詳細
調査を行ったのはベルギー・ゲント大学獣医学部。2016年9月、猫の不妊手術に関する別の調査に参加した猫800頭の飼い主にコンタクトを取り、生後2~3ヶ月齢で行う早期不妊手術が、猫の問題行動を増加させるのかどうかを検証しました。「望ましくないと判断されうる行動」の具体的なリストは以下です。
こうした結果から調査チームは、生後8~12週齢(2~3ヶ月齢)という早いタイミングで不妊手術を施しても、メスであれオスであれ、慣習的な手術グループよりも問題行動が増えるという証拠は見当たらないとの結論に至りました。 PREPUBERTAL GONADECTOMY IN CATS:Long-term effects on behaviour
Annelies VALCKE, GHENT UNIVERSITY FACULTY OF VETERINARY MEDICINE, Academic year 2016-2017
望ましくないと判断されうる行動
- 不適切な排泄
- 人間や動物に対する攻撃性(遊びも含む)
- 怖がり行動
- 人間や動物に対する非社会的な行動
- 狩猟行動
- 破壊行動
- 不服従
- 過剰な鳴き声と注目を求める行為
- 過剰もしくは不適切なグルーミング
- 過剰な活動性
- 盗み食い
- 性的な行為
猫の基本データ
- 早期不妊手術=135頭(72%) | オス61頭
- 慣習的手術=52頭(28%) | オス25頭
望ましくないと判断されうる行動・平均個数
- 全体=3.86(± 2.25)
- 早期不妊手術=3.24(± 2.52)
- 慣習的手術=3.62(± 2.37)
望ましくない行動・平均個数
- 全体=0.92 (± 1.61)
- 早期不妊手術=0.79(± 1.49)
- 慣習的手術=0.81(± 1.66)
こうした結果から調査チームは、生後8~12週齢(2~3ヶ月齢)という早いタイミングで不妊手術を施しても、メスであれオスであれ、慣習的な手術グループよりも問題行動が増えるという証拠は見当たらないとの結論に至りました。 PREPUBERTAL GONADECTOMY IN CATS:Long-term effects on behaviour
Annelies VALCKE, GHENT UNIVERSITY FACULTY OF VETERINARY MEDICINE, Academic year 2016-2017
解説
不妊手術のタイミングと問題行動との因果関係に関しては過去にも調査が行われたことがあります。しかし追跡期間が12ヶ月程度とか、「早期」を24週齢と定義しているなど設定上の不備があり、早期不妊手術がもたらす長期的な行動変化を厳密に検証できていませんでした。今回の調査では「早期」を生後8~12週齢と明確に区切り、なおかつ5~7年という長期にわたって猫の行動をモニタリングできたことから、過去の調査よりも精度の高い結果が得られたと考えられています。ただし、もともとは800人だった調査対象者が最終的には187人にまで目減りしていますので、調査過程で何らかのバイアスが混入した可能性を否定できません。
早期不妊手術の実施率に関し、イギリスでは28%、オーストラリアやニュージーランドでは65%、そしてベルギー国内ではフランドルが54%、ワロニアが19%といったデータがあります。その地域において猫の頭数過剰がどの程度問題視されているかによって、数字が変動するものと推測されます。生態系への影響が懸念されているオーストラリアにおいて高い手術率が確認されたのもそのためでしょう。
手術率を低下させる要因としては、獣医師が早期手術のもたらす悪影響に対して抱いている懸念があります。例えば動物病院への往復、麻酔、手術後の痛み、慣れない環境などが猫に対するトラウマになり、後の問題行動に発展するのではないかなどです。今回の調査では、たとえ早期に手術を行っても問題行動の増加にはつながらないことが示されましたので、獣医師たちにとっては安心材料になるかもしれません。
猫の性格を形成する上で重要な社会化期は一般的に2~7週齢とされています。それに対し、早期不妊手術は8~12週齢ですので、ちょうど社会化期が終わったタイミングに相当します。手術にはさまざまなストレスが伴いますが、8週齢以降であればその悪影響を最小限に抑えられるものと推測されます。なお今回の調査では「問題行動」だけが焦点となりましたが、早期不妊手術がもたらす身体面での影響も気になるところです。詳しくは以下のページにまとめてありますのでご参照ください。