トップ2018年・猫ニュース一覧4月の猫ニュース4月4日

子猫に対する術後のコーンシロップ投与で血糖値は上がらない

 子猫が去勢や避妊手術を受けた直後、血糖値を上げるため口の中に投与されるコーンシロップには全く意味がない可能性が示されました(2018.4.4/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカ・アリゾナ州にあるミッドウエスタン大学のチーム。短時間で多くの猫たちに去勢や避妊手術を行うHQHVクリニックで手術を受けた子猫たちを対象とし、手術の直後、低血糖を予防するため慣習的に頬の粘膜に塗りつけられるコーンシロップが、本当に血糖値を上げているのかどうかが検証されました。 HQHVクリニックでは短時間で多数の犬や猫に不妊手術を行う  手術の前、手術の直後、手術から20分後というタイミングで子猫たちの血統値を計測したところ、以下のような結果になったといいます。両グループの体重、BCS、年齢は統計的な格差が生まれないよう均一化されています。
シロップなしグループ
  • オス猫20+メス猫17
  • 年齢=中央値で10週齢
  • 体重=中央値で1.1kg
  • 体型=中央値で4(9段階評価)
  • 術前血糖値=96.0mg/dl
  • 手術直後血糖値=144.0mg/dl
  • 術後20分血糖値=159.0mg/dl
シロップありグループ
  • オス猫20+メス猫18
  • 年齢=中央値で10週齢
  • 体重=中央値で1.1kg
  • 体型=中央値で4(9段階評価)
  • 術前血糖値=105.5mg/dl
  • 手術直後血糖値=143.5mg/dl
  • 術後20分血糖値=157.0mg/dl
手術直後におけるコーンシロップの投与は子猫の血糖値に影響を及ぼさない  両グループの間で周術期(術前 | 術中 | 術後)における血糖値に統計的な違いは一切見られませんでした。こうした結果から調査チームは、慣習的に行われている手術直後のコーンシロップ投与にはあまり意味がない可能性が高いとの結論に至りました。ただし調査が行われたのはHQHVクリニックだったため、麻酔や手術の時間が比較的長い一般の動物病院において同じことが言えるかどうかは断定できないとしています。
Effect of transmucosal corn syrup application on postoperative blood glucose concentrations in kittens
Heather N Cornell, Stephanie L Shaver, doi.org/10.1177/1098612X17705537, Journal of Feline Medicine and Surgery 2018, Vol. 20(4)

解説

 生後半年未満の子猫においては肝臓の機能が十分に発達しておらず、グリコーゲンを貯蔵する能力が少ないため、手術の後で低血糖に陥りやすいとされています。こうした状況を避けるため獣医療の現場では、去勢や避妊手術で子猫に麻酔をかけた直後、上あごの頬粘膜にコーンシロップを塗りつけることが慣習となっていました。しかしこれらの知識はすべて人間の小児医学から転用したものであり、子猫にそっくりそのまま当てはまるのかどうかは誰も検証していなかったというのが現状です。
 今回の調査により、周術期のどの段階においても子猫が低血糖に陥ることがないことが明らかになりました。また頬粘膜にコーンシロップを塗りつけても、血糖値が影響を受けないことが同時に明らかになりました。つまり、今まで慣習的にやってきた処置が前提からして全く無意味かもしれないということです。
 コーンシロップを投与されたグループでも投与されなかったグループでも、手術の前後において低血糖に陥ることはありませんでした。しかし逆に、手術直後のタイミングでは44%(33/75)、手術から20分後のタイミングでは55%(41/75)の子猫たちが高血糖(150mg/dl超)を示したといいます。外から糖分を加えていないはずの手術直後における血糖値が上昇した理由としては、見知らぬ場所に連れて来られるとか体を触られることによるストレス誘発性高血糖や、手術による外傷がHPA軸を刺激して肝臓における糖新生を促したなどが想定されています。
 コーンシロップを投与したにもかかわらず血糖値が影響を受けなかった理由としては、そもそも猫は完全肉食性であるため、口腔内において糖質を感知する能力やグルコースを輸送するメカニズムが発達していないなどが想定されています。
 小児医学においては、周術期における高血糖が治癒の遅れや感染症の危険性増大といった悪影響を及ぼすと報告されています。もし同じことが猫にも当てはまるのだとすると、子猫の手術において心配すべきは低血糖ではなく、むしろ高血糖の方だと言えそうです。今回の調査により、手術直後のコーンシロップ投与は毒にも薬にもなっていない可能性が浮上してきましたので、今後省略される流れになるかもしれません。また同じ理由で、ぐったりした子猫に対する応急処置としてコーンシロップを口の粘膜に塗りつけるという方法は見直される可能性があります。 猫の去勢と避妊手術 猫の低血糖