鶏の羽根とヒ素
キャットフードやドッグフードのラベルでたまに目にする「フェザーミール」という言葉。これは何を原料としたどのような成分なのでしょうか?そして有毒性や発がん性が確認されている重金属「ヒ素」と、いったいどのような関係にあるのでしょうか?
フェザーミールとは?
フェザーミール(feather meal)とは、食用の鶏から人間用の鶏肉を取り去った後に残る羽根を加工して粉状にしたものです。
日本国内においては、化製場法の認可を受けたフェザー処理業者(レンダリング工場)が原料となる鶏の羽根を食肉工場や食肉小売店などから回収し、加熱、脱脂、真空乾燥、粉砕といった工程を経て製造します。用途は肥料や動物用の飼料などです。ここで言う飼料には、犬や猫向けに作られるペットフードも含まれます。
ヒ素の危険性
ヒ素(砒素)とは原子番号33の重金属の一種。日本国内では、鉱山労働者の健康問題や鉱山周辺の環境汚染問題(土呂久砒素公害, 1920~1960)、粉ミルクに混入したヒ素による中毒事件(森永ヒ素ミルク中毒事件, 1955)、カレーに盛られたヒ素によって4名の死者を出した殺人事件(和歌山毒物カレー事件, 1998)などから、猛毒というイメージが定着しています。また2004年7月には、日本から輸入したヒジキに無機ヒ素が多く含有されていることを懸念した英国食品規格庁(UKFSA)が、摂食を控えるよう勧告したことから、日本国内においてもヒジキの安全性を疑う声が強まりました。
急性毒性としては吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、ショック、最悪の場合は死。慢性毒性としては皮膚の角化や色素沈着、骨髄障害、末梢性神経炎、黄疸、腎不全などが確認されています。また国際がん研究機関 (IARC)では、単体のヒ素および無機ヒ素化合物がグループ1(=ヒトに対して発がん性が認められる)、そして無機ヒ素の代謝物であるモノメチルアルソン酸MMA(V)とジメチルアルシン酸DMA(V)をグループ2B(ヒトに対して発がん性を有する可能性がある)に分類しています。
急性毒性としては吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、ショック、最悪の場合は死。慢性毒性としては皮膚の角化や色素沈着、骨髄障害、末梢性神経炎、黄疸、腎不全などが確認されています。また国際がん研究機関 (IARC)では、単体のヒ素および無機ヒ素化合物がグループ1(=ヒトに対して発がん性が認められる)、そして無機ヒ素の代謝物であるモノメチルアルソン酸MMA(V)とジメチルアルシン酸DMA(V)をグループ2B(ヒトに対して発がん性を有する可能性がある)に分類しています。
ヒ素は羽根にたまりやすい!
ヒ素はチオール(水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物の総称)を豊富に含んだケラチンと結合しやすいという性質を持っています。ヒ素中毒患者の手や足がどす黒く変色するのも、こうした組織にケラチンが豊富に含まれているためです。皮膚以外では、同じくケラチンを多く含んだ動物の被毛や鳥の羽根もヒ素が蓄積しやすい部位といえます。
ここまで来ると勘がいい人の頭の中では疑問がわき上がっているはずです。例えば「鶏の餌にヒ素が含まれていると羽根の中に蓄積する。するとフェザーミールに加工したときペットフードに混入してしまうのではないか?」などです。果たして日本国内のペットフードは大丈夫なのでしょうか?結論から言うと安心できません。以下ではヒ素の具体的な混入ルートと危険性について考えていきたいと思います。
