トップ2017年・猫ニュース一覧6月の猫ニュース6月5日

西表島と対馬における猫とヤマネコのヘモプラズマ感染率調査

 固有のヤマネコ種が生息する西表島と対馬において、猫を対象としたヘモプラズマの感染率調査が行われました(2017.6.5/日本)。

詳細

 調査を行ったのは、鹿児島大学・共同獣医学部のチーム。国の特別天然記念物イリオモテヤマネコが生息する沖縄県・西表島の猫105頭(2012年7月~2015年8月)、およびツシマヤマネコが生息する長崎県・対馬の猫105頭(2009年9月~2011年3月)から血液サンプルを採取し、ダニによって媒介される病原体の保有率を調査しました。その結果、猫伝染性貧血を引き起こすヘモプラズマ(3種)の感染率に関し、各島において以下のような数字になったといいます。
島猫のヘモプラズマ感染率
西表島と対馬のイエネコにおけるヘモプラズマ3種の感染率
  • H1Mycoplasma hemofelis
    ✓西表島=0%
    ✓対馬=6.1%
  • H2Candidatus Mycoplasma haemominutum
    ✓西表島=17.9%
    ✓対馬=20.7%
  • H3Candidatus Mycoplasma turicensis
    ✓西表島=0%
    ✓対馬=2.4%
 検出された病原体の一部は、過去にヤマネコから検出されたものと遺伝的に近似していたといいます。こうした結果から調査チームは、ダニ媒介性疾患のほとんどはダニによって引き起こされていることは間違いないものの、イエネコとヤマネコが物理的に接触しているというシナリオを否定できないとしています。
The presence of tick-borne diseases in domestic dogs and cats living on Iriomote-jima and Tsushima islands
The Journal of Veterinary Medical Science, Article ID: 16-0546 , Mao Jikuya et al., doi.org/10.1292/jvms.16-0546

解説

 西表島(→出典)も対馬(→出典)も10年前に比べて人口が微増していますので、それに伴って猫の数も少しずつ増えてきたと推測されます。もし飼い主がペット猫の完全室内飼いを徹底していない場合、猫が自由に外をうろつきまわり、山林地帯に暮らしているヤマネコと物理的に接触するという機会も多くなることでしょう。
 イエネコとヤマネコの接触で問題となるのは遺伝子の交雑、および感染症の伝播です。過去に行われた調査では、ヤマネコの体内から猫エイズウイルスが検出されたと報告されていますので、感染症の拡大は単なる理論ではなく、実際に起こりうるシナリオとして捉えた方が現実的だと考えられます。 日本に生息しているヤマネコ「ツシマヤマネコ」と「イリオモテヤマネコ」  今回の調査では、主としてマダニが媒介する病原体を対象とした感染率調査が行われました。ヤマネコのダニ感染率が猫のそれに比べてかなり高いことから、イエネコ(17.9~26%)とヤマネコ(72~100%)の間で見られたヘモプラズマ感染率の格差は、主としてダニの感染率格差がそのまま反映されたものだと推測されます。しかしヘモプラズマの遺伝子を調べた所、イエネコとヤマネコの間で類似点が発見されたといいますので、やはり何らかの形で物理的な接触があったという可能性を否定できません。
 「猫が外を歩き回るのは普通のこと」と思い込みを抱いていると、イエネコからヤマネコに病原体が移り、ただでさえ少ないヤマネコの生息数がさらに少なってしまう危険性が高まります。ちなみにイリオモテヤマネコの生息数は2005~2009年の調査で100頭強(→出典)、ツシマヤマネコのそれは2010年~2012年の調査で70~100頭(→出典)です。 猫伝染性貧血