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犬と猫はペットフードを通じて農薬「グリホサート」を大量に摂取している

 ニューヨークに暮らす犬と猫を対象とした調査により、使用量の激増から健康への影響が懸念されている農薬「グリホサート」が、尿中に高濃度で含まれていることが明らかになりました(2019.1.16/アメリカ)。

犬猫のグリホサート尿中濃度調査

 調査を行ったのはニューヨーク州立大学を中心としたチーム。2017年3月から7月の期間、ニューヨークのオールバニーに暮らしている犬30頭(オス15+メス15頭 | 6ヶ月齢~13歳 | 飼い犬17+シェルター10+病院3頭)と猫30頭(オス12+メス18頭 | 10週齢~20歳 | 飼い猫2+シェルター23+病院5頭)から尿を採取し、中に含まれている農薬「グリホサート」の濃度を調べました。
グリホサート
 グリホサート(glyphosate)は1970年代前半から世界中で使用されている除草剤の一種。商標名としては「ラウンドアップ®(RoundUp)」などが有名。 モンサント社が開発したグリホサート系除草剤「Roundup」  アメリカ国内ではここ40年の間で使用量が100倍近くに急増しているにもかかわらず、公的な機関がしっかりとした危険性の検証していないことから問題視されている。2015年には国際がん研究機関(IARC)が人に対しておそらく発がん性がある(グループ2A)と発表したことから話題になった。
 調査の結果、以下のような割合で成分が検出されたと言います。AMPA(アミノメチルホスホン酸)およびMG(メチルグリホサート)はグリホサートの代謝産物です。 犬と猫の尿から検出されたグリホサートおよびその代謝産物の濃度比較グラフ  犬に関してはオスよりもメスの方が1.3倍高濃度で含まれていました。猫に関しては逆に、メスのよりもオスの方が1.7倍高濃度で含まれていました。しかしこれらの格差は統計的に非有意です。グリホサートトータルで見ると、犬の尿中濃度が16.8ng/mLだったのに対し猫のそれが33.8ng/mLと倍近い値が含まれており、こちらの格差は統計的に有意と判断されました。
 さらにグリホサートの摂取量に関し、世界各国で規定されているADI(一日摂取許容量=毎日一生食べ続けても健康に悪影響が生じないと推定される量)と比較した時のハザード比を試算したところ、以下のような値になりました。ハザード比(HQ)とは、ヒトへの推定暴露量と耐容一日摂取量(TDI)を比べたもので、「1」以上になると「リスクあり」と評価されます。 各国におけるグリホサートのADIと犬と猫のハザード比 Widespread occurrence of glyphosate in urine from pet dogs and cats in New York State, USA
Rajendiran Karthikraj, Kurunthachalam Kannan, Science of the Total Environment 659(2019) 790-795

グリホサートとペットの安全性

 グリホサートは植物の葉や茎から体内に取り込まれ、「EPSPS」と呼ばれる酵素の働きを阻害することによりほとんどの雑草を枯死させることができます。この農薬に対して耐性を持つよう遺伝子を組み換えられた作物が「ラウンドアップ・レディ」です。こうした遺伝子組み換え作物がペットフードに用いられた場合、果たして犬や猫の安全性は確保できるのでしょうか?

グリホサートはフード由来

 ニューヨーク州においてはグリホサートを含んだ農薬が公園、芝生、庭などに用いられているため、こうした場所に残った微量の成分が被毛などについて口から摂取するというルートが考えられます。一般的に猫よりも犬の方がそうした場所と接する機会が多いはずですが、尿中濃度に関しては猫の方が倍近く高いことが明らかになりました。この事実から、農薬の摂取は空気や屋外の植物ではなく、フード由来であると推測されます。

フードに含まれるグリホサート濃度

 2018年、アメリカにあるコーネル大学微生物学部のチームはニューヨーク・トンプキンス郡にある小売店(PetSmart)などで市販されていた犬猫用ペットフード8ブランド18商品を対象とし、中に含まれているグリホサートの濃度をELISAと呼ばれる手法を用いて調べました。
 その結果、すべての商品からグリホサートが検出されたといいます。具体的には乾燥重量中に78.3~2,140μg/kg、平均357μg/kg、中央値198μg/kgという結果でした。含有量はフードに含まれるタンパク質や脂質とは無関係でしたが粗繊維の含有量と連動していることが明らかになりました。このことからグリホサートは植物原料由来だと推測されています。

犬と猫の摂取量は人間の数十倍

 世界各地で報告されている人間のグリホサート尿中濃度と比較した場合、犬の尿中濃度は4~41倍、猫の尿中濃度は6~66倍という極めて高い値になることが明らかになりました。先述したコーネル大学の調査でも、犬や猫の農薬摂取量を体重単位に換算した場合、人間の2.6~28倍に相当すると試算されています。犬よりも、猫の尿中濃度が高い理由は定かではありませんが、フードに用いられている原料、もしくは猫という動物種に特有の代謝が関係しているのかもしれません。

グリホサートは未知の農薬

 グリホサートはその安全性に関し、世界各国のリスク評価機関の意見が真っ二つに割れている農薬です。例えば欧州食品安全機関(EFSA)、米国環境保護庁(EPA)、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、日本の食品安全委員会は「概ね安全である」と評価しているのに対し、IARC(国際がん研究機関)は非ホジキン型リンパ腫との因果関係を否定できないと評価しています。
 実際のところこの農薬に関しては、実験室内で高濃度の農薬にさらされた人間以外の動物のデータしかありません。言い換えると人間、犬、猫が低濃度で長期間摂取した時の安全性に関してはよくわかっていないということです。

使用量の激増に注意

 グリホサートの使用量は今までも今も、そしてこれからも増え続けると推測されます。例えばカリフォルニア南部にあるランチョバーナードに暮らす百人の高齢者を対象とした調査(→Paul J. Mills, 2017)では、1993年から1996年と2013年から2016年という2期に渡って尿サンプルを採取し、中に含まれるグリホサートの濃度が比較されました。その結果、検知可能レベル(0.03μg/L)を超える濃度の人に関し、1990年代で12%だったのが2010年代には70%にまで激増したと言います。全体的には、グリホサートの尿中濃度がおよそ13倍(0.024→0.314μg/L)に高まったとのこと。
 今回の調査では、犬や猫におけるハザード比がリスク基準である「1」を大幅に下回る0.0006~0.0019というものでした。しかし上記したように、グリホサートが犬や猫にもたらす安全性に関してはよくわかっていません。また、今後遺伝子組み換え作物の作付面積が増えるに従い、この農薬の使用量は増加の一途をたどると考えられます。
 ペットフードに含まれる植物を経由して犬や猫の体内に取り込まれるグリホサートは、今後長期的なモニタリングが必要となるでしょう。参考までに、アメリカのカリフォルニア州ではグリホサートを主な成分として含む商品に発がん性があると認め、2017年7月7日以降、警告ラベルがない商品の販売が禁止されています。
「グリホサート」に関しては姉妹サイト「子犬のへや」内の「農薬グリホサートによるドッグフード汚染の実態」という記事でも詳しく解説してあります。少し怖いですが読んでみて下さい。