詳細
調査を行ったのはアメリカにあるペンシルベニア大学獣医学部のチーム。2000年1月から2010年12月の期間、「VHUP」(Matthew J. Ryan Veterinary Hospital of University of Pennsylvania)の救急外来センターを受診した猫の医療データを後ろ向きに調査し、殺鼠剤中毒の割合や罹患リスクを検証しました。その結果、殺鼠剤と実際に接触があった、もしくは接触があったと推測されるケースが142症例あり、年に換算すると平均して13症例であることが明らかになったといいます。救急外来の患猫全体における割合は0.39%と推定されました。その他の罹患リスクは以下です。
Karie L. Walton, VMD and Cynthia M. Otto et al., Journal of Veterinary Emergency and Critical Care, 2018, doi: 10.1111/vec.12748
猫の殺鼠剤中毒リスク
- 2歳までの猫で多く全体の78.2%
- オス猫とメス猫で性差は無い
- 未手術の方が多い
- 67.6%は室内飼い
- 14.7%は放し飼い
- 20%では環境の急激な変化が先行
- 秋に多く春に少ない
Karie L. Walton, VMD and Cynthia M. Otto et al., Journal of Veterinary Emergency and Critical Care, 2018, doi: 10.1111/vec.12748
解説
症例の1/3は殺鼠剤との接触から6時間以内に病院を受診していましたが、残りの2/3では猫がいつ接触したかを飼い主が特定できませんでした。また、殺鼠剤の成分がはっきりわかったのは71ケースしかありませんでした。部屋の中に殺鼠剤が散らばっていることに気づき、「ひょっとしたら猫が食べたかもしれない!」と不安になって慌てて来院するパターンが多いものと推測されます。
殺鼠剤中毒は2歳までの猫で多く、全体の78.2%を占めていました。救急外来全体における同じ年齢層の割合は33.2%ですので、明らかにこの年齢層のリスクが高いと考えられます。「好奇心は猫を殺す」というのは古い言い回しですが、好奇心に駆られた子猫~若齢猫が家の中や納屋を探検しているうちに殺鼠剤に出くわし、ついつい鼻を突っ込んでしまうのかもしれません。
受診した猫のうち67.6%は室内飼いで放し飼いは14.7%に過ぎませんでした。このデータは「室内飼いされている猫の方が中毒にかかりやすい」ということを示しているのではなく、放し飼いされている猫はそもそも何を口にしたのかがモニタリングされていないということを示しています。家の中に散らばっている殺鼠剤を見つけない限り「うちの猫が殺鼠剤を食べたかもしれない!」という主訴で来院しませんので、患猫はどうしても室内飼いに偏ってしまいます。
症例の20%では環境の急激な変化が受診に先行していました。そしてそのうち10.3%は引っ越しや住居の移動だったと言います。引越しのゴタゴタで荷物をその辺に置きっぱなしにしていること、および新しい環境に慣れていない猫があちこち探検したがることが中毒のリスクを高めているものと推測されます。
中毒症例は秋に多く春に少ない傾向が見られました。夏の降雨量が増えると秋になってネズミの個体数が増え、殺鼠剤を使う家庭が増えるため、猫の症例も連動して増えるものと推測されます。
治療に際しては57症例において催吐が試みられましたが、成功したのはそのうち19症例(33%)に過ぎませんでした。具体的には以下のよう内訳です。
猫への催吐治療と成功率
- 過酸化水素3~40 mL/頭×3回(5~10分のインターバルをおいて)→成功率14%(2/14)
- 静注アポモルヒネ0.015mg/kg→成功率0%(0/3)
- 静注キシラジン0.2~0.44 mg/kg→成功率41%(14/34)