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日本国内における猫のクリプトスポリジウム感染率が判明

 家庭で飼われている猫とペットショップで売られている子猫を対象とした調査により、原虫の一種・クリプトスポリジウムの感染率が明らかになりました(2017.11.30/日本)。

詳細

 調査を行ったのは青森県にある北里大学獣医学部。2013年5月から2015年6月の期間、日本国内でペットとして飼育されている猫357頭と、ペットショップに商品として仕入れられた子猫329頭から糞便サンプルを採取し、原虫の一種であるクリプトスポリジウムがどの程度の割合で含まれているかを検証しました。その結果、以下のようなデータが得られたといいます。
クリプトスポリジウム感染率
  • 家庭猫陽性率=2%
    猫の年齢=1ヶ月齢~23歳オス猫178+メス猫179頭
    全国10の動物病院からサンプリングされた/内訳は北海道・東北地方5、関東地方2、近畿地方1、九州・沖縄地方2
    1歳未満の感染率4.6%と1歳以上の感染率0.4%の格差は統計的に有意であった
    北海道、東北地方に比べ、近畿地方の陽性率は統計的に高かった
  • ペットショップ猫陽性率=0.3%
    猫の年齢=1~3ヶ月齢
    オス猫132頭+メス猫197頭
    4つのショップからサンプリングされた/内訳は東北地方2、関東地方2
 家庭猫の生活環境(完全室内/放し飼い)、糞便の状態(硬い/ゆるい)、性別によって感染率に格差は見られませんでした。またペットショップの猫においても、糞便の状態と感染率とは無関係と判断されました。
Molecular prevalence of Cryptosporidium species among household cats and pet shop kittens in Japan
Yoichi Ito et al., Journal of Feline Medicine and Surgery, DOI: 10.1177/2055116917730719

解説

 過去に行われた感染率調査では、クリプトスポリジウムの感染率に関して以下のような数字が報告されています。
家庭猫
  • オーストラリア=7.1%
  • イタリア=0%
  • 日本=12.7%
  • オランダ=4.6%
ペットショップ
  • 中国=0%
  • オーストラリア=3.4%
 2006年から2010年にかけて日本で行われた調査では、大阪市内に暮らす猫55頭から糞便サンプルを採取され、陽性率は12.7%(7/55)と報告されています。今回の調査結果(0.3~2%)よりもかなり高い値が出ていますが、調査対象となった猫の数が少なく、また猫の生活スタイルが明らかではないため、一体何が感染率を高めたのかは謎です。
 1歳未満の子猫で陽性率が有意に高いと判断されました。クリプトスポリジウムと免疫システムとの関係性は完全に解明されたわけではありませんが、やはり免疫システムがまだ完成していないことが若齢猫の感染率を高めているものと推測されます。しかし糞便の状態と感染との間に明確な関係性は見られませんでしたので、たとえ感染していたとしても、多くの場合は無症状だと考えられます。
 ペットショップ猫の感染率は0.3%と非常に低い値を示しました。しかし家庭で飼われている猫の3割近くはペットショップで購入されたものだったため、ペットショップの感染率が低いとは一概に言えません。またサンプリングの対象となった4店舗が関東と東北に固まっているため、調査範囲を広げたらもう少し違った結果が出た可能性もあります。
 ペット猫で陽性と出た5頭のうち1頭は2歳の放し飼い猫、4頭は1歳未満の元外猫でした。過去に行われた調査では野良猫や保護猫で感染率が高いと報告されていることから、屋外環境で原虫をもらってしまったものと推測されます。
 クリプトスポリジウムは合計8種類が検出され、それらは全て「C. felis」に属するものでした。2010年に大阪で行われた調査でも、検出されたのはやはり「C. felis」でしたので、日本の猫におけるクリプトスポリジウムは基本的に「C. felis」だと想定されます。「felis」(ネコ科)という名が示しているとおり、おそらく猫の体に特化して進化したタイプなのでしょう。Cryptosporidium parvumの顕微鏡写真  人間におけるクリプトスポリジウムの主だったものは「C. Hominis」と「C. parvum」だとされています。猫の体内から検出された「C. felis」の感染性は不明ですが、免疫力が低下した人にとっては脅威かもしれません。たとえば2000年、HIV陽性のイタリア人が「C. felis」に感染し重度の下痢症状を示したといった症例も少数ながら報告されています(→出典)。 猫のクリプトスポリジウム症