ここまで来ると勘がいい人の頭の中では疑問がわき上がっているはずです。例えば「鶏の餌にヒ素が含まれていると羽根の中に蓄積する。するとフェザーミールに加工したときペットフードに混入してしまうのではないか?」などです。果たして日本国内のペットフードは大丈夫なのでしょうか?結論から言うと安心できません。以下ではヒ素の具体的な混入ルートと危険性について考えていきたいと思います。
ヒ素の混入・国内編
犬や猫向けに製造されるペットフードは、国産であれ外国産であれ、様々なルートを通じてヒ素に汚染される危険性をはらんでいます。以下は国内における一例です。
鶏の飼料
ペットフードへのヒ素混入ルートとして真っ先に思い浮かぶのは鶏の飼料(エサ)です。日本国内では飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(以降、飼料安全法)に基づき、農林水産大臣が飼料添加物を指定しています。150種類を超えるさまざまな成分が指定されていますが、その中にヒ素は含まれていません。つまり使用してはいけないということです。
また同じく飼料安全法により飼料中の農薬、カビ毒、重金属などに対しては具体的な含有上限値が定められています。ヒ素に関しては以下です。
また同じく飼料安全法により飼料中の農薬、カビ毒、重金属などに対しては具体的な含有上限値が定められています。ヒ素に関しては以下です。
飼料中のヒ素上限値(mg/kg)
- 配合飼料→2
- 稲わら→7
- 魚粉→15
- 肉粉及び肉骨粉→7
食肉処理・レンダリング
適切な月齢に達した鶏たちはその後、食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律の認可を受けた食鳥処理場に移送され、食肉に加工されます。人間用の食肉を取り去った後の足、頭部、羽根は産業廃棄物という扱いです。これらの廃棄物は化製場法の認可を受けたフェザー処理業者(レンダリング工場)に運ばれ、先述した方法でフェザーミールに加工されます。
レンダリング工場がどのような製品規格を持っているのかは各工場に問い合わせる必要があります。多くの場合、窒素、粗たんぱく質、粗脂肪、細菌検査くらいはしているでしょうが、基準値自体が存在していないため、おそらくヒ素の含有濃度を調べるという事はないでしょう。
国産ペットフード
加工されたフェザーミールは肥料や動物用の飼料として再利用されます。動物用の飼料は先述したように、飼料安全法に基づき抜き打ちテストが行われています。
一方、ペットフードの方はペットフード安全法によりヒ素の上限値が「15μg/g」と定められています。しかしこの値は、アメリカのFDAで幼児用のお米シリアルに設けられた「100ppb/g」に比べるとずいぶん緩い基準のように思われます。「100ppb/g」が「0.0001mg/g」であるのに対し、「15μg/g」が「0.015mg/g」ですので、単純計算で150倍です。犬や猫は人間の子供よりさらに体が小さいのに、このような基準値で果たして本当に良いのでしょうか?
検査に関してはFAMIC(農林水産消費安全技術センター)が定期的にペットフードの抜き打ち検査を行っているものの、検査項目は年によってまちまちで、ヒ素が調べられるのは全体の1/3程度に過ぎません。
一方、ペットフードの方はペットフード安全法によりヒ素の上限値が「15μg/g」と定められています。しかしこの値は、アメリカのFDAで幼児用のお米シリアルに設けられた「100ppb/g」に比べるとずいぶん緩い基準のように思われます。「100ppb/g」が「0.0001mg/g」であるのに対し、「15μg/g」が「0.015mg/g」ですので、単純計算で150倍です。犬や猫は人間の子供よりさらに体が小さいのに、このような基準値で果たして本当に良いのでしょうか?
