猫の誤飲と摘出手術のリスク
調査を行ったのはアメリカにあるジョージア獣医教育病院のチーム。異物を誤飲した猫に対する摘出手術の成功率(失敗率)が何に左右されるかを確かめるため、大学に蓄積された医療データを基にした解析を行いました。
調査対象
調査対象となったのは、2009年8月から2021年8月までの期間中、大学付属病院において胃腸内異物の摘出手術を受けた猫たち。医療データを回顧的に参照した結果、最終的に56頭の猫たちが選抜されました。基本属性はオス40+メス16頭、平均年齢3.3歳、平均体重4.4kgです。
また異物の形状によって直線状異物(紐・毛糸・ティンセル etc)が32%(18頭)、非直線状異物(ボタン電池・おもちゃの破片・耳栓・クリップ etc)が68%(38頭)と分類されました。
また異物の形状によって直線状異物(紐・毛糸・ティンセル etc)が32%(18頭)、非直線状異物(ボタン電池・おもちゃの破片・耳栓・クリップ etc)が68%(38頭)と分類されました。
調査結果
誤飲事故から受診までの様子見期間は中央値で2日、再発症例は12%(7頭)でした。
症状
診察時に確認された主な症状は以下です(複数回答)。
誤飲時の症状(猫)
- 嘔吐=96%
- 食欲不振=80%
- 元気喪失=61%
- 下痢=7%
異物の発見場所
胃腸内で複数の異物が認められた割合は31%(18頭)で、そのうち16症例(89%)を直線状異物が占めていました。異物の発見場所は以下です。
異物の発見場所(胃腸)
- 空腸=44%(40頭)
- 十二指腸=24%(21頭)
- 胃=22%(20頭)
- 回腸=7%(6頭)
- 結腸=3%(3頭)
摘出方法
病院の時間外手術は67%(35頭)と過半数を占めていました。異物をいったん胃に移動してから胃切開で摘出した割合が29%(16頭)、結腸に移動して無切開で摘出した割合が11%(6頭)、複数箇所の切開を要した割合は21%(12頭)で、そのうち9症例(75%)を直線状異物が占めていました。
直線状異物と非直線状異物を比較した場合、前者において統計的に有意なレベルの格差(数値が上)が見られた項目は以下です。ASA評価値はアメリカ麻酔科学会が設定している指標で、1が軽症、5が重症を示しています。またマロピタントは鎮痛、抗不安、抗炎症効果をもつ薬剤です。
Hailey R Gollnick, Chad W Schmiedt , Janet A Grimes et al., Journal of Feline Medicine and Surgery(2023), DOI: 10.1177/1098612X231178140
直線状異物と非直線状異物を比較した場合、前者において統計的に有意なレベルの格差(数値が上)が見られた項目は以下です。ASA評価値はアメリカ麻酔科学会が設定している指標で、1が軽症、5が重症を示しています。またマロピタントは鎮痛、抗不安、抗炎症効果をもつ薬剤です。
直線状異物で数値↑
- BCS(体型指標)
- ASA評価値
- 手術時間
- 術後輸液治療
- マロピタント使用量
- 術部位感染症
- 術後抗生剤投与量
- 受診コスト
Hailey R Gollnick, Chad W Schmiedt , Janet A Grimes et al., Journal of Feline Medicine and Surgery(2023), DOI: 10.1177/1098612X231178140
誤飲が重症化する危険因子
犬でも猫でも誤飲物としては直線状異物より非直線状異物の方が多いとされていますが、直線状異物に限って比較した場合、犬(5~26%)より猫(33~61%)の方が割合は多いようです。直線状異物には猫が好きな紐や毛糸が含まれますので、誤飲してしまうリスクも増してしまうのでしょう。
先行調査で報告されている生存率に関しては、直線状異物の場合が犬で80%、猫で63%、非直線状異物の場合が犬で94%、猫で100%とされています。また針と糸を誤飲した猫を対象とした調査における生存率は84%で、術後の敗血症性腹膜炎を発症した場合の生存率が50%に激減するというデータもあります。
当調査内で死亡症例はありませんでしたが、特に直線状異物の危険性が浮き彫りとなりました。例えば以下のような負の連鎖が考えられます。
当調査内で死亡症例はありませんでしたが、特に直線状異物の危険性が浮き彫りとなりました。例えば以下のような負の連鎖が考えられます。
🚨胃腸内で複数箇所に散らばりやすい→切開箇所が多くなり麻酔時間や手術時間が延びる→術部位の感染症リスクが増加し、術後の抗生剤投与量が増える→術後の重点的な輸液治療が必要となり、マロピタント使用量も増える上記したほか、病院の時間外診療による夜間特別料金や施術・投薬コストの増加といった飼い主の側の負担増もありますので、特に直線状異物の誤飲事故には気をつけたいものです。
腹部触診で痛みの兆候が見られた割合は43%だったとされます。日頃からマッサージをする習慣を持ち、猫の異常にいち早く気づいてあげましょう。