トップ2024年・猫ニュース一覧4月の猫ニュース4月26日

動物病院の騒音は猫に多大なストレスを与える

 「キャットフレンドリー」を売りにした動物病院以外では、多くの場合病室内にさまざまな騒音や雑音が響き渡っています。こうした音は人間でもうるさいと感じるレベルですので、猫に対しても当然大きなストレスを与えています。

院内の騒音による猫へのストレス

 調査を行ったのはポルトガルにあるリスボン大学獣医学部を中心としたチーム。大学付属の獣医教育学校にある手術区画を利用し、入院中の猫たちが騒音によってどの程度のストレスを受けているのかを前向きに調査しました。

調査対象と方法

 調査対象となったのは不妊手術(卵巣子宮切除)を受ける予定のメス猫33頭。平均年齢は0.9歳(6ヶ月齢~2.7歳)、平均体重は3.5kg(2.8~4.5kg)です。
 猫たちをランダムで4つのグループに分け、術後の騒音レベルを4段階に分けて入院中のストレス反応をモニタリングしました。
騒音レベルと目安
  • 比較対照(9頭)50 dB未満/静かな室内
  • グループ1(8頭)50~60 dB/静かな乗用車・普通の会話
  • グループ2(8頭)60~85 dB/電車や地下鉄の車内・交差点・セミの鳴き声・騒々しい街頭
  • グループ3(8頭)85 dB超/犬の鳴き声・騒々しい工場の中
 猫たちのストレスレベルはCat Stress Scoreから転用された簡易版のチェックリスト、血漿コルチゾール値、呼吸数、行動スコアと呼吸数から計算した最終ストレス値という指標で評価されました。またストレス評価は術後1時間、術後2時間、術後3時間という3つのタイミングで行われました(血漿コルチゾール値のみ術後1および3時間の2回だけ)。

調査結果

 Kruskal-Wallis検定(対応のない3つ以上のグループ間の差の有無を調べるときの検定)では、すべての観察点で最終ストレス値と呼吸数の中央値に「対照<G1<G2<G3」というグループ差が確認されました(※G=グループ)。 院内騒音にさらされた猫たちの最終ストレス値時間変移一覧グラフ 院内騒音にさらされた猫たちの呼吸数時間変移一覧グラフ  またANOVA(分散分析:異なるグループの平均値の違いを比較するために使用される統計手法)ではすべてのグループで血漿コルチゾール平均値が1→3で上昇し、「対照<G1<G2<G3」というグループ差が確認されました。 院内騒音にさらされた猫たちの血漿コルチゾール値時間変移一覧グラフ  さらに3群以上を比較したい場合に行われるPost-hoc test(事後検定)では以下のような組み合わせで有意差が認められました。「T1」は術後1時間の意味です。
事後検定による有意差
  • 呼吸数(DSCF)・T1地点:G1<G2
    ・T2地点:G2<G3
  • 血漿コルチゾール値(Bonferroni)・T1地点:CG<G1
    ・T3地点:CG<G1
 なおスピアマン順位相関を算出した結果、最終ストレス値と血漿コルチゾール値が0.09、呼吸数と血漿コルチゾール値が0.20となり、「ほとんど相関なし」と判定されました。一方、最終ストレス値と呼吸数との間では0.91という強い相関関係が認められました。
The Influence of Noise Level on the Stress Response of Hospitalized Cats
Girao, M.; Stilwell, G.;Azevedo, P.; Carreira, L.M.Vet.Sci. 2024, 11, 173. DOI:10.3390/vetsci11040173

院内の理想は「キャットフレンドリー」

 比較対照群の最終ストレス値は、すべての観察点において他のグループより有意に低いことが明らかになりました。唯一の例外はG1の術後1時間値と2時間値でしたが、値はやはり対照群<G1という勾配でした。騒音以外の環境変数は可能な限り統一されていましたので、グループ間におけるストレスレベルの格差を作り出したのは「騒音」である公算が大きいと言えます。

ストレスホルモンの変動パターン

 血漿コルチゾール値(平均値)に関しては騒音レベルに応じて値が上昇すると同時に、時間経過とともに上昇するパターンが認められました。生理学的ストレス反応に関わるHPA軸が脳内で強く活性化した可能性をうかがわせますが、統計差が出なかった理由としては区画内における不測の環境変数による干渉や、異なるストレスに対するホルモン反応が不十分だったこと(ホルモン生成に関わる物質や酵素の枯渇)などが想定されています。
 先行調査でもストレッサーに対する繰り返し曝露で猫たちの血漿コルチゾール値は有意に変化しなかったと報告されていますので、コルチゾールをストレスの指標にする際は慎重な解釈が求められるでしょう。

院内の騒音は最小限に

 比較対照群における最終ストレス値が顕著に低かったこと、および騒音レベルが高いほど最終ストレス値も高まる傾向が認められたことなどから、病院環境における「キャットフレンドリー」の重要性が浮き彫りとなりました。
 猫の習性に配慮したキャットフレンドリークリニック(CFC)の認定を受けていない動物病院では、以下のような騒音が平然と病室内に響き渡っているのではないでしょうか。
病院内の騒音いろいろ
  • 犬の鳴き声
  • 他の猫の鳴き叫ぶ声
  • 獣医師の話し声
  • 待合室の話し声
  • 交通騒音
  • 歯石を取るときの機械音
 上記した音は人間でもうるさいと感じるレベルですので、院内にいる猫がストレスを感じていないわけがありません。最終ストレス値と呼吸数は強く相関していることが示されましたので、簡易チェックとして猫のお腹の上下動をカウントすることは実践的に有用でしょう。
通院時のストレス管理は家を出る前から始まっています。猫が極度の病院嫌いにならないよう出来るだけの配慮をしてあげましょう。 猫のストレスフリー通院ガイド