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猫は基本的にただ食いが好きなニート~コントラフリーローディングを見せない特異な動物

 AAFP(全米猫医学界)が公開している猫向けの給餌ガイドラインでは、精神的・肉体的な刺激を増やすためパズルフィーダーの導入を推奨しています。しかし猫たちのリアクションを調査したところ、必ずしもすべての猫が楽しんでいるわけではないことが判明しました。

猫のコントラフリーローディング

 調査を行ったのはカリフォルニア大学デービス校の獣医学チーム。人間の管理下で飼育されている動物の多くで確認されている「コントラフリーローディング」と呼ばれる現象が、果たして猫にもあるかどうかを確認するため、一般家庭で飼育されているペット猫を対象とした観察が行われました。
コントラフリーローリング
自由に入手できる餌と、何らかの努力を要さないと入手できない餌があるとき、摂食量の半分以上を後者から得る状態のこと。たた食い(freeload)の対極にあることから「contrafreeloading」と呼ばれる。

調査方法

 調査に参加したのは臨床上健康な20頭のペット猫たち。オス11頭、メス9頭、平均年齢5.1歳、全頭が不妊手術済みの完全室内単頭飼いという基本属性です。
 普通のお皿と市販されているパズルフィーダーの両方から餌を食べることに慣らせた上で双方に同じ量の餌を盛り、30分間猫の前に同時に提示した時、自発的にどちらから餌を食べようとするかが焦点となりました。 エサを自由に取れるお皿と努力を要するパズルフィーダーでは猫たちは前者を選ぶ

調査結果

 馴化期間中、パズルフィーダーからの摂食を拒んだ3頭を除いてデータを解析したところ、ほぼ全ての猫が両方から餌を食べたものの、パズルフィーダーから食べる量が多かった猫は1頭もいなかったといいます。8頭に関してはパズルフィーダーから食べる量が10%未満にとどまり、そのうち2頭に関しては一切食べなかったとも。
 またコントラフリーローディングの発生頻度や持続時間と猫の性別、年齢、パズルフィーダーの経験値とは無関係であることが判明しました。同時に猫の活動レベルとの間にも関連性は確認されませんでした。
 唯一確認されたのはお皿から食べる量とパズルフィーダーから食べる量との間に見られた正の関係性だけで、平たく言うと「お皿から食べる量が多い猫ほどパズルフィーダーから食べる量も多い」というものです。
 調査チームは猫たちの摂食比率に着目し、4頭をコントラフリーローダー、5頭をややコントラフリーローダー、8頭をフリーローダーと便宜上分類しましたが、古典的な定義(=努力して食べる量が全体の半分以上)に従った場合のコントラフリーローダーは1頭もいないとの結論に至りました。
Domestic cats (Felis catus) prefer freely available food over food that requires effort
Delgado, M.M., Han, B.S.G., Bain, M.J., Animal Cognition (2021)., DOI:10.1007/s10071-021-01530-3

猫は基本的にニート

 コントラフリーローディングは人間のみならず数多くの動物種で観察されています。基本的には働こうとしない猫は、どちらかといえば少数派に属する動物のようです。

働かざるもの食うべからず

 必要もないのにわざわざ労力を提供してエサにありつくコントラフリーローディングと呼ばれる現象は、捕獲下にある数多くの動物で観察されています。一例を挙げるとチンパンジー、マカク、マントヒヒ、ニワトリ、ヤケイ、ハト、オウム、ヨウム、グリズリー、マレーグマ、タテガミオオカミ、アフリカライオン、スマトラトララット、キリン、ブタなどです。実は人間においても確認されており、キャンディーや現金といった報酬を得るため、若い世代ほどレバーを操作する手間をかける傾向が強かったと報告されています。
 エネルギーの無駄遣いとも思えるこうした行動に惹かれる理由としては「退屈しのぎで刺激を求めている」「探索行動の一種として情報収集や環境の把握につなげている」「野生環境に暮らしている時の採餌行動(foraging behaviour)を再現している」などが想定されていますが、はっきりした適応的な意味はわかっていません。人間に限って言うと「働かざるもの食うべからず」ということわざに象徴されるように、ただ食いに抱く罪悪感が労働のモチベーションになっている可能性はあります。

猫はかなり例外的な動物

 AAFP(全米猫医学界)の給餌ガイドラインではパズルフィーダーの導入がアドバイスされており、「provides mental and physical stimulation」(心身への刺激を提供する)と表現されています。しかしどうやら説得力のある科学的な裏付けがあるわけではないようです。 Feline feeding programs: Addressing behavioural needs to improve feline health and wellbeing  例えば1970年代初頭に6頭の猫を対象として行われた古典的な簡易調査がありますが、この調査でもやはりコントラフリーローディングの証拠は見つからなかったとされています出典資料:Koffer, 1971)。今回行われた最新の調査でも、パズルフィーダーから食べる量がお皿から食べる量を上回った猫が1頭もいませんでしたので、「心身への刺激を提供する」とは言えないでしょう。
 現時点では杓子定規にコントラフリーローディングを正解と思い込むのではなく、個々の猫に合わせて採用したりしなかったりという柔軟性があってもよいと思われます。訓練中に3頭の猫が脱落し、観察実験中にも2頭の猫がパズルフィーダーからの摂食を拒絶しました。太り気味の猫にとってはダイエットにつながるかもしれませんが、そうでない猫にとっては単なる兵糧攻めになりますので、飼い主による見極めが重要です。
 ちなみに猫たちの多くは満腹状態であるにも関わらず狩猟行動を行う「満腹狩り」という行動を見せます。基本的に体を動かさずにただ食い(freeload)することが好きな猫の性質から考えると、無駄なエネルギーを消費する満腹狩りは矛盾しているように見えますが、狩猟行動に関しては損得勘定ではなく条件反射で否応なく体が動いてしまうものと考えられます。
2016年にはアメリカ国内にある複数の大学により猫向けのパズルフィーダー導入ガイドラインが公開されています。猫の食事量をしっかり把握し、極端に減った場合は「向いていない」と諦めて不採用にしましょう。猫の食生活へのパズルフィーダー導入ガイドライン