動物病院における猫の移動ストレス
調査を行ったのはフロリダ大学獣医学校のチーム。動物病院内における移動や飼い主の付き添いの有無が猫に対してどのようなストレスを与えているのかを検証するため、心拍数と特定の行動を基準とした評価を行いました。
観察対象となった猫
観察対象となったのは臨床上健康とみなされた21頭の猫たち。17頭は普通の短毛種で平均年齢は6歳(1~12歳)、12頭は去勢済みのオス猫で残りの9頭は避妊済みのメス猫という内訳です。
猫たちをランダムで二つのグループに分け、12頭(オス6+メス6)は「診察室/飼い主がいる状態」→「治療室/飼い主がいない状態」という順番、残りの9頭(オス6+メス3)はその逆の順番で移動(飼い主持参のキャリーに入れて)を行い、各室内で手順を統一した診察(体重と耳内温度測定・胸部聴診・耳鏡検査・眼科検査)を行いました。
猫たちをランダムで二つのグループに分け、12頭(オス6+メス6)は「診察室/飼い主がいる状態」→「治療室/飼い主がいない状態」という順番、残りの9頭(オス6+メス3)はその逆の順番で移動(飼い主持参のキャリーに入れて)を行い、各室内で手順を統一した診察(体重と耳内温度測定・胸部聴診・耳鏡検査・眼科検査)を行いました。
観察結果
心拍数と事前に決めておいた特定の行動(姿勢・しっぽの位置・耳の位置・瞳孔の大きさ・発声)をストレスの評価基準にして数値化した所、待合室で測定したベースライン値と比較し、飼い主がいない治療室で診察を行った時の心拍数が統計的に有意なレベルで高まったといいます(160/分くらい→平均226/分)。心拍数の正常参照値は120から150で、そこから大きく逸脱した180がストレスの目安ですので、200を超えたということはかなり強いストレスを感じていた可能性がうかがえます。
またストレス行動に関しては、ベースライン時が中等度を示す3だったのに対し、診察室では0.6ポイント上昇して軽度のストレスを表す4、治療室では1.4ポイント上昇して重度のストレスを表す5にシフトしたとも。さらに診察室にいる時よりも治療室にいる時の方が、耳を横や後ろに倒したり発声する頻度が高かったそうです。 Evaluation of clinical examination location on stress in cats: a randomized crossover trial
Journal of Feline Medicine and Surgery(2020), Francesca C Griffin, Wendy W Mandese, et al., DOI: 10.1177/1098612X20959046
またストレス行動に関しては、ベースライン時が中等度を示す3だったのに対し、診察室では0.6ポイント上昇して軽度のストレスを表す4、治療室では1.4ポイント上昇して重度のストレスを表す5にシフトしたとも。さらに診察室にいる時よりも治療室にいる時の方が、耳を横や後ろに倒したり発声する頻度が高かったそうです。 Evaluation of clinical examination location on stress in cats: a randomized crossover trial
Journal of Feline Medicine and Surgery(2020), Francesca C Griffin, Wendy W Mandese, et al., DOI: 10.1177/1098612X20959046
猫は「家につく」
待合室で予備的な診察を受けた時点で、大部分の猫たちがしっぽを丸め込み(76%)、目立たないように背中を丸め(81%)、瞳孔が拡大(90%)していたといいます。「猫は家につく」とよく言いますが、馴染みのある生活圏から強制的に移動させられるだけで、かなりのストレスを感じているものと推測されます。
観察結果を見る限り、猫たちの受難はそこで終わらないようです。他のエリアから間仕切りで隔離された診察室であれ、だだっ広い多目的の治療室であれ、待合室からのほんのちょっとした移動が猫に追加のストレスを与えている可能性が確認されました。さらに全体的には、飼い主がいない治療室におけるストレスレベルがとりわけ強い傾向が見られました。こうした結果から調査チームは、動物病院においては可能な限り猫の移動を少なくし、飼い主がそばに付き添ってあげることが望ましいと結論づけています。
日頃からのトレーニングも重要
近年はAAFP(全米猫医療協会)やAAHA(全米動物病院協会)がストレスを軽減するためのハンドリングガイドラインを示したり、「キャットフレンドリークリニック」や「フィアフリークリニック」といった認定システムが作られ、動物病院において犬や猫が感じる恐怖心をなるべく減らす努力がなされています。
今回の調査を行った病院においても「手は背中や脇腹に軽く置く」「首筋の皮膚をつかむスクラッフィグや頭をつかんでの拘束は行わない」など、ローストレスのハンドリングが実践されました。しかしこうした様々な努力にもかかわらず猫たちのストレスをゼロにすることはできませんので、日頃からハンドリングや移動に慣らし、動物病院内で感じる不安や恐怖がなるべく少なくなるよう、飼い主の側でも事前トレーニングを行っておくことが重要だと指摘しています。
今回の調査を行った病院においても「手は背中や脇腹に軽く置く」「首筋の皮膚をつかむスクラッフィグや頭をつかんでの拘束は行わない」など、ローストレスのハンドリングが実践されました。しかしこうした様々な努力にもかかわらず猫たちのストレスをゼロにすることはできませんので、日頃からハンドリングや移動に慣らし、動物病院内で感じる不安や恐怖がなるべく少なくなるよう、飼い主の側でも事前トレーニングを行っておくことが重要だと指摘しています。
極度のストレスは血糖値やホルモン値などの生理学的な計測値にまで影響を及ぼし、正確な診断の妨げになります。キャリートレーニングによって移動ストレスを緩和できると報告されていますので、日頃から心がけておきましょう。