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猫におけるカンナビジオール(CBD)の効果と副作用~サプリやオイルに含まれてるけど安全?合法?

 猫向けのサプリやオイルに含まれているカンナビジオール(CBD)。カナビス(大麻)から抽出される成分であることから怪しげな響きを持っていますが、そもそも日本国内で合法なのでしょうか?また猫に安全なのでしょうか?

カンナビジオール(CBD)とは?

 カンナビジオール(Cannabidiol, CBD)とはカナビス(カンナビス, 大麻, あさ)に含まれる生理活性物質の一種。カナビスはアサ科アサ属の一年生植物で人類とは1万年以上の付き合いがあり、茎や皮に含まれる繊維は工業(麻紙・麻布)、実に含まれる油は医療や娯楽に用いられます。 アサ科の植物カナビス(Cannabis sativa)  カナビスに含まれる成分は「カナビノイド」と総称され、100種類以上が確認されています。代表的な成分は以下です。
代表的なカナビノイド
  • THCテトラハイドロカナビノール/カナビスの樹液腺から分泌される精神に働きかける主成分で、リラクゼーションや多幸感を引き起こす。煙にして吸引すると分子が血流に入り、脳内(大脳皮質・小脳・大脳基底核)にある特殊なカナビノイド受容器と結合して作用を発揮する。
  • CBDカナビジオール/神経に働きかけて不安を和らげるとされているがエビデンスレベルは低い。副作用としては疲労感、下痢、食欲の変化、眠気や不眠などが報告されている。
 CBDはTHCとは違い向精神作用を持たないこと、および体に有益と思われる生理作用を有していることなどから、医療的な利用が人医学の分野でも獣医学の分野でも期待されています。日本国内でも猫向けのサプリメントやオイルがすでに売られていますが、そもそも合法なのでしょうか?また猫に与えて大丈夫なのでしょうか?

CBDの安全性と副作用・猫編

 CBDを医療目的で使用することを視野に、猫を対象としたいくつかの安全性試験が行われています。結論を簡潔にまとめると重大な有害反応を引き起こすことはないものの、犬に比べて肝臓への影響が大きいため、実用化する前にさらなる調査が必要な段階となります。

カナダの安全性調査

 カナダの調査チームは20頭の臨床上健康な猫をランダムで4頭ずつからなる5つのグループに分け、偽薬(プラセボ)を含めた5種類のオイルを猫に給餌して体にどのような変化が生じるかを観察しました。猫たちの内訳はオスメス同数、1~1.2歳、3~6kgで、給餌されたオイルは以下です。
  • CBD+中鎖脂肪酸オイル(18.3mg/mL)
  • THC+中鎖脂肪酸オイル(25.1mg/mL)
  • CBD(8.0mg/mL)+THC(5.2mg/mL)+ひまわり油
  • 中鎖脂肪酸オイルのみ
  • ひまわり油のみ
 CBDに関しては体重1kg当たり1日2.8mgからスタートして1週間ごとに給与量を増やし、最終11週目には30.5mgになりました。THCは日本国内での使用が認められていませんので、簡潔にCBDの試験結果だけピックアップすると以下のようになります。
猫に対するCBDの影響
✅調査期間中に観察された有害反応はすべて軽度(無症状~医療的介入を必要としない軽い不調)の範疇だった
✅CBDで多く観察された有害反応(嘔吐・下痢)はCBDそのものより中鎖脂肪酸オイルによるものである可能性が高い
✅流涎(よだれ)は味や臭いに対する忌避反応の可能性が高い
✅CBDの投与により7段階目(7週目)まで身体徴候や検査値に変化が見られなかった
✅試験開始前、最終投与から24時間後、最終投与から7日後のタイミングで測定した肝臓の検査項目(ALP、ALT、AST、GGTP、総ビリルビン値)はすべて正常範囲内だった
✅9週目の投与試験から1→2→3→4→6→24時間後のタイミングで血漿CBDおよびその代謝産物である7-COOH-CBDの濃度を測定した結果、CBDの最高濃度は3時間後の236.0±193.0ng/mL、7-COOH-CBDのそれは6時間後の49.0±21.1/mLだった
 人間における難治性てんかん薬としてFDAの承認を受けた「Epidiolex」は体重1kg当たり1日5~20mgを推奨量としています。それに対し猫を対象とした当調査においては30.5mg/kgまで許容範囲である可能性が示されました。
Safety and tolerability of escalating cannabinoid doses in healthy cats
Justyna E Kulpa, Lina J Paulionis, Graham ML Eglit, Dana M Vaughn, Journal of Feline Medicine and Surgery(2021), DOI:10.1177/1098612X211004215

