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猫の遺伝子型とシュウ酸カルシウム尿石の発症リスク

 猫の上部尿路(腎臓+尿管)結石症の90%以上を占めるとされるシュウ酸カルシウム結石。400頭以上の猫を対象としたゲノム解析を通し、発症リスクに関連していると思われる遺伝子型が判明しました。

シュウ酸カルシウム結石のリスク遺伝子

 調査を行ったのはHill’s Pet Nutritionと複数の大学からなる共同チーム。ヒルズ社が管理する445頭のコロニー猫たちを対象とし、猫の上部尿路(腎臓+尿管)結石症の90%以上を占めるとされるシュウ酸カルシウム結石症の発症リスクを遺伝子レベルで解析しました。チームが着目したのは、人間において高シュウ酸尿症およびその結果としてのシュウ酸カルシウム結石との関連性が認められているAGXT2遺伝子の変異です。
AGXT2
アラニン-グリオキシル酸トランスアミナーゼ2(AGXT2)は肝細胞内の小器官に含まれる酵素の一種で、アラニンをアミノドナーとしてグリオキシル酸をグリシンに変換する際の触媒となる。欠損すると肝臓内でグリオキシル酸が蓄積し、最終的に高シュウ酸尿症を発症する。
 ゲノムワイド関連解析(GWAS)によってAGXT2遺伝子の領域にある一塩基多型(SNPs)を調べたところ、「AA」という遺伝子型が7%、「AG」が39%、「GG」が54%という比率でした。またアルギニンの脱アミノ化で生成される代謝産物「2-オキソアルギニン(2-OA)」、バリンの代謝産物として骨格筋から産生される「β-アミノイソ酪酸(BAIB)」、アルギニンが腎臓でメチル化されできる「ジメチルアルギニン(SDMA+ADMA)」に関しては、遺伝子型によって以下のような特徴が見られました。
代謝産物AA型AG型GG型
2-OA0.450.921.27
BAIB6.533.051.53
DMA1.261.011.00
 AGXT2の遺伝子型がAAの猫においては、一生涯のうちにシュウ酸カルシウム結石を生じるリスクがGG型に比べて2.515倍と推計されました。
 さらにAA型4頭、AG型9頭、GG型10頭を対象とし、通常食と療法食を28日間ずつ給餌したところ、遺伝子型にかかわらず試験フードの給餌によって尿中シュウ酸濃度はすべての猫で低下したといいます。
療法食
カルシウムの排出を促して炎症を改善し、シュウ酸カルシウム結石の形成リスクを低減することが期待できる成分を含んだドライフード。具体的にはベタイン0.5%、緑茶0.25%、フェヌグリーク(ハーブ・香辛料の一種)0.025%、トゥルシー(シソ科の植物)0.0015%
 GG猫においてのみCOT比の有意な減少が見られたことから調査チームは、AGXT2遺伝子がマイナーアレルであるAを含んでいる個体(GA/AA)に比べ、含んでいない個体(GG)は療法食によるシュウ酸カルシウム結石形成リスク低減の恩恵を受けやすいのではないかと推測しています。
COT比
尿中イオン化カルシウム濃度/結晶化が始まるまでに要したシュウ酸の総量
COT比の減少=結晶化に必要なシュウ酸の量が多い=結晶化しにくい
Cats with Genetic Variants of AGXT2 Respond Differently to a Dietary Intervention Known to Reduce the Risk of Calcium Oxalate Stone Formation.
Hall, J.A.; Panickar, K.S.;Brockman, J.A.; Jewell, D.E. Genes 2022, 13, 791. https://doi.org/10.3390/genes13050791

シュウ酸カルシウムと療法食の効果

 人間においてはグリコシル酸代謝の大部分をAGXT2活性に依存しているため、グリコシル酸の代謝が滞るとシュウ酸への酸化が促進され、結果として不溶性のシュウ酸カルシウム結晶が尿路内に堆積して結石を形成します。
 猫におけるシュウ酸カルシウム結石の遺伝的な背景はこれまで不明でしたが、今回の調査により人間の場合と同様、AGXT2遺伝子が関わっている可能性が高まりました。具体的には、ネコ染色体A1のAGXT2遺伝子(chrA1:212069607)に含まれるSNPsに、マイナーアレリである「A」があるときに発症リスクが高まるという関連性です。
 400頭超のコロニー猫を参考集団にすると、「AG(中リスク)」が39%、「AA(高リスク)」が7%ですので、およそ半数の猫は「GG」に比べてシュウ酸カルシウム結石ができやすいというイメージになります。
 療法食の給餌により、遺伝子型にかかわらず尿中のシュウ酸濃度が低下したことから、少なくとも試験で採用された結石予防フードにはある程度の効果があると推測されます。また尿pHに関しては給餌前6.3、療法食6.18、通常食6.11でした。これはシュウ酸カルシウムとストルバイトの両方ができにくいpHですので、療法食を与えた反動でストルバイトができやすくなるという副作用はないようです。
一見健康に見える猫の尿中にも、結石の原因となる核のようなものが数え切れないほど含まれていることが判明しています。個体差にはAGXT2の遺伝子型が関係しているかもしれません。 猫の尿中にはシュウ酸カルシウム結石の元が数え切れないほど含まれている