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保護猫の譲渡率を高めるのは写真か動画か?

 保護された猫をペットとして迎えたい場合、ほとんどの人は行政機関や民間保護団体のウェブサイトを閲覧して情報収集します。では写真と動画ではどちらの方が譲渡率がアップするのでしょうか?

写真と動画と譲渡スコア

 調査を行ったのはノースカロライナ州立大学を中心とした共同チーム。猫の里親候補者に写真を見せた時と動画を見せた時とで、譲渡される可能性に違いが生じるかどうかを検証するため、大規模なインターネットアンケート(Amazon Mechanical Turk)を行いました。 茶トラ猫のジンジャー グレータビーのジョージャ 三毛猫のプリティ  調査に用いられたのは被毛の色とパターンが異なる猫3頭の写真と動画。写真を見た人が猫の性格を表す12項目を5段階で評価すると同時に、「この猫をどのくらいペットとして迎えたいと思うか?」という質問に対して 5段階で評価するという内容です。
猫の性格特性12項目
  • 遊び好き
  • よく鳴く
  • 愛らしい
  • 人懐こい
  • 人見知り
  • 攻撃的
  • 優しい
  • 物静か
  • 要求が激しい
  • 抱っこ好き
  • 活発
  • 好奇心旺盛
 インターネットを介した大規模なアンケート調査を行い、最終的に年齢、性別、社会的ステータス、猫の飼育経験などがバラバラな555人から回答を得ました。こられのデータを統計的に調べたところ、写真や動画において以下に述べる項目のスコアと譲渡スコアとが正の相関関係にあったと言います。言い換えると、猫が以下に示すような性格傾向が強い場合、譲渡される可能性が高くなるということです。
【📷写真】譲渡スコアを高める性格特性8項目
  • 遊び好き
  • よく鳴く
  • 愛らしい
  • 人懐こい
  • 優しい
  • 抱っこ好き
  • 活発
  • 好奇心旺盛
【📹動画】譲渡スコアを高める性格特性8項目
  • 遊び好き
  • よく鳴く
  • 愛らしい
  • 人懐こい
  • 優しい
  • 抱っこ好き
  • 活発
  • 好奇心旺盛
 写真にしても動画にしても「愛らしい」「人懐こい」「優しい」の3項目がとりわけ強い相関関係を示したとのこと。
 逆に写真にしても動画にしても「攻撃的」のスコアと譲渡スコアとが負の相関関係にあることが判明しました。つまり猫が「攻撃的」と判断されたとき、譲渡される可能性が下がってしまうということです。
 写真と動画を比較した時、ある特定の性格スコアにおいてわずかな格差が見られました。具体的には以下で、カッコ内は格差の度合いを示しています。
写真>動画の性格特性
  • 愛らしい(軽度~中等度)
  • 優しい(強度)
  • 物静か(軽度)
  • 抱っこ好き(軽度~中等度)
動画>写真の性格特性
  • 遊び好き(強度)
  • 人懐こい(軽度)
  • 攻撃的(軽度~中等度)
  • 活発(強度)
  • 好奇心旺盛(中等度~強度)
 全体としては、写真よりも動画を見た時の方がわずかながら譲渡とスコアが上がりました。具体的には、写真と動画の譲渡スコアを比較した1,665件の回答(555人×3頭)のうち、1,313件では「格差なし」でしたが、90件(5.4%)は「写真のほうがスコアが高い」、262件(15.7%)は「動画のほうがスコアが高い」と判断されました。
Perception of Cats: Assessing the Differences Between Videos and Still Pictures on Adoptability and Associated Characteristics
Schoenfeld-Tacher R, Kogan LR, Carney PC. Front Vet Sci. 2019;6:87. Published 2019 Mar 27. doi:10.3389/fvets.2019.00087

猫の譲渡率を高めるコツ

 写真でも動画でも、猫の8つの性格特性と譲渡スコアとの間に正の相関関係が見られました。最も強い相関が確認された共通項目「愛らしい」「人懐こい」「優しい」の3つを里親希望者に対しうまくアピールすることができれば、譲渡率が上がるかもしれません。
 写真と動画を比較した時、主として猫の活動性を表す性格特性は動画において高いスコアを獲得することがわかりました。猫のキャラクターがやんちゃで活動的な場合は、積極的に動画を撮って「遊び好き」「活発」「好奇心旺盛」といった譲渡スコアを高める特性を里親候補者に見せた方が良いでしょう。
 逆に、主として猫の穏やかさを表す性格特性は静止写真において高いスコアを獲得することがわかりました。猫のキャラクターが物静かな場合は、動画よりも写真を見せて「人懐こい」「優しい」「抱っこ好き」といった譲渡スコアを高める特性をアピールするのが有効かもしれません。
 写真でも動画でも「攻撃的」と譲渡スコアが負の相関関係にありました。「人見知りが激しい」とか「よくシャーシャー言う」といった情報を里親候補者に公正に伝えることは重要です。しかしそれをわざわざ写真や動画に撮って示す必要はないでしょう。見た人が「いつもこんな調子なのかな?」と早合点し、猫の譲渡機会がいたずらに奪われてしまう危険性があります。

写真と動画をうまく活用しよう!

 1990年代以降、公共の動物保護施設(保健所や動物愛護センター)にしても民間の保護団体にしても、インターネットを通じて保護した動物たちの情報を発信できるようになりました。しかしその利点を最大限に活かせているわけではありません。
 例えば行政機関では、捕獲してすぐのタイミングで撮った犬や猫の写真を載せることが多々あります。しかしこうした写真に写っているのは、毛がボサボサで収容ケージの奥に引きこもり、警戒心と恐怖からイカ耳状態の猫の姿です。これが猫本来の姿とは到底言えないでしょう。 写真の撮り方一つで猫たちの譲渡率が左右されてしまう可能性がある  また民間保護団体の多くはホームページやブログを開設していますが、写真ばかりで動画が見られないことがあります。動画をほぼ無制限にアップロードできるYouTubeという動画共有サイトがあるのですから、もう少し活用した方が良いのではないでしょうか。
 猫のキャラクターに合わせて静止画や動画をうまく活用すれば、適切なマッチングにつながってくれると考えられます。例えば活発で遊び好きな猫を希望している人に対しては、動画を通してアクティブな様子をアピールしたり、穏やかで昼寝が大好きな「膝乗り猫」(lap cat)を希望している人に対しては画像を通して物静かな様子をアピールするなどです。
 また譲渡会においては、猫がケージの奥に引きこもったまま普段のキャラクターを見せてくれないことが多々あります。あらかじめ録画しておいた猫の様子を里親候補者に見せ、「緊張がほぐれたらこんな感じですよ」と説明するやり方もあるでしょう。  理想は、里親候補者の希望と猫の性格特性を事前に把握し、ベストな譲渡を実現する「Feline-ality™」のようなマッチングシステムです。保護施設内における滞在期間が長くなればなるほど猫の健康状態が悪化し、譲渡率が下がるといいます。その他「維持費用がかかる」「マンパワーを取られる」「収容数が少なくなる」といった数々のデメリットがありますので、写真と動画をうまく活用して譲渡率を高めるための工夫は公共施設においても民間団体においても急務です。保護猫・捨て猫の引き取り方完全ガイド