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猫砂に用いられるベントナイトの危険性

 猫砂の鉱物系素材としてよく用いられているベントナイト。この成分は果たして安全なのでしょうか?実は口からの誤飲にも肺への吸引にも注意が必要です(🔄最終更新日:2022年3月)

猫砂中のベントナイトとは?

 ベントナイト(bentonite)とは、モンモリロナイト(ケイ酸塩粘土)を主成分とし、石英、クリストバライト、沸石、長石などを含む粘土鉱物の一種。水を含みやすくイオン交換能が大きいという特徴から、鋳物、土木、建築、化粧品、農薬など広い分野で利用されています。猫用トイレ砂(猫砂)の鉱物系素材として多用されているのも、高い吸水力や消臭力を備えているからです。 ベントナイトを主原料とした鉱物系の猫砂  使用後の処理方法は、おしっこで固まった部分だけを取り出し、臭いがもれないよう紙袋などに包んで燃えるゴミ(可燃ごみ)として捨てます。目詰まりの原因になりますのでキッチンの排水口やトイレに流してはいけません。なお自治体によっては燃えないゴミ(不燃ごみ)として出すよう規定しているところもありますので、事前にご確認ください。
 非常に使い勝手が良い素材である一方、粒を口から飲み込んだり、粉塵を吸い込んでしまうと健康を害してしまう危険性があるため注意が必要です。
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誤飲による健康被害

 ベントナイトは比較的毒性が低く、日本では厚生労働省によって既存添加物の「製造用剤」として認可されています。使用基準は特に設定されていません。しかしあまりにも大量に摂取すると中毒に陥ってしまう危険性もあります。

人間のベントナイト中毒

 栄養成分のないものを摂取する「土食症」(どしょくしょう, geophagia)と呼ばれる病気にかかった人の症例では、ベントナイトを大量に食べた後の症状として筋肉痛、筋力の低下、倦怠感、低カリウム血症、心電図異常、鉄欠乏に起因する低色素性小赤血球性貧血などが報告されています。ベントナイトはカリウムと結合しやすいため、胃腸内において鉄の吸収を阻害してしまうのではないかと推測されています。

猫のベントナイト中毒

 因果関係ははっきりしていないものの、猫砂の経口摂取が原因と考えられるベントナイト中毒の症例が逸話的に報告されています出典資料:Hornfeldt, 1996
 この症例では「異食症」(pica)を発症した猫が、トイレに用いていたベントナイトを大量に食べたことにより、低カリウム血症、倦怠感、筋力の低下、脱水、心雑音、低色素性小赤血球性貧血など、人間とよく似た症状を示したと報告されています。
 上記した症例は異食症という病気にかかった猫のものでしたが、ベントナイト系の猫砂は粒が小さいため、異食症ではない猫でも指の間に挟まった粒やベッドの上に落ちた粒を間違って食べてしまうかもしれません。
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粉塵吸引による健康被害

 ベントナイトの粒子は極めて細かく、空気に乗って容易に肺の中に吸引されます。日本産業衛生学会では ベントナイトを「第1種粉塵」に分類しており、1立方メートルあたりの許容濃度を「0.5mg」と定めています出典資料:産衛誌2018:60(5)

人間のベントナイト塵肺症

 ベントナイト系猫砂の粉塵が原因と考えられる症例が日本国内で報告されています(Kobayashi, 2001)
猫砂による呼吸器障害
  • 症例①~37歳女性ペットのトイレ砂を捨てるときに舞い上がった大量の粉末を吸入した直後、呼吸困難が強くなり、自力での呼吸ができなくなった。気管支内で水分を吸収して急速に膨張し、気管支を閉塞したものと推測される。
  • 症例②~48歳女性10ヶ月前から飼い始めたハムスター用にペットのトイレ砂を使用していた。時期を同じくして咳が出現し、最寄りの病院で気管支炎の治療を受けたが症状は軽快しなかった。トイレ砂の使用を中止し、室内の換気を頻回に行うと同時に去痰剤、気管支拡張剤を投与したところ、約1ヶ月後に呼吸器症状は消失した。喀痰中に好酸球が認められたことから、トイレ砂によりアレルギー反応を起こしたと推測される。
  • 症例③~45歳女性呼吸困難がひどいため、数ヶ月前から最寄りの病院で気管支喘息として投薬を受けていた。しかし夜中に現れる痰のからむ咳が止まらず、呼吸困難も強くなったためアレルギーテストを行ったところ、ダニ、ハウスダスト、ネコ上皮、イヌ上皮で陽性と判明した。室内で飼育していた猫用のトイレ砂の使用を中止し、去痰剤、気管支拡張剤の投与をしたところ、2ヶ月後に症状は消失した。その間、猫の飼育は継続していたため、猫アレルギーではなくトイレ砂の粉塵を吸引したことによる気管支炎および肺炎と推測される。
 上記した3つの症例ではすべてにおいて喀痰中にペットのトイレ砂の主成分であるケイ素とアルミニウムが認められたため、ベントナイトを原因とする塵肺症と診断されました。ベントナイト塵肺症の主な原因物質は、ベントナイト中に1~24%の割合で混在する遊離シリカ(free silica)だと推測されています。
 また最新データでは2022年、ポーランドにあるワルシャワの大学の調査班が、ベントナイト製の猫砂が原因と考えられる慢性珪肺症の症例を報告しています出典資料:Hubska J, 2022。患者の主症状は湿性咳と運動不耐性で、聞くところによると44平方メートルの室内に猫トイレが9つあり、すべてベントナイトの猫砂で満たされているとのこと。さらにこのような生活を18年間続けていることが明らかになりました。 慢性珪肺症を発症した患者が長期に渡って使用されていたベントナイト製の猫砂  ステロイド薬を処方して家の中からベントナイトを取り除いてもらい4ヶ月後に再検査したところ、咳が収まると同時に肺の結節性病変がなくなっていたそうです。最終的な診断は猫砂のベントナイト(遊離結晶性のシリカ塵)を原因とする慢性珪肺症。
 この症例を受け調査班は、粉塵を長期的に吸引した際のリスクを猫砂メーカーはパッケージに記載すべきだと警鐘を鳴らしています。

猫のベントナイト塵肺症

 猫におけるベントナイト塵肺症の報告はありませんが、ただ単に認識されていないだけで実際には存在しているのかもしれません。
ベントナイトのほこり立ち
 以下でご紹介するのはベントナイト系猫砂を補充した時の様子です。細かい粒子が空気中に拡散していることがお分かりいただけるでしょう。 元動画は→こちら
 ベントナイトの粉塵は猫砂を補充する時、猫が砂を引っ掻く時、猫砂を捨てる時などに大量に発生します。猫だけでなく人間も知らないうちに吸い込んでしまう危険性がありますので、扱う際は部屋の換気をしっかりとした方がよいでしょう。これは猫砂を入れている袋のラベルにも注意書きとしてしっかり記載されている項目です。 ベントナイトの微粒子は容易に空気中に拡散する  猫が息苦しそうにしているのは、呼吸器系の持病があるからではなく、ひょっとすると猫砂の粉末が原因かもしれません。飼い主が猫アレルギーと考えている症状は、猫のフケが引き起こしているのではなく、ひょっとすると猫砂に対するアレルギー反応なのかもしれません。自分や猫に原因不明の咳や呼吸困難がある場合は、猫砂をベントナイトから別原料のものに変えてみてはいかがでしょうか。 猫の呼吸の変化や異常一覧