詳細
報告を行ったのは、オーストリアにある「Clinic for Small Animal Surgery」。2001~2012年の期間、クリニックを受診した猫のうち、下部を支点として上部を開閉する「ボトムハング」と呼ばれるタイプの倒し窓に挟まれたことがある猫をピックアップしました。
その結果、合計98もの症例が認められたと言います。除外項目として「受診時すでに死亡していた」、「片足だけ挟まれた」、「神経学的検査を行わなかった」、「神経学的症状が見られなかった」を設定し、対麻痺(両足に麻痺があり動かない)や不全対麻痺(両足に麻痺はあるが少しは動く)を発症した71症例にまで絞った上で統計的な解析を行ったところ、以下のような事実が明らかになりました。
Gradner GM, Dogman-Rauberger L, Dupre G. Veterinary Record Open 2017;4:e000175. doi:10.1136/vetreco-2016-000175
窓による腹部圧迫障害
- 年齢中央値=2.4歳
- 2歳未満の割合=52%
- 性差=オスメス半々程度
- 入院期間=中央値で4日
- 38.0℃未満の低体温=84%(54/64)
- 低体温の中央値=35.1℃
- 39.3℃超の高体温=なし
- 後肢が冷たくなっている=70%(17/24)
- 大腿動脈の拍動の微弱~消滅=65%(40/62)
- 後肢の筋硬直=69%(11/16)
- 後肢の脱力=25%(4/16)
- 膝蓋腱反射減弱=75%(38/51)
- 全体死亡率=35%(25/71)
- 死亡例中の自然死=68%(17/25)
- 死亡例中の安楽死=32%(8/25)
麻痺の程度と予後
- グレード1触診時に痛みがある=7頭(10%) | 死亡率0
- グレード2不全対麻痺で歩行可能=7頭(10%) | 死亡率0
- グレード3不全対麻痺で歩行不可能=13頭(18%) | 死亡例は3頭(23%)
- グレード4対麻痺=13頭(18%) | 死亡例は5頭(38.5%)
- グレード5対麻痺+深部痛覚の喪失=31頭(44%) | 死亡例は17ケース(55%)で、6頭が安楽死、11頭が自然死
Gradner GM, Dogman-Rauberger L, Dupre G. Veterinary Record Open 2017;4:e000175. doi:10.1136/vetreco-2016-000175
解説
倒し窓は一般的に防犯性が高いとされていますが、「泥棒猫」には関係ないようです。狭い隙間を潜り抜けようとしてそのままトラップされ、長時間腹部を圧迫されて神経症状につながるものと考えられます。腹部には大静脈や大動脈といった太い血管が通っていますので、ここを圧迫されると下半身への血流が阻害され、神経がダメージを受けて感覚や反射の喪失が起こるのでしょう。猫は脊髄への血流が途絶えても、30分程度であれば回復するとされていますが、それ以上の長い時間血流障害が続くと不全対麻痺や対麻痺といった重い症状を発症してしまうようです。
最も症状が重いグレード5では半数以上が死に至り、6割が悶死、4割が人道的な配慮からの安楽死という内訳でした。倒し窓が室内にある家庭においては、「こんな狭いところわざわざ使わないだろう」と高をくくらず、猫がアクセスできないよう部屋のデザインを変えておく必要があります。