ネジ誤飲による猫の亜鉛中毒
報告を行ったのはオーストラリア・シドニー大学獣医学部。1週間に渡る食欲不振と体重減少を主訴とし、メスの短毛種(3歳)が地元の動物病院を受診しました。血液検査値に異常は見られず、生化学検査値ではALTとALPの軽微上昇が見られた以外、目立った項目はなかったといいます。確定診断が得られないまま輸液治療と投薬(抗生物質・抗てんかん薬・制吐剤・抗うつ剤・鎮痛剤)が行われた後、経過観察のため24時間で退院しました。
しかし退院から5日後、食欲不振が改善しないため再受診。抗不安薬やステロイド系抗炎症薬で食欲の回復を図ったもののやはり奏効せず、気休めに胃腸の粘膜保護薬を処方したタイミングでようやく大学の緊急診療施設へ回されました。
血液検査の結果を待つ間、胃酸抑制薬や粘膜保護薬が処方されましたが、腹部エックス線と内視鏡検査は飼い主の経済的理由で見送られたといいます。受診から2日後、やはり食欲が回復しなかったため、全身麻酔下で内視鏡を用いた十二指腸の視認検査が行われました。この時に見つかったのが、家具の組み立てに用いられるネジ。胃の幽門部に引っかかっており、周囲の胃壁にはびらん(欠損部が表皮内へとどまったタイプの皮膚欠損病変)が発生していました。 鉗子を用いて即時除去後、食道給餌チューブが設置され、投薬と輸液治療が開始されました。その結果、2日後には食欲が回復、6日後にはチューブが取り外されるまで元気になったと言います。
念の為ネジの組成を調べたところ、主成分は亜鉛で、その他アルミニウム、胴、鉄、ニッケルなどが検出されました。入院時の血液サンプルが示した血清亜鉛濃度は参照値を遥かに上回る448μmol/L。最終的には「ネジ誤飲による亜鉛中毒」との確定診断が下りました。
なお退院から7週間後、猫の食欲はすっかり元に戻り、体重は800g増の3.2kgまで回復、BSCも3→5に増加したといいます。初診で上昇が見られたALTとALPも正常範囲内に戻り、それ以上の大事には至りませんでした。 Zinc toxicosis in a cat associated with ingestion of a metal screw nut
Journal of Feline Medicine and Surgery(2022), Jane Yu, Elizabeth Jenkins, Juan M Podadera, Nicholas Proschogo, Ringo Chan, Lara Boland, DOI:10.1177/205511692211364
しかし退院から5日後、食欲不振が改善しないため再受診。抗不安薬やステロイド系抗炎症薬で食欲の回復を図ったもののやはり奏効せず、気休めに胃腸の粘膜保護薬を処方したタイミングでようやく大学の緊急診療施設へ回されました。
血液検査の結果を待つ間、胃酸抑制薬や粘膜保護薬が処方されましたが、腹部エックス線と内視鏡検査は飼い主の経済的理由で見送られたといいます。受診から2日後、やはり食欲が回復しなかったため、全身麻酔下で内視鏡を用いた十二指腸の視認検査が行われました。この時に見つかったのが、家具の組み立てに用いられるネジ。胃の幽門部に引っかかっており、周囲の胃壁にはびらん(欠損部が表皮内へとどまったタイプの皮膚欠損病変)が発生していました。 鉗子を用いて即時除去後、食道給餌チューブが設置され、投薬と輸液治療が開始されました。その結果、2日後には食欲が回復、6日後にはチューブが取り外されるまで元気になったと言います。
念の為ネジの組成を調べたところ、主成分は亜鉛で、その他アルミニウム、胴、鉄、ニッケルなどが検出されました。入院時の血液サンプルが示した血清亜鉛濃度は参照値を遥かに上回る448μmol/L。最終的には「ネジ誤飲による亜鉛中毒」との確定診断が下りました。
なお退院から7週間後、猫の食欲はすっかり元に戻り、体重は800g増の3.2kgまで回復、BSCも3→5に増加したといいます。初診で上昇が見られたALTとALPも正常範囲内に戻り、それ以上の大事には至りませんでした。 Zinc toxicosis in a cat associated with ingestion of a metal screw nut
Journal of Feline Medicine and Surgery(2022), Jane Yu, Elizabeth Jenkins, Juan M Podadera, Nicholas Proschogo, Ringo Chan, Lara Boland, DOI:10.1177/205511692211364
誤飲予防のため室内の見直しを
猫における亜鉛中毒の目安ははっきりしていません。血清濃度の参照値としては0.5~1.1ppm(7.65~16.8μmol/L)、中毒になるボーダーラインとしては5ppm(76.5μmol/L)といった報告があります。
なぜ診断が遅れたのか?
今回の症例では発症から大学の緊急診療施設に回されるまでに2週間を要しました。ここまで遅れた理由は、初診でも再診でも腹部エックス線検査をスキップしたからだと考えられます。理由は「飼い主の経済的事情」と言及されていますが、診断が遅れたことによる無駄な投薬、通院ストレス、猫が味わう苦痛を考慮すると、たかだか数千円をケチる理由がよくわかりませんね。
初診時に超音波(エコー)検査は行われていましたが、施術者の技術の問題かガスの問題か、異物の大きさの問題か、胃内にあるネジが見落とされてしまいました。もし不透過性の異物を視認しやすいエックス線検査を並行して行っていれば、この時点でネジが見つかっていた可能性が高いと考えられます。調査チームも、原因不明の胃腸障害では誤飲誤食の可能性を考慮し、エックス線検査を行うべきであると忠告しています。
過剰な亜鉛は肝臓と膵臓を障害
今回の患猫は血清亜鉛濃度が448μmol/Lという極端に高い値を示していました。犬における症例や猫を対象とした給餌試験では、亜鉛の過剰摂取によって膵臓に病変が生じることが確認されており、今回の症例でも膵臓に軽度炎症の徴候が確認されました。長期化すると線維化して永続的な機能不全に陥りますので、早期発見・早期治療が肝要になります。
亜鉛は真鍮(銅と亜鉛の合金)を主な材質とするネジのほか、空気亜鉛電池(ボタン電池の一種)、五円硬貨などに用いられています。いずれも室内に放置しやすく、猫が誤飲してしまうリスクが高いものですので、部屋の中から危険物を一掃しておきましょう。