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日本国内における猫のヘリコバクター菌感染率

 胃腸障害との関連性が疑われているヘリコバクター菌に関し、日本国内では初となる猫の感染率調査が行われました(2017.6.1/日本)。

詳細

 ヘリコバクター菌はグラム陰性微好気性細菌の一種。知られているだけで40以上の亜種が存在しています。人医学においては「ピロリ菌」という俗称で呼ばれる「Helicobacter pylori」(H. pylori)が最も有名で、慢性・急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんといった胃腸障害との関連性が強く疑われています。
 一方、猫においては非ピロリ系ヘリコバクター(NHPH)の感染率が41~100%と報告されているものの、この菌が一体どのような病原性を持っているのかに関してはよくわかっていません。そこで東京大学農学生命科学が中心となった調査チームは、日本国内における猫のヘリコバクター感染率、およびその病原性を検証するための疫学調査を行いました。
 調査対象となったのは、東京大学附属動物医療センター(東京/2013年4月~2016年6月)、および日本小動物医療センター(埼玉/2015年6月~2016年6月)を受診した合計56頭の猫たち。ヘリコバクターの量に影響を及ぼすような医療的介入を受けていないことを確認した上で、動物用の内視鏡を用いて胃の3ヶ所(幽門洞・胃体・胃底)から組織サンプルを採取し、遺伝子レベルで解析しました。その結果、ちょうど半数の28頭からヘリコバクターが検出され、以下のような内訳になったといいます。数値は陽性と出た猫の中における割合です。
猫のヘリコバクター保有率
日本国内における猫のヘリコバクター保有率
  • H. heilmannii=89%(25頭)
  • H. bizzozeronii=25%(7頭)
  • H. felis=25%(7頭)
  • H. pylori=0%(0頭)
 ヘリコバクターの感染率と性別や年齢とは無関係だったと言います。また、各種の胃腸疾患と菌の有無とを統計的に計算したところ、両者の間に明確な関連性は見出せなかったとも。ただし人間の胃腸障害患者で検出された菌と遺伝的に極めて近い系統が検出されたことから、人獣共通感染症としての側面を否定できないとしています。
Epidemiological study on feline gastric Helicobacter spp. in Japan
Japanese Society of Veterinary Science, doi.org/10.1292/jvms.16-0567

解説

 ヘリコバクターのうち「ピロリ菌」(H. pylori)はさまざまな哺乳動物に感染しますが、猫における感染率は低いと考えられています。この事実は過去にスイスや韓国で行われた調査(共に0%)、及び今回の調査(0%)でも追認されました。なぜ人を始めとする霊長類にだけ特異的に感染するのかは不明ですが、人間からペット動物に感染するというルートに関してはあまり心配しなくてよいと考えられます。 猫に感染しているヘリコバクター菌はハイルマニイ(H.heilmannii)が大半  一方、「ヘリコバクター・ハイルマニイ」(H. heilmannii)の方は、ペット動物から人間という感染ルートを心配しなければならないようです。2015年6月、日本ヘリコバクター学会はペットの飼育とヘリコバクター・ハイルマニイ感染、そして胃がんの一種である胃MALTリンパ腫とが相互に連関しあっている可能性を指摘しました(→出典)。北里大学薬学部・中村正彦准教授らが行った調査によると、日本国内における胃MALTリンパ腫患者のうち、ピロリ菌を保有していないけれどもハイルマニイを保有している人の割合が6割に達することが明らかになったといいます。そしてハイルマニイ感染の唯一の危険因子として考えられるのは「ペットの飼育」だとも。 ペットとのキスでヘリコバクター・ハイルマニイが人間に移行する可能性は否定できない  猫を対象とした今回の調査では、ハイルマニイの保菌と各種の胃腸疾患との間に明確な関連性は見いだされませんでした。しかし何らかのきっかけで飼い主がペットからこの菌をもらってしまうと、胃腸疾患を発症する確率が高まってしまう危険性は否定できないようです。
 病原性に関してはまだ不明な部分が残されていますが、以下のような点は基本的な注意事項として守ったほうが無難だと考えられます。
ハイルマニイ感染予防
  • ペットとキスをしない
  • ペットと食器を共有しない
  • ペットに舐められた手はすぐ洗う