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有害化学物質「PFAS」は未知のルートを通して猫の体内にも侵入している

 環境中や体内に長期的に残存し、時として健康被害をもたらす化学物質の一種「PFAS」は、未知のルートを通して猫の体内にも侵入しているようです(2016.9.5/アメリカ)。

詳細

 「PFAS」(パーフルオロアルキルスルホン酸類)は、航空機の作動油や金属加工のエッチング剤といった用途で用いられる有機フッ素化合物の一種。毒性が強くて分解されにくく、体内に蓄積して健康を害することから、2009年の「POPs条約」において「残留性有機汚染物質」に加えられました。
POPs条約
 正式名称は「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」。条約の目的は、環境中に長期間残留して自然や生物に悪影響をもたらす残留性有機汚染物質を、国際的に協調しながら廃絶・削減していくこと(→出典)。
 アメリカ環境保護庁(EPA)の調査チームは、人間と生活環境を共有することが多い猫を対象とし、一体どの程度「PFAS」が体内に蓄積されているかを調査しました。対象となったのは、健康な猫11頭と最低1つの疾患を抱えた不健康な猫61頭。生活環境が偏らないようペット猫と野良猫の両方が含まれています。分光法を用いて猫から採取した血液を検査したところ、1頭を除く全てのサンプルから「PFAS」が検出されたと言います。具体的な値は以下です。なお「PFOS」は「パーフルオロオクタンスルホン酸」、「PFHxS」は「パーフルオロヘキサンスルホン酸」を意味します。
猫の血清PFAS濃度
  • PFOS:定量下限未満~121ng/mL
  • PFHxS:定量下限未満~235ng/mL
 これらの数値は、国民健康栄養調査(NHANES)のレポートにある人間の血清値とほぼ同じ値だったとのこと。また「PFHxS」の値は「室内飼い」という生活環境と連動しており、「PFAS」の値は「室内飼い」、「体重」、「肥満度」(BCS)と関連し、呼吸器系の浸出、甲状腺や肝臓の不調、慢性腎臓病の原因になっている可能性があることも示唆されました。
 こうしたデータから調査チームは、環境中での振る舞いがいまだによくわかっていない「PFAS」が、一体どのようにして人間の体の中へ侵入するのかを解き明かす際、生活環境を共にすることが多い猫を調べることは極めて有用であるとしています。 U.S. domestic cats as sentinels for perfluoroalkyl substances: Possible linkages with housing, obesity, and disease

解説

 調査チームは「ワンヘルス」(One Health)という観点から、猫の健康状態をモニタリングすることの重要性を強調しています。「ワンヘルス」とは、人、動物、環境の健全さを維持するためには、各分野の関係者が互いに緊密に協力していく必要があるという考え方のことです。獣医学の分野で得られた知識を人医学の領域に導入したり、逆に人医学の分野で得られた知識を獣医学の領域に応用したりすることで、人とペットの両方が健全な暮らしを享受していくことが最終的な目標となります。今回の調査対象となった「PFAS」のように、体内への侵入経路がよくわかっていない物質を調べる際は、人と生活環境を共にしている犬や猫といったペット動物の体に着目すると、謎を解明する際の重要なヒントが見えてくることがあるというわけです。
 日本国内では、2009年のPOPs条約に合わせて「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令」(化審法)が改正され、「PFOS又はその塩」を始めとする12物質が原則として製造・輸入禁止となりました。しかし、人為的発生源から最も遠く離れた北極圏の動物(ホッキョクグマやアザラシ)の体内からも高濃度のPFOS が検出されていることから、依然として汚染水や水産物などを通じて人間の体内にも侵入しているものと推測されます。
 PFOSの毒性に関しては、アカゲザルで「1日0.5mg/kgの90日間反復投与で消化管毒性を示した」、カニクイザルで「1日0.03mg/kgの26週間の反復投与で胸腺萎縮(メス)、HDL-コレステロールと甲状腺ホルモン(T3) 低下が見られた」というものがあります。こうした知見を元に、アメリカやヨーロッパにおいては人間の一日上限摂取量が「0.08~0.3μg/kg/日」と定められました。ただしこれらの数値はすべて暫定値です。また一体どこからどこまでがPFOSの正常血清値なのかに関しては、今後さらに調査を重ねなければ、はっきりした答えはわかりません。 人と動物の共通感染症対策における連携:One Health