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猫が倒し窓(ボトムハング)に挟まれて死亡するケースは意外と多い

 上部を開閉するタイプの倒し窓を通ろうとした猫が、挟まれて死亡してしまうケースが意外に多いことが明らかになりました(2017.9.4/オーストリア)。

詳細

 報告を行ったのは、オーストリアにある「Clinic for Small Animal Surgery」。2001~2012年の期間、クリニックを受診した猫のうち、下部を支点として上部を開閉する「ボトムハング」と呼ばれるタイプの倒し窓に挟まれたことがある猫をピックアップしました。 下部を蝶番にして上部を開閉する「ボトムハングウィンドウ」(倒し窓)  その結果、合計98もの症例が認められたと言います。除外項目として「受診時すでに死亡していた」、「片足だけ挟まれた」、「神経学的検査を行わなかった」、「神経学的症状が見られなかった」を設定し、対麻痺(両足に麻痺があり動かない)や不全対麻痺(両足に麻痺はあるが少しは動く)を発症した71症例にまで絞った上で統計的な解析を行ったところ、以下のような事実が明らかになりました。
窓による腹部圧迫障害
  • 年齢中央値=2.4歳
  • 2歳未満の割合=52%
  • 性差=オスメス半々程度
  • 入院期間=中央値で4日
  • 38.0℃未満の低体温=84%(54/64)
  • 低体温の中央値=35.1℃
  • 39.3℃超の高体温=なし
  • 後肢が冷たくなっている=70%(17/24)
  • 大腿動脈の拍動の微弱~消滅=65%(40/62)
  • 後肢の筋硬直=69%(11/16)
  • 後肢の脱力=25%(4/16)
  • 膝蓋腱反射減弱=75%(38/51)
  • 全体死亡率=35%(25/71)
  • 死亡例中の自然死=68%(17/25)
  • 死亡例中の安楽死=32%(8/25)
 猫の下半身に発生した麻痺の程度を「スコットの分類スキーム」に沿って分類していった所、以下のような内訳になりました。
麻痺の程度と予後
  • グレード1触診時に痛みがある=7頭(10%) | 死亡率0
  • グレード2不全対麻痺で歩行可能=7頭(10%) | 死亡率0
  • グレード3不全対麻痺で歩行不可能=13頭(18%) | 死亡例は3頭(23%)
  • グレード4対麻痺=13頭(18%) | 死亡例は5頭(38.5%)
  • グレード5対麻痺+深部痛覚の喪失=31頭(44%) | 死亡例は17ケース(55%)で、6頭が安楽死、11頭が自然死
 最も重いグレード5に属する猫たちの死亡率は有意に高く、全体の死亡率が35%だったのに対しグレード5の死亡率は55%と大幅に上回っていました。また、死亡例25症例のうち64%に相当する16症例では、突発性の呼吸器症状が見られたとも。呼吸器症状が発生する原因としては、下肢の虚血-再かん流に伴って活性酸素や一酸化窒素(NO)といったフリーラジカルが生成され、肺の血管内皮透過性が上昇して間質性浮腫が引き起こされたからではないかと推測されています。
‘Bottom-hung window’ trauma in cats: neurological evaluation and outcome in 71 cats with bilateral hindlimb injury.
Gradner GM, Dogman-Rauberger L, Dupre G. Veterinary Record Open 2017;4:e000175. doi:10.1136/vetreco-2016-000175

解説

 倒し窓は一般的に防犯性が高いとされていますが、「泥棒猫」には関係ないようです。狭い隙間を潜り抜けようとしてそのままトラップされ、長時間腹部を圧迫されて神経症状につながるものと考えられます。腹部には大静脈や大動脈といった太い血管が通っていますので、ここを圧迫されると下半身への血流が阻害され、神経がダメージを受けて感覚や反射の喪失が起こるのでしょう。猫は脊髄への血流が途絶えても、30分程度であれば回復するとされていますが、それ以上の長い時間血流障害が続くと不全対麻痺や対麻痺といった重い症状を発症してしまうようです。 猫が倒し窓に挟まれないような室内環境の整備が必要  最も症状が重いグレード5では半数以上が死に至り、6割が悶死、4割が人道的な配慮からの安楽死という内訳でした。倒し窓が室内にある家庭においては、「こんな狭いところわざわざ使わないだろう」と高をくくらず、猫がアクセスできないよう部屋のデザインを変えておく必要があります。 猫を飼う室内環境の整え方