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猫の被毛に含まれるDNAを犯罪捜査に利用する試み

 猫の被毛に含まれるDNAのSNPsを組み合わせれば、限りなく100%に近い確率で個体識別が可能であることが明らかになりました(2016.3.7/アメリカ)。

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 2005年、小学1年の女児(当時7歳)が茨城県の山林で遺体で見つかった事件で、女児の遺体の右手親指に付着していた獣毛と、殺人罪に問われた勝又拓哉被告(33)の飼い猫の毛のDNA型鑑定が行われました。3月2日に行われた証人尋問では、鑑定を担当した麻布大獣医学部の村上賢教授が登場し、以下のような説明が行われました。
 獣毛は猫の毛と特定した。また猫を71のグループに分けた場合、どちらも同じ型で一致した。さらに570頭の猫を調べると、約0.5%程度しか現れない珍しい型だった。ただし猫の個体の識別まではできなかった。
 今回のDNA鑑定では高い確率で同じ猫だろうとの見解が示されたものの、残念ながら猫の個体を識別するまでには至らなかったようです。しかし海外では近年、猫の毛から採取したDNAを基にして個体識別まで行ってしまおうという試みがなされています。
 アメリカの複数の大学から成る共同研究チームは2016年、猫の毛に含まれるDNA中の78個のSNPs(※)に着目しPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)と呼ばれる手法でDNAを増幅して統計学的な数字を導き出しました。
SNPs
 読み方は「スニップス」で、日本語では「一塩基遺伝子多型」と訳される。長大なDNAを構成しているアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の塩基のうち、一つの塩基だけ他の塩基に置き換わっている状態が、ある特定の集団内で1%以上の頻度で見られること。
 計算の結果、ランダムで選び出した2頭の猫が、偶然同一のSNPsを保有している確率(RMP)は「6.58/1000京」(※1000京=1兆の1千万倍)で、検査したサンプルSNPsと合致するSNPsを保有している猫が、まったくの別猫である確率よりも、同一の猫である確率(尤度比)の方が152京倍高い(※152京=152兆の100万倍)という結論に至ったといいます。この数字は要するに、たとえ世界中に存在している猫の数が現在の1億倍になっても、SNPsが合致した猫を他の猫と混同することはないということです。
 茨城県の事件では間に合いませんでしたが、DNAによる個体識別技術は今後、犯罪捜査の中で重要な位置を占めていくものと考えられています。そのためにはまず、DNA中で有効なSNPsを特定し、国や地域ごとにデータベース化しておくことが必要です。 SNP Miniplexes for Individual Identification of Random-Bred Domestic Cats