フロリダ大学の安全性調査

 フロリダ大学獣医学校の調査チームは臨床上健康な猫8頭(平均4.5歳/平均4.2 kg)を対象とし、CBD(カンナビジオール)とCBDA(カンナビジオール酸)を半分ずつ含んだ魚油ベースのオイルを給与してどのような変化が生じるかを観察しました。体重1kg当たり2mgを1日2回×84日間に渡って給与したところ、以下のような結果になったといいます。
猫に対するCBDの影響
  • 半減期は平均1.5時間
  • Cmax:43 ng/mL
  • Tmax:3.5時間
  • 好酸球数がやや減少したほか平均赤血球容積に変化はなし
  • 1頭でだけALTの上昇が見られたほか血清生化学検査値は参照範囲内
  • 8週目および12週目でのみ、BUNおよびトリグリセリドの顕著な低下が確認された
  • 血清クレアチンキナーゼ活性は4、8、12週目でのみ減少を見せた
 有害反応は合計1344の観察ポイント中、以下のような割合で見られました。
CBDによる副作用・有害反応
  • なめる=35.4%(476回)
  • 頭を振る=25.2%(339回)
  • うろうろ歩き回る=11.1%(150回)
  • 食べる・チューイング=6.5%(88回)
  • えづく=2.1%(29回)
  • 嘔吐(食べ物・胆汁・毛玉)=1.1%(15回)
  • 流涎・泡を吹く=1.2%(16回)
  • ジャンプ=0.45%(6回)
  • 非協力的=0.4%(5回)
  • しかめっつら=0.4%(5回)
 食事量や体重(+0.06 kg/+1.04%)に変化は見られず、身体検査でも行動観察でも異常は確認されませんでした。おおむね安全ではあるものの、1頭で見られたALTの上昇が肝細胞の障害を示している可能性があるため、すべての猫に対する安全性を保証することは現時点ではできないとの結論に至っています。
Single-Dose Pharmacokinetics and Preliminary Safety Assessment with Use of CBD-Rich Hemp Nutraceutical in Healthy Dogs and Cats
Kelly A. Deabold, Wayne S. Schwark, Lisa Wolf, Joseph J. Wakshlag, Animals 2019, 9, 832; DOI:10.3390/ani9100832

日本の安全性調査

 ヤマザキ動物看護大学大学院のチームは一般家庭で飼育されており、葛藤や恐怖に関連した行動、常同行動、自傷行動などの問題行動を示す4頭の猫を対象とし、CBDをさまざまな濃度で8週間に渡って給与したときの変化を観察しました。CBDの給餌法は1頭が液体(0.6~1.2mg/kg/日)、3頭はおやつ(1.2~1.7mg/kg/日)経由です。その結果、給餌試験中に有害事象(あらゆる好ましくない獣医療上の状態)は報告されなかったといいます。
カンナビジオール (CBD) の犬および猫に及ぼす行動学的影響:オープン臨床試験
日本補完代替医療学会誌 第18巻 第1号 2021 年7月:37-42

猫に対するCBDの効果

 猫に対する健康増進効果を検証した調査報告は、世界的に見ても2021年時点ではほぼありません。
 唯一、上で紹介した日本の調査では猫の行動を試験開始前(0日目)→2週後(14日目)→4週後(28日目)→8週後(56日目)に飼い主の主観ベースで評価してもらったところ、3例(75%)では4週後に攻撃行動が減少したといいます。また1頭の猫(3歳)は投与前より活動量が低下したため投与量を半減したところ、飼育者に対する猫の親和的な行動が取り戻されたとも。同居猫との不和によってうつ状態になっていた猫は、胸部に慢性的な舐性皮膚炎が認められていたものの、投与期間中に舐める行動がなくなり、患部に発毛が認められたそうです。ちなみにすべての猫に共通した変化は「毎日よく眠るようになった」という項目でした。
 ただしこれらはすべて飼い主による主観的感想であり、また盲検化(※観察者が投与されたかどうかを知らない状態)もされていないため、いわゆるプラセボ効果(※効果があるに違いないという思い込み/効果があってほしいという期待)による結果の偏りは否定できません。
 カンナビノイド受容体は中枢・末梢神経系および免疫系の細胞に分布しており、生体内で作られる内因性カンナビノイドがそれらに結合すると、複雑なメカニズムを通して痛みや炎症を軽減することが示されています。植物性カンナビノイドも同じ受容体に結合しますので、理論上は同様の作用を引き起こす可能性がありますが、猫における実証データによる裏付けはまだありません。

