詳細
EU(欧州連合)では2007年に「Regulation (n.1523)」が制定されたことにより、加盟国が犬や猫の毛皮を輸出入することが一律で禁止されました。しかしこの規制は、製品の中に犬や猫の被毛が含まれているかどうかを判定するのが難しいことから、ほとんど有形無実になっているというのが現状です。そこでかねてから、安価かつ実用的で高い精度で製品中の動物を見分けることができる方法が待ち望まれていました。
今回の報告を行ったのはイタリアにある「Istituto Zooprofilattico Sperimentale delle Regioni Lazio e Toscana」の調査チーム。毛皮製品からミトコンドリアDNAを取り出し、種に特異的ではないプライマーを用いて科(イヌ科やネコ科)を特定した後、種特異的なプライマーを用いて種(イエイヌやイエネコ)を特定するという2段階のシークエンスで動物種の判定を行ったところ、以下のようなメリットを有していることが明らかになったといいます。
Garofalo L, Mariacher A, Fanelli R, Fico R, Lorenzini R. Amorim A, ed. AeerJ. 2018;6:e4902. doi:10.7717/peerj.4902.
2段階mDNAシークエンス
- 高い感度で種を特定できる
- 劣化したDNAサンプルからも判定が可能
- 人間のDNAによる汚染を排除できる
- 手順が実用的で標準的なラボの設備で実施可能
Garofalo L, Mariacher A, Fanelli R, Fico R, Lorenzini R. Amorim A, ed. AeerJ. 2018;6:e4902. doi:10.7717/peerj.4902.
解説
犬や猫が愛玩動物として生活の一部になるにつれ、こうした動物の毛皮を羽織る事に対する嫌悪感が高まり、ヨーロッパのさまざまな国において毛皮の使用や流通を規制する法律が制定されるようになりました。その最たる例が2007年に制定された「Regulation (n.1523)」です。この規制では加盟国がイヌ(Canis lupus familiaris)、ネコ(Felis catus)、ヤマネコ(Felis silvestris)の毛皮製品を輸入したり輸出したりすることが禁じられています。
しかしどの国においても、上記したような規制は有形無実になっており、ブラックマーケットが存在しているのが現状です。例えば2017年には、イギリスの高級小売店「House of Fraser」や「Missguided」においてフェイクファーとして売られていた製品が、実は本物の毛皮であることが判明しニュースになりました(→sky news)。「フェイク・フェイクファー」と言ったところでしょうか。 こうしたブラックマーケットが暗躍している理由は、製品に含まれる動物を特定する簡便な方法がないからです。従来は顕微鏡を通して肉眼で判定するという方法が用いられることがありましたが、この方法には「熟練を要する」「参照サンプルの収集が困難」といった欠点があります。また被毛に含まれるケラチンと呼ばれるタンパク質から動物を化学的に判定する「MALDI-TOFマススペクロトメトリー」といった方法もありますが「高価で場所を取る」「小回りがきかない」といった欠点があります。ブラックマーケットを撲滅するためには、両者の欠点を克服した画期的な実用的な判定法が必要です。その方法として期待されているのが、今回登場した「2段階mDNAシーケンス」ということになります。 精度に関してはまだまだ改善の余地はありますが、実用性が高まれば、違法に輸入された製品が小売店に流れることを阻止し、最終的にはヨーロッパにおける市場が縮小してくれるものと期待されます。一方、ヨーロッパに毛皮を輸出している東南アジアや中国では、犬や猫の命が驚くほど軽く、犬肉や猫肉を食べたり毛皮を売りさばくといったことが、合法と違法とを問わず横行しています。例えば以下は2013年、中国の上海で押収されたおよそ600頭にも及ぶ猫たちの写真です。小さな木箱の中に押し込まれて、食用・毛皮用として運搬される最中でした。 こうした国々におけるマーケットを縮小するためには、それを規制するための法律と、動物の見方に対する国民の根本的な変革が必要となるでしょう。これは数十年単位で少しずつクリアすべき長期的な課題です。
しかしどの国においても、上記したような規制は有形無実になっており、ブラックマーケットが存在しているのが現状です。例えば2017年には、イギリスの高級小売店「House of Fraser」や「Missguided」においてフェイクファーとして売られていた製品が、実は本物の毛皮であることが判明しニュースになりました(→sky news)。「フェイク・フェイクファー」と言ったところでしょうか。 こうしたブラックマーケットが暗躍している理由は、製品に含まれる動物を特定する簡便な方法がないからです。従来は顕微鏡を通して肉眼で判定するという方法が用いられることがありましたが、この方法には「熟練を要する」「参照サンプルの収集が困難」といった欠点があります。また被毛に含まれるケラチンと呼ばれるタンパク質から動物を化学的に判定する「MALDI-TOFマススペクロトメトリー」といった方法もありますが「高価で場所を取る」「小回りがきかない」といった欠点があります。ブラックマーケットを撲滅するためには、両者の欠点を克服した画期的な実用的な判定法が必要です。その方法として期待されているのが、今回登場した「2段階mDNAシーケンス」ということになります。 精度に関してはまだまだ改善の余地はありますが、実用性が高まれば、違法に輸入された製品が小売店に流れることを阻止し、最終的にはヨーロッパにおける市場が縮小してくれるものと期待されます。一方、ヨーロッパに毛皮を輸出している東南アジアや中国では、犬や猫の命が驚くほど軽く、犬肉や猫肉を食べたり毛皮を売りさばくといったことが、合法と違法とを問わず横行しています。例えば以下は2013年、中国の上海で押収されたおよそ600頭にも及ぶ猫たちの写真です。小さな木箱の中に押し込まれて、食用・毛皮用として運搬される最中でした。 こうした国々におけるマーケットを縮小するためには、それを規制するための法律と、動物の見方に対する国民の根本的な変革が必要となるでしょう。これは数十年単位で少しずつクリアすべき長期的な課題です。