詳細
ワクシニアウイルスはポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のウイルス。同じ系統のウイルスとしては、ウシに感染する「牛痘ウイルス」、人に感染する「天然痘ウイルス」があります。
オルソポックスウイルス属のウイルス間では、どれか1つに対する免疫があれば、その他のウイルスに対しても抵抗力が付く「交差免疫」が成立するため、弱毒化されたワクシニアウイルスが長年に渡って天然痘ワクチンを製造する際に用いられてきました。今となっては正確な起源を突き止めることは困難ですが、おそらく牛痘ウイルスおよび天然痘ウイルスと共通の祖先を持っているものと推測されています(→出典)。
今回の調査が掲載されたのは、アメリカ疾病予防管理センターが発行している「Emerging Infectious Diseases」。2012年9月から2014年12月の期間、ブラジル国内5つの州に暮らしている277頭の猫(3ヶ月齢~15歳 | メス猫150頭)から血清サンプルを採取し、抗体検査やDNA検査によってワクシニアウイルスに感染したことがあるかどうかを調べました。その結果、中和抗体保有率が5.8%(16頭)であることが判明したといいます。
この数値はノルウェーで行われた調査よりは低いものの、オーストリアで行われた調査よりは高いことから、ブラジルの都市部では家庭で飼われている普通のペット猫の間で、なぜかワクシニアウイルスが蔓延しているという事実が明らかになりました。 Detection of Vaccinia Virus in Urban Domestic Cats, Brazil
Costa G, Miranda J, Almeida G, et al. Emerging Infectious Diseases. 2017;23(2):360-362. doi:10.3201/eid2302.161341
この数値はノルウェーで行われた調査よりは低いものの、オーストリアで行われた調査よりは高いことから、ブラジルの都市部では家庭で飼われている普通のペット猫の間で、なぜかワクシニアウイルスが蔓延しているという事実が明らかになりました。 Detection of Vaccinia Virus in Urban Domestic Cats, Brazil
Costa G, Miranda J, Almeida G, et al. Emerging Infectious Diseases. 2017;23(2):360-362. doi:10.3201/eid2302.161341
解説
ブラジルでは1999年、郊外に住んでいる家畜や人間の間でワクシニアウイルスの最初の流行が確認されました。今回の調査で確認された5.8%という中和抗体保有率が、この当時の残り火なのかどうかは不明ですが、緑の多いパンプーリャ地域で特に高い陽性率が確認されたことから、おそらくネズミを始めとするげっ歯類を介して猫に感染したのだろうと推測されています。
猫は牛痘ウイルスを媒介しますので、おそらく同じオルソポックスウイルス属のワクシニアウイルスも、飛沫感染や接触感染を通して猫から人間に感染するものと想定されます。しかしワクシニアウイルスはそもそも天然痘に対する免疫を獲得するために接種されるワクチンです。バイオテロの脅威がゼロとは言えない現代人にとっては、むしろ感染しておいた方がよいウイルスの一つかもしれません。
仮に人間がワクシニアウイルスに感染しても、免疫力が正常ならばほとんど無症状です。しかしワクチンとして接種した場合、ごくまれに以下に示すような副反応を示す可能性もあります(→出典)。
仮に人間がワクシニアウイルスに感染しても、免疫力が正常ならばほとんど無症状です。しかしワクチンとして接種した場合、ごくまれに以下に示すような副反応を示す可能性もあります(→出典)。
ワクシニアワクチンによる副反応
- 異所性接種初回接種2,000回に1回程度。接種部位に付いたワクチンウイルスを手などで触ってしまい、眼瞼、鼻、口唇などに水疱ができる。
- ワクチン後湿疹初回接種26,000回に1回程度。湿疹のある部位やあった部位に水泡が生じ、発熱、全身のリンパ節腫脹といった症状を示す。
- 全身性ワクシニアウイルス症初回接種5,000回に1回程度。ウイルスが血液に乗って全身にいきわたり、接種後6~9日後になって体の広範囲に水泡が生じる。
- 壊死性ワクシニア症ワクチンを接種した部位の水泡が壊死を始め、徐々に周囲に広がっていく。
- 種痘後脳炎1歳未満の乳児に初回接種をして8~15日後に、発熱、頭痛、嘔吐、傾眠を示し、麻痺、痙攣、昏睡などに発展する。100万接種当たり10~30人が死亡するとされているが、日本ではもう少し低いと推計されている。