CBDと日本の法律

 日本においてCBDは合法と違法の境目にあります。概要は以下で「○」は合法、「×」は違法の意味です。
CBDの法的な位置づけ
  • 合成CBD:○
  • 茎又は種子由来:○
  • 茎又は種子以外由来:×
  • THCを含む:×
 2021年5月14日に開催された「大麻等の薬物対策のあり方検討会」において厚生労働省は、「カンナビジオール(CBD)」を抽出する際の部位規制を撤廃する方針を示しました。大麻取締法が改正された場合、現在は違法とされる「茎又は種子以外由来のCBD」も合法となりますが、2021年11月時点ではまだ違法です。

大麻取締法とCBD

 大麻取締法により大麻(カナビス)の茎や種子以外の部位からCBDを抽出した場合は違法になります。またTHCは麻薬及び向精神薬取締法で「麻薬」として規制されていますので、自然抽出だろうと合成だろうと少しでも含まれていたら違法になります。つまり合成CBDもしくは大麻の茎や種子から抽出したCBDが、THCを含まない場合に限り合法的に使用できるということです。
 海外においてはTHCが条件付きで認められていることがあります。例えば米国においては乾燥重量中0.3%未満、EUにおいては0.2%未満であれば合法です出典資料:Briyne, 2021)
 一方、日本国内ではゼロポリシーで濃度の高低に関わらず違法扱いですので、CBDを買ったつもりが、微量だけ配合されたTHCのせいで輸入できなかったり、本人にその意図がなくてもいわゆる密輸した形になる危険性が大いにあります。リンク先は実例です。
 海外の製品を輸入するにあたっては厚生労働省の麻薬取締部にあらかじめ必要書類を提出し、違法性がないかどうかのチェックを受けることになっています。ただし提出された資料に基づいて厚生労働省が「大麻に該当しない」と回答した場合であっても、輸入の際の税関若しくは厚生労働省の検査又は国内における検査でTHC(テトラヒドロカンナビノール)が検出された場合等には、「大麻に該当する」ものを輸入したものとして大麻取締法に基づき処罰を受ける可能性があります。 CBD 製品の輸入を検討されている方へ  例えばペット向けCBDとして国内で普通に販売されている海外製のチンキ(※成分分析表未記載)を調べてみたところ、微量のTHCが含まれていました。輸入代行企業は「厚生労働省・税関に事前連絡をし、法律に接触しない事を確認して」と明言していますが、税関などにおける含有成分の抜き打ち分析をたまたますり抜けただけではないでしょうか。

薬機法とCBD

 CBDは医薬品ではありませんので、健康増進効果を露骨に広告文に載せると薬機法違反になります。例えば「てんかんを抑える」「関節炎の痛みを軽減する」「皮膚炎症状を緩和する」「がんの増殖を抑制する」などです。
 農林水産省が公開している「動物用医薬品等の範囲に関する基準について」およびペットフード公正取引協議会が公開している「ペットフード等の薬事に関する適切な表記ガイドライン」によると、上記したような表現はすべて「医薬品的効能効果を標ぼう」に該当しますので、薬機法の第68条「未承認医薬品の広告」違反となる可能性があります。また同法第66条では「虚偽・誇大広告の禁止」が明記されていますので、適切な方法によって実証されていない学術データだけを都合よく引用しているような場合もやはり薬機法違反となるでしょう。
 日本の通販サイトを確認しましたが、露骨に医療的な効果を標榜している製品はさすがにないようです(2021年11月時点)

THCによる副作用・有害反応

 CBDは比較的安全な成分だと考えられます。しかし成分分析表を添付していない怪しげな輸入製品を使った場合、中にひっそり含まれている微量のTHCによって思わぬ副作用や有害反応が引き起こされる危険性を否定できません。念の為猫におけるTHC(カナビノイド)中毒の対処法を以下に記載しておきます出典資料:Briyne, 2021)
カナビノイド中毒の症状
  • 異常な眠気
  • 運動失調
  • 沈うつ状態
  • 足元がふらつく
  • 異常な興奮状態
  • 意味もなく叫ぶ
  • 瞳孔散大
  • 目の充血
  • 嘔吐
  • 流涎
  • 音や光に過敏
  • 粗相(おしっこ)
  • 徐脈・頻脈
  • 低体温
 カナビノイドは血液や尿中の濃度が低いため、診断に際しては検査よりも飼い主への聞き取りが重要になります。カナビノイドに特効薬はありませんので、誤飲誤食した場合のオーソドックスな治療法が行われます。
猫においては長期的に与えた場合の肝臓への負担が十分に検討されていません。明白な健康増進効果も証明されていませんので、プラスよりもマイナスの方が大きいという事態が容易に起こりえます。猫が異物を飲み込んだらどうする?