果が示されているフェロモン「2M2B」。猫に対して使用した場合、果たしてどのような影響を及ぼすのでしょうか?

猫とフェロモン「2M2B」

 調査を行ったのはテキサス・テック大学動物行動ラボを中心としたチーム。ウサギの乳腺から発見され、動物種を超えて作用することが確認されているフェロモン「2M2B」が、猫に対してどのような効果を発揮するのかを確かめるため、「車での移動」というストレスのかかる状況を設定した前向き実験を行いました。
2M2B
2M2B(2-メチル-2-ブテナール)はメスウサギの乳腺から分泌されるフェロモンとして発見された分子で、仔ウサギが母親の乳首の位置を把握する際に機能する。植物、動物、食品の中に広く含まれており、人間もベリー、野菜、鶏脂、バター、ビールといった食品を経由して日常的に微量摂取している。犬、猫、ブタ、人間など動物種を超えて脳に作用し、概して鎮静効果を発揮する可能性が示されている。

調査対象と方法

 調査に参加したのはキャリー移動に慣れていない16頭の猫たち。基本属性はオス8頭+メス8頭、非純血種、年齢1.5~16歳(平均5歳)、体重2.6~4.7kg(平均3.9kg)というものです。
 2M2Bの効果を検証するため、全頭の首に「PetPace」と呼ばれる活動・心拍数計を装着した上で、8頭には2M2Bが含まれた首輪を、残りの8頭には何も含まれていない普通の首輪を取り付けました。
 次に猫たちを大きめのキャリー(71×52×55cm)に入れた上でオスとメス1頭ずつを車に搭乗させ、急カーブ、急停止、騒音を可能な限り避けながら70分かけて70km移動しました。使用された車は合計4台で、2台は2M2Bありの調査対象群用、2台は比較対照群用とされました。
 また移動中の猫の行動はすべて録画され、70分を10分ごとの7区画に分割した上で活動レベルを1区画ごとに平均化しました。

調査結果

 2M2B入りの首輪を装着した調査対象群と、普通の首輪を装着しただけの比較対照群を比べた際の主な観察結果は以下です。
✅調査対象群で統計的な有意差が確認された項目は心拍数が少ない、座位が短い、睡眠が長い、セルフグルーミングが長い
✅調査対象群で統計的な傾向が確認されたのは活動レベルが高いという点で、特にセルフグルーミングに費やす時間が長かった(対照群ではSGがそもそも見られなかった)
✅調査対象群はキャリー前方で過ごす時間が長かった
✅どちらの群も時間経過とともに心拍数は減少したが、両群を比較した場合、どの計測ポイントにおいても概して調査群の方が心拍数は低かった
✅比較対照群では3頭が疾病行動(嘔吐・流涎)を示したが、調査対象群では同様の変化は見られなかった
Semiochemical 2-Methyl-2-butenal Reduced Signs of Stress in Cats during Transport
Archer, C.; McGlone, J., Animals 2024,14,341, DOI:10.3390/ani14020341

インテロモンの鎮静効果

 種の垣根を超えて作用するフェロモンは特に「インテロモン(interomone)」と呼ばれます。ウサギの放つ「2M2B」はインテロモンとして猫にどのような作用を及ぼすのでしょうか。

即効性の鎮静・抗ストレス効果

 実験開始直後におけるキャリーへの馴化時間10分に着目した場合、対照群の心拍数が12%増加したのに対し、調査群のそれは逆に4%減少しました。この事実から、2M2Bは遅効性ではなく接触から数分で効き始める即効性のインテロモンであると推測されます。
 両群において有意差が確認された「心拍数が少ない」や「睡眠が長い」というパラメータはリラックス状態を示していますので、このインテロモンの効果は「鎮静効果」もしくは「抗ストレス効果」ということになるでしょう。また身の回りに脅威がないときに出やすい「セルフグルーミング」が調査群においてのみ観察されたという事実も、上記効果の正当性を補強しています。
 さらにキャリーの後方で過ごすことと身を隠すことを同義と考えると、対照群の後方占拠時間が長く、調査群のそれが短かったことも矛盾しません。
 調査チームは2M2Bが猫の鋤鼻器官(ヤコブソン器官)ではなく嗅覚を刺激するタイプのインテロモンではないかと推測しています。なお猫を対象として行われた先行調査では、2M2B入りの猫砂が選ばれやすいこと、および攻撃的な2頭を対峙させたときのいがみあいが軽減することなどが示されています出典資料:McGlone, 2018)

インテロモン効果の性差

 調査群の性別に着目した場合、いくつかの性差が確認されました。
 メスと比較してオスにおいて具体的に見られた特徴は、比較対照群より活動性が低い、座位が短い、心拍数が低い、睡眠が長い、寝そべりが短い、体位変換が短い(少ない)などです。一方、オスと比較してメスにおいては「比較対照群より活動性が高い」という特徴が認められました。
 当調査に参加した猫たちは不妊手術ステータスがバラバラでしたので、インテロモンと性ホルモンの相互作用に関しては今後のさらなる追加調査が必要であると言及されています。要するに「性差の理由がよくわからない」ということです。この点に関しては、何らかの製品として実用化する前にさらなる追加調査が必要でしょう。 キャリーに入って車移動する猫
猫を車に乗せて動物病院に行くといったストレスフルな状況では、鎮静薬を投与するという正攻法があります。しかし副作用がゼロではないため、フェロモン(インテロモン)という体への負担が少ない自然素材を用いた代替案があると安心ですね。猫のストレスフリー通院ガイド