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猫は犬と同じくらい飼い主に愛着を抱いている?

 人間の幼児や犬において確認されている保護者への愛着(attachment)。一般的に孤独を好むと思われている猫を対象として調査を行ったところ、必ずしもツンツンした猫が多いわけではないことが明らかになりました。

猫を対象とした愛着テスト

 調査を行ったのはアメリカのオレゴン州立大学を中心としたチーム。人間の子どもと保護者、および犬と飼い主(世話人)との間で確認されている愛着(attachment)が果たして猫にもあるのかどうかを検証するため、セキュアベーステスト(SBT)と呼ばれる手法を用いた実験を行いました。基本的なセッティングは、静かな室内に半径1mの円を描き、円の中心にいる飼い主に対する猫のリアクションを観察するというものです。具体的な手順と用語は以下。
セキュアベーステスト手順
猫における愛着テストの概要(セキュアベーステスト)
  • ベースラインフェーズ飼い主が猫とともにテストルームに入り、サークルの中心に座る。猫がサークルの中に入った時に限り話しかけたり触ったりすることができる。逆にサークルの中に入らない限り見つめたり話しかけるなど猫に対する一切の働きかけをしてはいけない。この状況における猫の自発的な挨拶行動、交流の仕方、接近・接触の頻度などを観察する。
  • 孤立フェーズ飼い主が退室し、猫が部屋の中に取り残される。この状況における猫の探索行動、鳴き声、うろつき、後追いの頻度や度合いを観察する。
  • 再会フェーズ退出していた飼い主が再び入室し、ベースラインフェーズと同じようにサークルの中心に座る。この状況における猫の自発的な接近、擦り寄り、鳴き声、探索行動などを観察する。
愛着スタイルの分類
  • Secure(安定的)接触や交流に際してほとんど抵抗を示さない | 積極的に挨拶行動をする | オープンでポジティブな態度 | 再会に際して自発的に近づいたり探索行動や遊び行動に没頭する
  • Insecure-Ambivalent(不安定-両面的)極端に近づきたがる | しつこくつけ回すが抱きかかえると拒絶するという矛盾した行動を見せる
  • Insecure-Avoidant(不安定-拒絶的)飼い主がいなくなってもほとんどストレスの兆候を示さない | 飼い主と再会してもほとんどリアクションを見せず無視することすらある | 必ずしも飼い主との交流を拒絶するわけではない
  • Insecure-Disorganized(不安定-混迷的)飼い主との再会に際し接触を拒絶する | 飼い主の周囲をぐるぐる回る | 視野から外れようとする | 急いで逃げ出す | 常同行動(ぐるぐる回ったり執拗にグルーミングする) | 虚空を見つめる | 20秒以上じっとして動かない

子猫の愛着テスト

 対象はオス猫40+メス猫30頭で、テスト時点での平均年齢は20.3週齢(12~32週齢)。愛着テストの結果、64.3%は「安定的」で残りの35.7%が「不安定」(両面的21頭+拒絶的3頭+混迷的2頭)。
 その後、子猫をランダムで2つのグループに分け、39頭(オス猫25+メス猫14頭)は6週間の社会化トレーニングを行い、残りの31頭(オス猫15+メス56頭)は比較対象として特別な訓練を行わなかった。トレーニング終了のタイミングでもう一度前回と同じ愛着テストを行ったところ、「安定的」が68.6%と「不安定」が31.4%となり、ほとんど変わらなかった。

成猫の愛着テスト

 対象はオス猫11頭+メス猫27頭で、6頭を除いてすべて雑種。テスト時点での平均年齢は6.2歳(3~13.5歳)。愛着テストの結果、「安定的」が65.8%と「不安定」が34.2%となり、子猫における割合とほぼ同じだった。
Attachment bonds between domestic cats and humans
Kristyn R. Vitale, Alexandra C. Behnke, Monique A.R. Udell, Current Biology, DOI:10.1016/j.cub.2019.08.036

猫の愛着スタイルは犬と同じ?

 過去に人間の子供を対象として行われた同様の調査では、安定型の愛着が65%、不安定型の愛着が35%だったと報告されています。また犬においては安定型が58%、不安定型が42%だったとも。 人間の幼児、犬、猫における愛着スタイルの比率一覧グラフ  今回の調査では安定型の愛着を抱く猫が子猫で64.3%、成猫で65.8%と算定されました。また不安定型の愛着を抱く猫が子猫で35.7%、成猫で34.2%と算定されました。安定型と不安定型の比率が人間や犬と似通っていることから、 少なくとも愛着スタイルに関しては犬に引けを取らないのではないかと推測されています。
 しかし「ストレンジ・シチュエーション・テスト」(SST)と呼ばれるプロトコルを猫用にアレンジして行われた別の調査では、「少なくとも猫は保護者(親や飼い主)を安心と安全のよりどころとして愛着を示してくれる人間の子供や犬とは違った精神構造を持っているのかもしれない」という異なる結論に至っています。そもそも人間向けに開発されたテストで猫の愛着スタイルを正確に判定できるかどうかは分かっていませんので、調査結果は予備的なものと考えておいた方が良いでしょう。

猫の愛着は「育ち」より「氏」?

 興味深いのは、社会化トレーニングによって子猫の愛着スタイルに大きな変化が見られなかったという点です。トレーニングの具体的な内容としては「子猫同士の交流」「見知らぬ人との交流」「新しい環境や事物の探索」などが行われました。しかし愛着スタイルの割合は安定型が64.3%→68.6%、不安定型が35.7%→31.4%と大きな変動が見られなかったと言います。この事実から調査チームは、猫の愛着スタイルには後天的な要因よりも先天的な要因の方が大きく影響しているのではないかと推測しています。
 子猫と成猫において愛着スタイルの割合が似通っていたため、ひとたび形成された愛着はかなり長期間持続するのではないかと考えられます。たとえば「一緒に暮らして10年になるのにいまだに飼い主の顔を見ると逃げ出す」などは、「不安定-混迷的」という愛着スタイルが強固に保たれているからなのかもしれません。
未知のメカニズムを通し、猫の性格には父親の気質が大きく影響を及ぼすとされています。詳しくは「猫の性格はこうやって決まる!」をご参照ください。