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ペルシャ猫は健康そうでも白癬菌(皮膚糸状菌)を高確率で保有している

 繁殖施設出身の一見健康そうなペルシャ猫を調べた所、意外に高い確率で白癬菌を保有していることが明らかになりました(2017.4.20/ブラジル)。

詳細

 調査を行ったのは、ブラジル・サンパウロ大学獣医学部のチーム。サンパウロの中心街にある猫の繁殖施設から61頭のペルシャ(オス猫18+メス猫43/平均37.7ヶ月齢)をランダムで選別し、被毛から白癬菌(水虫と同系列の菌, 皮膚糸状菌とも)が検出されるかどうかを調べました。その結果、収集されたサンプルの83.6%(51個)で菌が検出され、それらは全てイヌ小胞子菌(Microsporum canis)だったと言います。また年齢や性別と感染率とは無関係だったとも。 イヌ小胞子菌(Microsporum canis)の顕微鏡写真  さらに、猫と密接に接触する機会がある18人を対象としてアンケート調査を行ったところ、44.4%(8人)が体部白癬(水虫が体に出るバージョン)の既往歴があり、16.7%(3人)は調査時点で体部白癬の症状を保有していたそうです。これらの人々は他の動物と密接に触れあった経歴がなかったため、感染源は猫であると推定されました。
 こうした結果から調査チームは、たとえ症状を示していなくてもペルシャ猫は高い確率で白癬菌を保有しており、身近にいる人間への感染源になりうるという可能性を明らかにしました。
Isolation of dermatophytes from the hair coat of healthy Persian cats without skin lesions from commercial catteries located in Sao Paulo metropolitan area, Brazil
Cayo Yuji Nitta et al., Acta Scientiae Veterinariae, v. 44, n. 0 (2016)
ペルシャ猫は症状の有無にかかわらず高確率で白癬菌を保有しているかも

解説

 人間における白癬菌感染症のうち、およそ15%には動物との接触が関わっていると推定されています。そのうち最も感染源になりやすい動物として挙げられているのが猫です。猫の白癬菌保有率に関しては、世界中で調査が行われており、以下のような結果になっています。頭数は調査対象数です。
猫の白癬菌保有率
  • ブラジル(1985)=104頭/88.5%
  • ブラジル(2014)=191頭/8.4%
  • ブラジル(2016)=50頭/22%
  • アメリカ(1991)=172頭/9.3%
  • アメリカ(2000)=200頭/5.5%
  • メキシコ(1986)=100頭/26%
  • アルゼンチン(2012)=37頭/10.8%
  • イタリア(2006)=248頭/28.2%
  • イタリア(1997)=173頭/49.7%
  • ポルトガル(2010)=136頭/29.5%
  • イギリス(1994)=181頭/2.2%
  • イギリス(1982)=45頭/36%
  • イギリス(2005)=169頭/5.3%
  • ニュージーランド(1973)=200頭/39%
  • ニュージーランド(1977)=199頭/19%
  • トルコ(2016)=264頭/7.1%
  • トルコ(2009)=100頭/11%
  • イラン(2006)=100頭/4%
人の体表に発症した体部白癬と頭部白癬  数字を見る限りかなり高い確率で白癬菌を保有していることが伺えます。この高い保有率を反映してか、ヨーロッパでは体部白癬を抱えた人に飼われている無症状の猫のうち53.6%でイヌ小胞子菌が検出されたそうです。また過去にブラジル国内で行われた調査によると、白癬菌を抱えた人に飼われている猫のうち34.2%が白癬菌陽性で、イヌ小胞子菌が最も多かったとも。こうしたデータから考えると、人間が猫を触ることによって皮膚や被毛についた白癬菌が手に移り、感染しまうという事実は否めないようです。
 猫の中でも特にペルシャにおいて高い白癬菌保有率が報告されています。想定されている理由は以下です。
ペルシャの白癬菌脆弱性
  • 毛が長い短毛種に比べてグルーミングを通して被毛から機械的に菌が除去される割合が減ってしまう。また短毛種よりもブラッシングする機会が多いため、生じた静電気が空気中を漂っている胞子を引き寄せてしまう可能性がある。
  • 感染源への暴露品評会などへの参加により、菌を保有した他の猫と接する機会が多くなる。
  • 密飼い多数の猫を一箇所で飼育する繁殖施設では、他の猫と接する機会が多くなり、衛生管理がおろそかになりやすい。また密飼い、度重なる出産、品評会への参加によるストレスから免疫力の低下が引き起こされると同時に、グルーミングが少なくなる可能性がある。
 日本においても2017年、一般家庭で飼育されている猫216頭を対象に、皮膚糸状菌の感染率が調査されました。その結果、1.4%に相当する3頭で菌が検出されたといいます。また皮膚病変の有無、猫の年齢、屋外行動の有無、被毛の長さと感染率に統計的な関連性は見いだせなかったとも。検出された皮膚糸状菌は遺伝子検査の結果、ほぼイヌ小胞子菌で間違いないと判定されました(→出典)。
 日本を含めた世界中からの報告を参照する限り、繁殖施設出身の長毛種に関してはいったん病院に行って白癬菌の有無を確認した方がよいかもしれません。不治の病ではないものの、人間に感染してしまうと体の目に見える場所が変化してしまうため、精神的に辛い思いをすることになります。 皮膚糸状菌症