詳細
調査を行ったのは、イギリスにあるハートプリー大学のチーム。過去に行われた調査で指摘されている「ストレスが高まると体の深部温度も高まる」(Ogata et al. 2006)、「深部温度と眼球温度は連動している」(Bouwknecht et al. 2007)、「眼球温度の中でも涙丘(目頭の赤い部分)が最も体温を反映する」(Stewart et al. 2008)といった事実に着目したチームは、猫の眼球温度を計測することでストレスレベルを判定できるかもしれないという仮説を立て、実験を行いました。
調査対象となったのは、イギリス国内にある3つの動物保護施設とそこに収容されている34頭の猫(全頭不妊手術済み | 雑種 | 平均年齢6.1歳)。猫たちの収容環境に「個別収容」と「グループ収容」という違いを持たせ、人間がそばにいる時のリアクションから猫の気質を評価する「猫の気質プロファイル」(FTP)と呼ばれる行動テストを行うと同時に、サーモグラフィーによる眼球温度の計測を行いました。
Shannon Foster, Carrie Ijichi, Applied Animal Behaviour Science, Volume 189 79-84, doi.org/10.1016/j.applanim.2017.01.004
- 猫の気質プロファイル
- 「猫の気質プロファイル」(FTP)は、猫が見知らぬ人間と遭遇したときの反応を第三者が客観的に観察し、合計10のシチュエーションを「積極・受容的(+)」と「消極・疑心的(-)」とに評価するというもの。猫のストレス感受性を反映すると考えられており、時間がたっても結果が変わりにくいという特徴がある(Siegford et al, 2003)。
関連性あり
- 受容的スコアと疑心的スコアは負の相関関係
- 眼球温度と受容的スコアは負の相関関係
- 眼球温度と年齢は正の相関関係
- 個別収容組の眼球平均温度(25.42℃)とグループ収容組のそれ(13.18℃)には有意差あり
関連性なし
- 眼球温度と疑心的スコア
- 年齢と受容的および疑心的スコア
- 個別収容組とグループ収容組の受容的および疑心的スコア
Shannon Foster, Carrie Ijichi, Applied Animal Behaviour Science, Volume 189 79-84, doi.org/10.1016/j.applanim.2017.01.004
解説
年齢とFTPスコア(受容的および疑心的)に関連性は見られませんでしたが、年齢と眼球温度は正の相関関係にあることがわかりました。つまり年齢が高ければ高いほど眼球温度も上がる(ストレスレベルが上がる)ということです。FTPテストだけでは分からないものの、ひょっとすると老猫はストレスを感じているのかもしれません。騒音や環境の変化を極力減らしてあげるといった配慮が望まれます。
受容的スコアが上がれば上がるほど眼球温度と疑心的スコアが下がり、受容的スコアが下がれば下がるほど温度と疑心的スコアが上がるという負の関連性が確認されました。「受容的」とは人間や環境に対して物怖じせず積極的に近づいたり探索するといったリアクションのことですので、人懐こい猫(受容的スコアが高い猫)ほどストレスを感じにくい(眼球温度が低い)という関連性が伺えます。
収容スタイルが個別かグループかによってFTPスコア(受容的および疑心的)に関連性は見られませんでした。しかし眼球平均温度に関しては個別組が「25.42℃」に対してグループ組が「13.18℃」と大きな格差が見られました。
猫は一般的に孤独を好む動物と考えられていますが、実は「ツンデレ」で心の底では仲間にそばに居てほしいと強く願っているのかもしれません。これと同様の傾向は、2017年に日本の調査チームが福島の三春シェルターに収容された猫を対象とした調査でも報告されています(→出典)。
世界中の猫学者が「よくわからない」と公言してはばからない行動の1つに「猫の集会」があります。今回の調査結果を踏まえて考えると、単純に「何となく落ち着くから」ということなのかもしれません。
世界中の猫学者が「よくわからない」と公言してはばからない行動の1つに「猫の集会」があります。今回の調査結果を踏まえて考えると、単純に「何となく落ち着くから」ということなのかもしれません。