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犬や猫のアジ化ナトリウム中毒に注意!~新型コロナの検査キットに含まれる意外な有毒物質

 新型コロナウイルスの簡易検査キットが薬局で市販されるようになりました。その一方、中に含まれる検体液(アジ化ナトリウム)を誤飲することによる犬や猫の中毒事故が懸念されます。

アジ化ナトリウムの危険性

 新型コロナウイルスの大流行により、感染の有無を確認するための簡易検査キットが日本国内でも市販されるようになりました。それに伴い、犬や猫の誤飲事故が増える懸念があります。

アジ化ナトリウムとは?

 アジ化ナトリウム(sodium azide)とは試薬の防腐剤、園芸用殺菌剤、医薬品や農薬の原料、起爆剤などに利用される白色無臭の結晶。広い用途を持つ反面、細胞のミトコンドリア中にあるチトクローム酸化酵素の鉄イオン(Fe3+)と結合して活性を阻害することから毒物にも指定されています出典資料:製品安全性データシート )アジ化ナトリウムの結晶

検査キット中のアジ化ナトリウム

 普段の生活の中で接する機会は限られていますが、2021年の後半から新型コロナウイルス感染症の体外診断用医薬品(検査キット)の薬局販売が始まったことにより、一般家庭でも偶発的に接触してしまう危険性がにわかに高まりました。その理由は、国によって承認された数十種類の検査キットに含まれる検体液の多くに、上記「アジ化ナトリウム」が保存剤として使用されているからです出典資料:検査キットの承認情報)
 具体事例としては2022年1月、オーストラリアにある「Animal Poisons Helpline」(ペット動物の中毒相談センター)が、検体液を誤ってなめたり飲んだりしてしまったペットの飼い主による相談が急増したことを報告しています出典資料:DailyMail, 2022.1)。また英国の「Veterinary Poisons Information Service」では2022年1月末の時点で検査キット関連の相談を91件受け取り、そのうち4件でアジ化ナトリウムの誤飲が確認されたとのこと出典資料:Newsweek, 2022.1)
 幸いどのケースも大事には至りませんでしたが、体の小さいペットが大量の検体液を誤飲してしまった場合、「具合が悪くなった」だけでは済まないかもしれません。検査キットが使用前だろうと使用後だろうと、犬や猫がアクセスできないよう厳重に保管・処分する配慮が必要です。

検査キットは厳重に保管・処分!

 アジ化ナトリウムの急性毒性はラットを対象とした経口投与試験では半数致死量(LD50)が体重1kg当たり27mgとされており、皮膚、粘膜、眼に対する刺激性も確認されています出典資料:製品安全性データシート )。また人間における致死量にはばらつきがありますが、最も少ない死亡例から算出した場合、体重1kg当たり14~16mgと推計されています出典資料:日衛誌, 1999)

アジ化ナトリウムの悪用例

 この物質は保存剤や防腐剤としてより、毒物としてニュースで取り上げられる機会の方が多いかもしれません。以下は一例です出典資料:アジ化ナトウム集団中毒症例の検討)
アジ化ナトリウム混入事件
  • 1998年8月新潟市の木材加工会社でお茶のポットにアジ化ナトリウムが混入する事件が発生。犯人は会社のお金を使い込んだ元男性社員だった。
  • 1998年10月津市上浜町にある三重大学の作物学研究室で、電気ポットにアジ化ナトリウムが混入する事件が発生。教員2人と学生4人が動悸や目まいなどの症状を訴えて手当てを受けた。
  • 1998年10月愛知県岡崎市にある国立共同研究機構(当時)の休憩室で、ポットにアジ化ナトリウムが混入する事件が発生。助教授、大学院生、事務員ら合計4人が体調不良を訴えて入院した。
  • 1998年10月京都市にある国立療養所(当時)宇多野病院で、ポットにアジ化ナトリウムが混入する事件が発生。犯人は病院の元内科医長・石田博と判明し、後に懲役1年4月の実刑判決が確定した。
 1998年に異常なペースで続発した毒物混入事件を受け翌1999年1月、アジ化ナトリウムの濃度が0.1%を超える場合は毒物劇物取締法で毒物として扱われることとなりました出典資料:毒物及び劇物指定令等の一部改正について)

犬や猫における安全性

 数々の毒物混入事件が示すように、摂取量を間違うとアジ化ナトリウムの毒物としての側面が現れてきますので注意が必要です。新型コロナウイルスの簡易検査キット中の検体液には有毒のアジ化ナトリウムが含まれる  含有量まで明記されたデータシートが少ないため具体性に欠けますが、市販されている検査キットの検体液に含まれるアジ化ナトリウムは少なくとも人体に影響がないレベルだと推測されます。またラットを対象として算出したLD50=27mgを元にし、安全係数を100とすると犬や猫における体重1kg当たりの許容量は0.027mgですので、検体液をコップでがぶ飲みしない限り致死量に達することはないでしょう。ちなみに検体液の標準的な容量は3mL、アジ化ナトリウムの濃度は0.09%程度です出典資料:検査キットの承認情報)

飼い主の注意点

 比較的安全とはいえ先述したとおり、誤飲したペットが体調不良に陥ったという逸話的な報告が少数ながらありますので油断はできません。「こんなものまさかなめるはずないだろう」という思い込みを捨て、検査キットは犬や猫が絶対届かない場所に厳重に保管するのが鉄則です。特に使った後の検体液をしっかり廃棄しないままテキトーにゴミ箱に投げ捨てておく状況が一番危険だと考えられます。
 以下は新型コロナウイルス簡易検査キットの家庭における一般的な使用法です。検体液だけでなく反応カセットの方にも0.05%程度のアジ化ナトリウムが含まれますのでご注意ください。また刺激性を有していますので皮膚や粘膜に触れないようにしてください。 元動画は→こちら