詳細
調査を行ったのは京都大学心理学研究室を中心としたチーム。オキシトシン受容器の形成に関与している遺伝子「OXTR」とその近辺に存在しているマイクロサテライトにターゲットを絞り、普通の雑種猫と純血種との間に一体どのような違いが見られるのかを遺伝子レベルで比較しました。
さらに雑種猫の飼い主にアンケート調査を行い、猫の性格を「開放性」「友好性」「荒っぽさ」「神経質」という4つの切り口で評価していったところ、猫の属性やポリモーフィズムと性格傾向の間に以下のような関連性が見つかりました。
Arahori M, Chijiiwa H, Takagi S, Bucher B, Abe H, Inoue-Murayama M and Fujita K (2017) Microsatellite Polymorphisms Adjacent to the Oxytocin Receptor Gene in Domestic Cats: Association with Personality? Front. Psychol. 8:2165. doi: 10.3389/fpsyg.2017.02165
- マイクロサテライト
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「マイクロサテライト」(microsatellite)とは長大なDNAの塩基配列のうち、数塩基が1単位となって複数回繰り返している箇所のこと。縦列型反復配列(short tandem repeat, STR)とも。下の例で言うと「CTT」が8回繰り返しているような部分を指す。
遺伝子にそばにあるマイクロサテライトが遺伝子の転写や翻訳に影響を及ぼしている可能性が示唆されている。特に注目されているのは、DNAからRNAを合成する転写プロセスの開始に関与する「プロモーター」と呼ばれる遺伝子の上流領域に含まれるもの。
さらに雑種猫の飼い主にアンケート調査を行い、猫の性格を「開放性」「友好性」「荒っぽさ」「神経質」という4つの切り口で評価していったところ、猫の属性やポリモーフィズムと性格傾向の間に以下のような関連性が見つかりました。
猫の性格と影響因子
- 開放性若い猫>年配の猫
- 荒っぽさ手術済みのメス猫>未手術のオス猫
- 友好性✓オス猫>メス猫
✓MS3と4が長い雑種>短い雑種
✓MS3が「長/長」もしくは「長/短」>「短/短」(※弱い関連)
✓MS4が「長/短」のメス>その他のメス
✓MS4が「長/長」のオス猫>その他のオス
Arahori M, Chijiiwa H, Takagi S, Bucher B, Abe H, Inoue-Murayama M and Fujita K (2017) Microsatellite Polymorphisms Adjacent to the Oxytocin Receptor Gene in Domestic Cats: Association with Personality? Front. Psychol. 8:2165. doi: 10.3389/fpsyg.2017.02165

解説
過去に行われた調査では、純血種の猫よりも雑種猫の方が「友好性」が高いと報告されています(Takeuchi and Mori, 2009)。今回の調査ではMS5以外のマイクロサテライトに関し、純血種よりも雑種の方が長いことが確認されました。またMS3と4が長い雑種の方が短い雑種よりも友好性が高いことが確認されています。まとめると「純血種よりも雑種の方がMS3と4が長く友好性が高い」となるでしょう。しかしMS3やMS4が本当に遺伝子の発現に影響を及ぼしているのか、それとも単なる見かけ上の関連性なのかはわかっていませんので、早計な一般化は危険です。
人間を対象とした調査ではOXTRの遺伝子型に性差がある可能性が示唆されています。また猫を対象として行われた調査では、性別、不妊手術の有無、OXTRの遺伝子型と「荒っぽさ」との間に関連性があると報告されています(Arahori et al., 2016)。逸話的に聞かれる「メスよりもオスのほうが温厚」とか「不妊手術をしたら猫の性格が変わった」といった話には、性ホルモンのほかOXTR遺伝子の発現様式やオキシトシンホルモンが関わっているのかもしれません。
ネコ科動物の中で群れを作るライオン、チーター、そしてイエネコには、オキシトシンに関連した遺伝的な共通素地(OXTRやAVPR1Aなど)があるのではないかと推測しています。この辺の調査は今後の課題です。

ネコ科動物の中で群れを作るライオン、チーター、そしてイエネコには、オキシトシンに関連した遺伝的な共通素地(OXTRやAVPR1Aなど)があるのではないかと推測しています。この辺の調査は今後の課題です。