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利き手を持つ猫は両利きの猫よりも器用か?

 さまざまな動物種において、体のどちらか一方を優先的に使う側性(Laterality)は認識力や運動能力の向上に関連していることが確認されています。では利き手を持つ猫と両利きの猫を比べた場合、問題解決能力に差はあるのでしょうか?

猫の利き手と問題解決能力

 調査を行ったのはトルコにあるアンカラ大学獣医学部のチーム。一般家庭で飼育されている臨床上健康な41頭のペット猫を対象とし、利き手の有無が問題解決能力にどのような影響を及ぼしているのかを検証しました。猫たちの内訳はオス猫22頭(うち13頭去勢済み)、メス猫19頭(うち10頭避妊済み)、品種はバラバラで年齢は6ヶ月齢~14歳です。なお猫の前肢は正確には「前足」ですが、便宜上「手」と表現してあります。

テスト1

 ボードの上に等間隔でカップを4つ配置し、下部を蝶番(ちょうつがい)で固定しました。固定位置はすべて共通ですので、ある一定の方向に押しさえすればパカッと開く構造になっています。猫の利き手(Laterality=側性)を明らかにするためのテストその1
 観察の結果、全体の側性インデックスは限りなくゼロに近い「-0.08」で、明白な左右への偏りは確認できなかったといいます。ここで言う「側性インデックス」とはカップに対する最初の働きかけで用いられた手を数値化したもので、すべての猫が右手を用いた場合は「+1」、逆に左手を用いた場合は「-1」になります。
 一方、絶対側性インデックスを計算したところ、個体レベルでも全体レベルでも側性がある可能性が示されました。「絶対側性インデックス」とは、最初に用いた手だけでなく、テスト中に使用された全ての手をカウントして数値化したもので、側性インデックスの場合と同様、すべて右手を用いた場合は「+1」、逆に左手を用いた場合は「-1」になります。

テスト2

 ボードの上に等間隔で蓋付きのカップを4つ配置し、動かないように下部を固定します。フタが開く方向はバラバラですので、猫たちが中にあるおやつを取り出すためには試行錯誤しながら様々な方向に動かさなければなりません。猫の利き手(Laterality=側性)を明らかにするためのテストその2
 観察の結果、フタ開けるときの側性インデクスが「+0.04」、カップの中にあるおやつを取り出すときのそれが「+0.06」、全体平均が「-0.12」で、明白な左右への偏りは確認できなかったといいます。
 一方、個体レベルの絶対側性インデックスを計算したところ、フタを開けるときの平均が「+0.35」、おやつを取り出すときのそれが「+0.61」、全体平均が「+0.35」だったことから、個体レベルでは安定した側性を有している可能性が示されました。

総合評価

 テスト1とテスト2を通じ、反応時間(=4つすべてのフタを開けるまでに要した時間、もしくは興味を失うまでの時間)に関しては利き手を持つ猫と両利きの猫との間で違いは確認できなかったといいます。一方、側性インデックスの高い猫(=右か左どちらか一方の手を優先的に用いる傾向がとりわけ強い猫)では、おやつをゲットするまでに手を動かす回数が少なかったことから、利き手が猫の問題解決能力を高めているのではないかと推測されています。人間風に言い換えると「手先が器用」となるでしょうか。
 またテスト1でフタを開けた回数に関し、手から使い始めた猫の成績が3.83回だったのに対し、頭から使い始めた猫のそれは3.07回と、明白な違いが確認されました。このことから右か左かを問わず、頭よりも手を優先的に使う猫の方が問題解決能力が高いのではないかと推測されました。
The relationship between problem-solving ability and laterality in cats
Behavioural Brain Research Volume 391, 5 August 2020, Sevim Isparta, Yasemin Salgirli Demirbas, et al., DOI:10.1016/j.bbr.2020.112691

猫に利き手の偏りはない

 人間においては9割近くの人が右利きという極端な偏りがあります。猫の利き手に関しては、ある調査では左利きが多いと報告されている一方、別の調査では右利きが多いと報告されるなど、意見が一致していません。さらに猫の側性に関して行われた総合レビューでは「個体レベルで側性は存在しているものの、全体的に見ると右か左のどちらか一方に偏っているわけではない」とされています。こうした報告間の違いには、調査対象数の少なさや側性を決定する際の基準の違いなどが影響しているものと考えられています。例えば「歩き始めで最初に振り出す足」をカウントするのか、「おやつを取る時最初に用いる手」をカウントするのかによって、結果が異なるなどです。
 今回の調査では「猫に利き手自体はあるものの、左右どちらか一方に偏ってはいない」という事実が追認されました。

できる猫は頭よりも手を動かす

 偶然の発見として「頭を使いたがる猫よりどちらか一方の手を使いたがる猫の方が問題解決能力が高い」という可能性が示されました。この違いには個体レベルで確認された側性が影響しているのではないかと推測されています。
 側性の有用性に関しては過去にさまざまな動物を対象として行われた複数の調査で報告されています。例えば側性を持つヒヨコと持たないヒヨコに対してマルチタスク課題を課したところ、側性を有するヒヨコの方は餌を見つけると同時に捕食者への警戒心を保つという器用さを見せたなどです。同様の結果はマーモセットを対象とした実験でも確認されています。さらに格子状の模様を視覚的に弁別するハトを対象とした試験では、側性を有するハトの方が高い認知能力を示したとの報告もあります。

手先が器用なのは良し悪し

 手よりも先に頭を使う猫に関しては、キャットフードを与えられる生活で狩猟の必要性がないため手の使用頻度が減り、もっぱら頭を使うようになったのではないかと考えられています。「問題解決能力が低い」という表現はネガティブな響きを持っていますが、完全室内飼いの猫においては必ずしもデメリットばかりではありません。 前足を使って器用にレバー式ドアを開く猫  例えば手先が器用な猫の場合、レバー式のドアノブを開けてしまうかもしれません。また戸棚を自力で開けて中にストックしていたちゅ~るを見つけてしまうかもしれません。テーブルの上にうっかり綿棒ケースを置いておくと、まず間違いなく床の上にバラまいてしまうことでしょう。脱走や盗み食いを予防するという観点では、むしろ不器用な方がよいということになります。
キャットフードを与えるときのパズルフィーダーは猫の狩猟本能を満たす環境エンリッチメントの1つとされていますが、手先が器用になって脱走や盗み食いにつながる側面もあります。事前にしっかりと部屋の中をキャットプルーフにしておく必要があるでしょう。 猫が喜ぶ部屋の作り方