検査に関してはFAMIC(農林水産消費安全技術センター)が定期的にペットフードの抜き打ち検査を行っているものの、検査項目は年によってまちまちで、ヒ素が調べられるのは全体の1/3程度に過ぎません。
ヒ素の混入・輸入原料編
鳥の羽根は日本国内のみならず海外からも輸入されています。農林水産省の農林水産物輸出入統計によると、「羽毛・羽毛皮」 に関し2018年8月で台湾(675トン)、中国(456トン)、ポーランド(130トン)という輸入実績になっています。
「鶏の羽根」と限定されているわけではないため使途は不明ですが、輸入した羽根をフェザーミールに加工しているのだったら、中にヒ素が含まれている可能性を否定できません。例えば、羽根の輸入国筆頭である台湾ではヒ素を含む生長促進剤「ロキサルソン」(Roxarsone)が2015年7月1日から使用禁止になっているものの、その他の国ではどうでしょうか?使用が認可されている国から輸入した鶏の羽には、高濃度のヒ素が含まれていると考えたほうが無難でしょう。
家畜伝染病予防法では「鶏、うずら、きじ、だちよう、ほろほろ鳥及び七面鳥並びにあひる、がちようその他のかも目の鳥類の羽根」が指定検疫物になっており、輸入に際してはチェックを受けることになっています。しかしチェックのメインは伝染病を広げる可能性がある病原体であり、ヒ素をはじめとした重金属ではありません。海外から輸入された鳥の羽根にヒ素が混入していても気づかれないまま国内に入り込む可能性は大いにあります。
ちなみに羽根などの副産物ではなく「食用の鶏肉」(鶏の筋肉)に関しては、ポジティブリスト制度にのっとり、海外から輸入されるものに対してランダムでチェックが行われています。日本は輸入量の75%をブラジルに頼っている状態ですが、「ヒ素」のチェックがなぜか行われていません。2015年、アメリカの食品医薬品局(FDA)はヒ素を含む成長促進剤4種の認可を取り下げ、国内での使用を禁止しました。一方ブラジルに関しては2011年以降、各国に足並みをそろえる形でロキサルソンの使用を禁止したというニュースを聞きません。大丈夫なのでしょうか?
「鶏の羽根」と限定されているわけではないため使途は不明ですが、輸入した羽根をフェザーミールに加工しているのだったら、中にヒ素が含まれている可能性を否定できません。例えば、羽根の輸入国筆頭である台湾ではヒ素を含む生長促進剤「ロキサルソン」(Roxarsone)が2015年7月1日から使用禁止になっているものの、その他の国ではどうでしょうか?使用が認可されている国から輸入した鶏の羽には、高濃度のヒ素が含まれていると考えたほうが無難でしょう。
家畜伝染病予防法では「鶏、うずら、きじ、だちよう、ほろほろ鳥及び七面鳥並びにあひる、がちようその他のかも目の鳥類の羽根」が指定検疫物になっており、輸入に際してはチェックを受けることになっています。しかしチェックのメインは伝染病を広げる可能性がある病原体であり、ヒ素をはじめとした重金属ではありません。海外から輸入された鳥の羽根にヒ素が混入していても気づかれないまま国内に入り込む可能性は大いにあります。
ちなみに羽根などの副産物ではなく「食用の鶏肉」(鶏の筋肉)に関しては、ポジティブリスト制度にのっとり、海外から輸入されるものに対してランダムでチェックが行われています。日本は輸入量の75%をブラジルに頼っている状態ですが、「ヒ素」のチェックがなぜか行われていません。2015年、アメリカの食品医薬品局(FDA)はヒ素を含む成長促進剤4種の認可を取り下げ、国内での使用を禁止しました。一方ブラジルに関しては2011年以降、各国に足並みをそろえる形でロキサルソンの使用を禁止したというニュースを聞きません。大丈夫なのでしょうか?
ヒ素の混入・輸入フード編
ペットフードが海外ですぐに製造されている場合、中にヒ素が含まれているかどうかは念入りに調べる必要があります。例えば以下のような項目です。
- ヒ素系成長促進が動物用飼料に認可されているか?
- 上限値は設定されているか?
- フェザーミールのヒ素濃度はチェックしているか?
- 輸入業者は製品中のヒ素濃度はチェックしているか?
