トップ2020年・猫ニュース一覧2月の猫ニュース2月16日

徳之島において外猫(ノネコとノラネコ)を養っているのは人が与えるキャットフードかも

 アマミノクロウサギを始めとする固有種が数多く生息する鹿児島県の徳之島。島内を自由に放浪できる外猫たちの食生活を調べたところ、食料の大部分を人為起源のキャットフードなどに頼っている現状が見えてきました。

徳之島における外猫の食生活

 鹿児島県の徳之島は大島郡に属する離島の1つ。アマミノクロウサギ(Pentalagus furnessi)、ケナガネズミ(Diplothrix legata)、トクノシマトゲネズミ(Tokudaia tokunoshimensis)といった固有生物種が数多く生息する島として知られています。 上空から撮影した徳之島全景  京都大学野生動物研究センターの調査チームは、徳之島において屋外を自由に放浪することができる猫が生態系に及ぼす影響を明らかにするため、安定同位体分析と呼ばれる手法を用いた食生活調査を行いました
安定同位体分析
安定同位体分析とは、被毛や糞便に含まれる元素の安定同位体比を調べることで、日頃の食生活が平均的にどのような傾向にあるのかを明らかにする手法のこと。同位体とは特定の元素と陽子数が同じだが中性子数が異なる原子のことで、同位体の中で放射線を出さず、なおかつ半永久的に存在量が変わらないものは安定同位体と呼ばれる。
 村から最低500m離れた森林地帯で捕獲された猫は便宜上「ノネコ」とされ、2014年12月から2018年1月にかけて合計208頭が捕獲されました。内訳はオス123+メス75+不明10で、うち31頭(14.9%)はTNRを通じてリリースされたさくらねこでした。また人間の居住地域や農地で捕獲された猫は便宜上「ノラネコ」とされ、2017年11月の1ヶ月間で合計54頭が捕獲されました。内訳はオス30+メス22+不明2で、そのうち4頭(7.4%)はさくらねこでした。これら屋外放浪猫(ノネコ+ノラネコ)の平均体重は3.3kg(オス3.6kg/メス2.7kg)で、猫たちが1日に消費するバイオマス(動植物由来の再利用可能な有機性の資源)は379(±143)gと推定されました。 徳之島における屋外放浪猫(ノネコ+ノラネコ)の捕獲場所一覧マップ  市販のキャットフード9種、および絶滅危惧種3種(アマミノクロウサギ・トクノシマトゲネズミ・ケナガネズミ)の被毛サンプルを分析すると同時に、ノネコ189頭とノラネコ52頭から被毛サンプルを採取して先述した安定同位体分析を行ったところ、猫たちの食料源に関して以下のような比率が推定されたといいます。なお「農地動物」とは主としてクマネズミを指しています。 屋外放浪猫(ノネコ+ノラネコ)の食料源比率
  • ノネコ✓人為起源=67.8%
    ✓農地動物=17.9%
    ✓森林動物=14.3%
  • ノラネコ✓人為起源=69.0%
    ✓農地動物=18.5%
    ✓森林動物=12.4%
 猫たちの長期的な食料源をシミュレーションしたところ、森林動物を摂食している猫でも、大部分は人為起源の食料に依存している可能性が見えてきました。森林に数日滞在し、村や集落などに戻って人が与えたキャットフードを食べるという習慣で生きているのではないかと推測されています。

外猫を養っているのは島民?

 調査チームは、徳之島におけるハイパープリデーションを支えているのは人間が与えている人為起源の食料(=キャットフードなど)なのではないかと推測しています。
ハイパープリデーション
ハイパープリデーション(Hyper-predation, 直訳すると過剰捕食)とは、捕食動物の増加や一次被食動物の急減により、二次被食動物に対する捕食圧が高まる現象。例えばオーストラリアのマッコーリー島では60年以上に渡ってノネコとパラキート(インコの一種)が共存してきたが、島内にウサギを持ち込んだことによりノネコの数が急増し、結果としてパラキートの激減につながった。
 ハイパープリデーションは通常、島しょ部など限られた空間内に外来生物を持ち込むことによってそれをエサとする捕食動物の個体数が急増することから始まります。しかし当調査により、徳之島においては獲物となる動物の代わりに人間が与える何らかのフードが捕食動物(この場合は屋外放浪猫)の個体数維持に関わっている可能性が見えてきました。
 一例として調査チームは、2014年から18年までの間に2,797頭の屋外放浪猫が捕獲され、そのうちさくらねこは13%で割合が高まっていない点を指摘しています。不妊手術を受けていない猫が人為起源の食料で繁殖を繰り返しているため、TNRをやってもやっても生殖能力を保った猫が一向に減らないという図式です。
 徳之島においては「飼い猫の適正な飼養及び管理に関する条例」によって室内飼いと屋外放浪猫への餌付け禁止が努力義務として規定されているものの、こうしたローカルルールが遵守されていない現状が浮き彫りとなりました。
Predation on endangered species by human-subsidized domestic cats on Tokunoshima Island.
Maeda, T., Nakashita, R., Shionosaki, K. et al., Sci Rep 9, 16200 (2019), https://doi.org/10.1038/s41598-019-52472-3