詳細
羊膜とは、妊娠中の母親の子宮内部にあり、羊水を保持している卵膜の最内層のこと。「血管がない」、「抗炎症作用がある」、「線維化しない」、「拒絶反応が少ない」といった特徴を持っていることから、人医学の分野では1940年代に眼科治療への応用が開始され、1990年代に入ってからは損傷した角膜に対する移植手術が行われるようになっています。一方、獣医学の分野では1998年、犬に対して馬の羊膜を移植した症例が最初です。血管がなく透明な羊膜は、特に透明性が重要となる角膜の代替材料として最適だと考えられています。
ルーマニアの獣医眼科チームは2013年12月から2015年12月の期間、ブカレストにある動物病院を訪れた「角膜分離症」(角膜黒色壊死症)の猫6頭に対し、帝王切開を施した妊婦から採取された羊膜を移植し、その治療効果を追跡調査しました。
- 角膜分離症
- 「角膜分離症」(角膜黒色壊死症)とは、短頭種の猫に多い角膜の壊死性病変。角膜の中心付近に茶色の病変が現れた後、角膜基質が徐々に壊死していき、最終的には角膜穿孔を引き起こす。原因は涙液不足、兎眼(完全に目を閉じることができない状態)、外傷、慢性角膜炎(眼瞼内反・外反) 、猫ヘルペスなど。
解説
羊膜移植術は日本国内において、2014年4月から人の保険医療として承認されています。ただしどの病院でも対応しているわけではなく、医療用の羊膜を取り扱うことのできる施設、羊膜の移植を実施する施設、羊膜移植術を実施する医師のそれぞれに一定の条件が課され、日本角膜学会や所管の行政組織への申請が義務化されています。対象疾患は結膜上皮疾患、再発翼状片、眼表面の腫瘍性疾患、水疱性角膜症などです(→出典)。魅力的な治療法ではありますが、まだ揺籃期にありますので、獣医療の分野に導入されるまでには少し時間がかかります。