ヒ素の毒性と規制
短期的にも長期的にも毒性を発揮することが確認されているヒ素ですが、規制に関しては国によってまちまちなようです。
日本での規制と基準
日本国内では水道法による水道水質基準によりヒ素及びその化合物の濃度基準が「0.01mg/L以下」とされています(厚生労働省, 2003)。それに対し、畜産物や水産物に関しては摂取量の基準値が設けられていません。食品安全委員会による見解は「無機ヒ素に遺伝毒性があり、発がん性を有している可能性は否定できないものの、現在得られている知見からは、ヒ素の直接的なDNAへの影響の有無について判断することはできない」というものです。
海外での規制と基準
一方、世界的にはヒ素を含有する可能性が高い食品に関して上限値が設けられています。以下は一例で単位は「mg/kg」です。
Codex(世界食品規格)
- 食用油脂(総ヒ素)=0.1
- 精米(無機ヒ素)=0.2
- 玄米(無機ヒ素)=0.35
- 食塩(総ヒ素)=0.5
EU(ヨーロッパ連合)
- 精米(無機ヒ素)=0.2
- 乳幼児用食品向けの米(無機ヒ素)=0.1
FDA(アメリカ食品医薬品局)
- リンゴジュース(無機ヒ素)=0.01
- 乳幼児ライスシリアル(無機ヒ素)=0.1
オーストラリア・ニュージーランド
- 穀物(総ヒ素)=1
- 甲殻類(無機ヒ素)=2
- 魚(無機ヒ素)=2
- 軟体動物(無機ヒ素)=1
- 海藻(無機ヒ素)=1
ペットフードのヒ素上限値
日本のペットフード安全法で設定されているドッグフードとキャットフードの上限値は「15mg/kg」(=15μg/g)になっています。詳細に検討していくと、この数値はずいぶんと甘いようです。動物や人間を対象とした調査により、ヒ素が毒性を発揮する最小量に関する知見がいくつか報告されています。以下は一例です。
また日本で設定されているペットフードのヒ素上限値「15μg/g」を当てはめてみると、猫が1日100g食べると仮定して、1日最大で1500μg(=1.5mg)ものヒ素を摂取してしまうことになります。さすがに致死量ではありませんが、人間に対して設けられている上限値と比べると、かなり甘いとしか言いようがありません。
ヒ素の摂取上限量
- LD50JECFA(WHOとFAOの合同機関)は、毒性が強いとされる無機ヒ素の一種「亜ヒ酸」のラットにおけるLD50(半数が死亡する量)を、体重1kg当たり1日「15mg」としています。猫の体重が4kgなら60mg、5kgなら75mgになるでしょう。
- 肺がんのBMDL0.5JECFA(WHOとFAOの合同機関)は、肺がんの発生率が0.5%増加する無機ヒ素のBMDL0.5(安全側の95%信頼下限値)を、体重1kg当たり1日「3.0μg」(2.0~7.0μg)と算出しています。猫の体重が4kgなら12μg(0.012mg)、5kgなら15μg(0.015mg)になるでしょう。
- 皮膚病変のNOAELATSDR(アメリカの毒物調査機関)は、人間における皮膚病変のNOAEL(無有害作用量)を体重1kg当たり1日「0.8μg」と推定しています。猫の体重が4kgなら3.2μg(0.0032mg)、5kgなら4μg(0.004mg)になるでしょう。
また日本で設定されているペットフードのヒ素上限値「15μg/g」を当てはめてみると、猫が1日100g食べると仮定して、1日最大で1500μg(=1.5mg)ものヒ素を摂取してしまうことになります。さすがに致死量ではありませんが、人間に対して設けられている上限値と比べると、かなり甘いとしか言いようがありません。
飼い主の注意点
ペットフードのヒ素含有量は、有機ヒ素と無機ヒ素の割合やその他の原料などによって多少は毒性が薄まると考えられます。とは言え、飼い主として不安が残ることに変わりはありません。ペットフードを選ぶときは、最低限以下の点に注意しましょう。
フェザーミールの注意点
- ペットフードにヒ素が混入する可能性がある
- ヒ素はフェザーミールに多く含まれる
- ペットフードのヒ素はあまりチェックされていない
- 法律が定める上限値はなぜか人間の10倍近い