猫がいる家庭のイースト菌
調査を行ったのはタイのバンコクにあるカセサート大学のチーム。人と動物の両方に感染する人獣共通性をもち、時として局所~全身性の症状を引き起こすイースト(yeast)に着目し、猫を飼っている家庭における保有率を調査しました。
- イースト
- イースト(yeast, イースト菌とも)は栄養体が単細胞性を示す真菌類の総称。食品発酵に用いられる酵母のほか、病理分野で問題となるクリプトコッカス、マラセチア、ロドトルラ、トリコスポロンなどが含まれる。
調査対象
調査対象となったのは猫と飼い主のペア59組。猫たちの基本属性はオス37+メス22頭、平均年齢5.7歳、平均体重5.1kgで、非純血の短毛種27頭に対し純血種が32(うちペルシャが19)頭でした。また完全室内飼い52頭に対し屋外アクセス可能が7頭という内訳でした。一方、飼い主は男性45+女性14名で平均年齢が39.2歳でした。
飼い主からは爪、猫からは顔面部の毛と皮膚薄片を採取し、含まれるイーストを培養しました。「顔面部」には小鼻の端から額にかけてのエリア、額から後頭部にかけてのエリア、唇から顎関節にかけてのエリア、顎が含まれます。
また人での感染例が多いMalassezia furfur、および猫で多いMalassezia pachydermatisに関しては複数の抗菌剤(イトラコナゾール・ケトコナゾール・ミコナゾール・テルビナフィン)に対する感受性を調査しました。
飼い主からは爪、猫からは顔面部の毛と皮膚薄片を採取し、含まれるイーストを培養しました。「顔面部」には小鼻の端から額にかけてのエリア、額から後頭部にかけてのエリア、唇から顎関節にかけてのエリア、顎が含まれます。
また人での感染例が多いMalassezia furfur、および猫で多いMalassezia pachydermatisに関しては複数の抗菌剤(イトラコナゾール・ケトコナゾール・ミコナゾール・テルビナフィン)に対する感受性を調査しました。
調査結果
採取されたサンプルを調べた結果、猫の顔面被毛からは合計19種のイーストが検出されました。一方、飼い主の爪からは合計17種のイーストが検出され、多い順に以下のような内訳となりました。
猫と人の保菌率を統計的に調べた結果、両者間に関連性は認められなかったそうです。 Comparative analysis of the distribution and antifungal susceptibility of yeast species in cat facial hair and human nails
Chompoonek Yurayart, Sara Niae, Orawan Limsivilai, et al., Sci Rep 14, 14726 (2024), DOI:10.1038/s41598-024-65730-w
保菌率の高いイースト
- 猫・Malassezia pachydermatis=45.8%
・Malassezia nana=18.6%
・Malassezia furfur=11.9% - 人・Malassezia furfur=30.5%
・Candida parapsilosis=20.3%
・Malassezia sympodialis=10.2%
・Trichosporon asahii=10.2%
猫と人の保菌率を統計的に調べた結果、両者間に関連性は認められなかったそうです。 Comparative analysis of the distribution and antifungal susceptibility of yeast species in cat facial hair and human nails
Chompoonek Yurayart, Sara Niae, Orawan Limsivilai, et al., Sci Rep 14, 14726 (2024), DOI:10.1038/s41598-024-65730-w
人と猫間の水平感染に注意
猫と生活空間を共有している場合、猫からのスリスリや飼い主のなでなでを通じて、イースト菌が水平方向に広がってしまう可能性が常にあります。
Malassezia furfur
猫を対象とした先行調査では、皮脂が多い外耳道からの検出率が2%程度だったと報告されています。それに対し当調査では、皮脂が少ないはずの顔面被毛からの検出率が12%とかなり高い数値を示しました。この事実から、飼い主が猫の顔面や頭部を触ることにより菌を移した可能性がうかがえます。
ここで問題となるのが「薬剤耐性」です。複数の抗菌剤に対する感受性を調べたところ、どの薬に関しても人より猫の方が高い数値、すなわち薬が効きにくいという特性が認められました。詳細な理由は不明ですが、ペット向けの薬用シャンプーを使用したことで耐性がついた可能性が指摘されています。
Malassezia furfur(フルフル)が直接的に引き起こす病態としては癜風やマラセチア毛包炎、間接的な関与が疑われる病態としては脂漏性皮膚炎、乾癬、アトピー性皮膚炎などがあります(:Terui, 1999)。薬を使っているのになかなか治らないという場合、ひょっとすると猫から逆輸入された耐性菌が関与しているのかもしれません。
ここで問題となるのが「薬剤耐性」です。複数の抗菌剤に対する感受性を調べたところ、どの薬に関しても人より猫の方が高い数値、すなわち薬が効きにくいという特性が認められました。詳細な理由は不明ですが、ペット向けの薬用シャンプーを使用したことで耐性がついた可能性が指摘されています。
- MIC
- MIC(最小発育阻止濃度)は抗菌薬の菌に対する抗菌力を示す指標。菌の発育を阻止する最低の抗菌薬濃度を指し、値が小さいほど試験管内における抗菌力が強いことを意味する。なお「MIC50」とは特定の抗菌薬に対するMICを100株で得た際、値の小さい方から数えて50番目のMICのこと。
Malassezia furfur(フルフル)が直接的に引き起こす病態としては癜風やマラセチア毛包炎、間接的な関与が疑われる病態としては脂漏性皮膚炎、乾癬、アトピー性皮膚炎などがあります(:Terui, 1999)。薬を使っているのになかなか治らないという場合、ひょっとすると猫から逆輸入された耐性菌が関与しているのかもしれません。
Malassezia pachydermatis
Malassezia pachydermatis(パチデルマティス)全体のMICと猫と人の両方から検出されたそれを比較した場合、テルビナフィンを除いて後者の方が抗菌剤の効きが悪い傾向が認められました。詳細な理由は不明ですが、猫から人あるいは人から猫へと宿主を渡り歩く過程で耐性やコロニー化能力を獲得した可能性が指摘されています。
Malassezia pachydermatisは猫の皮膚炎や外耳炎を引き起こす菌です。飼い主が不用意に猫の耳を触ってしまうと、せっかく治った外耳炎がなぜかぶり返すという状況も起こり得るでしょう。また子供、老人、免疫力が低下している人では皮膚炎、脱毛、細菌叢の乱れなどが引き起こされるおそれもあります。
Malassezia pachydermatisは猫の皮膚炎や外耳炎を引き起こす菌です。飼い主が不用意に猫の耳を触ってしまうと、せっかく治った外耳炎がなぜかぶり返すという状況も起こり得るでしょう。また子供、老人、免疫力が低下している人では皮膚炎、脱毛、細菌叢の乱れなどが引き起こされるおそれもあります。
イーストは手を入念に洗うことで簡単に落とすことができます。特に来歴不明の外猫を触ったときは、不測の菌を家庭内に持ち込まないよう必ず手を洗うよう気をつけましょう。