詳細
調査を行ったのは、フィンランド・ヘルシンキ大学の獣医生物学部チーム。国内に暮らす猫の飼い主やブリーダーを対象としてオンラインのアンケート調査を行い、子猫が母猫と離ればなれになる離乳の時期と成長後の問題行動との間にどのような関連性があるのかを検証しました。合計40品種・5,726頭分のデータを元に統計的に計算したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。なお「>」(だいなり)は「そちらの週齢の方が高い確率で見られる」という意味です。
Milla K. Ahola, Katariina Vapalahti & Hannes Lohi, Scientific Reports 7, Article number: 10412 (2017), doi:10.1038/s41598-017-11173-5
離乳時期と行動特性
- 8週齢>12~13週齢見知らぬ人への攻撃性 | 飼い主による問題行動報告(18%:7.9%)
- 12~13週齢>14~15週齢過剰なグルーミング
- 12週齢未満>14~15週齢見知らぬ人への攻撃性 | 飼い主による問題行動報告
- 他の週齢>成熟後別離・別離なし家族への攻撃性 | 見知らぬ人への攻撃性 | 他の猫への攻撃性 | 新規なものへの警戒心 | ウール吸い
Milla K. Ahola, Katariina Vapalahti & Hannes Lohi, Scientific Reports 7, Article number: 10412 (2017), doi:10.1038/s41598-017-11173-5
解説
母親と子獣を引き離す時期に関しては犬において盛んに研究が行われているものの、猫を対象とした調査ほとんどありませんでした。今回の調査により、病的に同じ行動を繰り返す「常同行動」(グルーミング・ウール吸い)や「人や猫への攻撃性」といった問題行動は、生後14週齢以降のタイミングで母猫と別れた猫において少なくなる可能性が示されました。この知見は、早期離乳の悪影響に関する重要なエビデンス(証拠)の1つになってくれるでしょう。
日本国内では動物愛護法により、2016年9月1日以降、生後49日齢に達していない犬や猫の引き渡しが禁止されています。しかしこの「49日齢」(生後7週齢)という数値は暫定的なもので、現在進行中の大規模な統計調査により「引き離し時期と問題行動との間に因果関係がある」と判断されれば「56日齢」(生後8週齢)と読み替えられる可能性も残っています。ただしそのタイミングは「別に法律で定める日」という極めて漠然としたものです(→出典)
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今回のフィンランドの調査では、子猫を母猫から引き離すタイミングは日本が懸念している7週齢でも8週齢でもなく「14週齢」である可能性が示されました。この知見に基づいて「子猫は生後14週齢になるまで母猫から引き離してはいけない」という法律を定めようとするとどうなるでしょう?おそらくどこからともなく生体販売の業界団体が登場し「そんなことしたら子猫の世話をするブリーダーがおまんまの食い上げだ!小売業の雇用が失われますよ!」などとゴネ始めるでしょう。そして政府も税収が目減りすることへの危惧から、業界団体の声に耳を傾けてしまうものと推測されます。そのしわ寄せを受けるのは結局、悪徳繁殖業者の劣悪な飼育環境下に軟禁される繁殖猫、そして母猫から十分な愛情を受けられず後に問題行動を起こしてしまう子猫たちです。
過去に行われた調査では、早い段階で子獣を母親から引き離しても、環境エンリッチメントさえ整えていれば常同行動を示す割合はそれほど増えないという可能性が示唆されています(→出典)。この事実が示しているのは、引き離すタイミングと同じくらい幼齢期の飼育環境が重要だと言うことです。本当の意味で動物を愛護する法律を作ろうとするならば、引き離し時期を明記するだけでなく、引き離す前段階における飼育環境に関する規定も盛り込む必要があります。現在のように、性格を形成する上で極めて重要な「社会化期」(猫の場合は2~7週齢)およびそれ以降の時期を、見知らぬ人間や騒音に囲まれてオークション会場やペットショップのショーケースで過ごすような環境は言語道断です。