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猫のパイボールド(2色被毛)発現メカニズムに新たなヒント

 有色部分と白い部分からなる「パイボールド」(piebald)という被毛パターンが、一体どのように発生するのかに関し、新たな知見が加わりました(2016.1.7/スコットランド)。

詳細

 調査を行ったのはスコットランド・エジンバラ大学とバス大学の共同チーム。マウスにおいて見られる体の一部だけが白い「キメラマウス」という個体を対象とし、被毛パターンがどのように発生するかを調べるため、胚の発達初期におけるメラニン芽細胞の振る舞いを精査しました。その結果、「色付きの被毛を生み出すメラニン芽細胞の移動は正常だけれども、その後の分裂増殖が抑制される」ことにより、被毛のパターンが決定づけられることが判明したといいます。そして、この抑制を引き起こしているのが「Kit」と呼ばれる遺伝子であるとも。
 こうした事実から研究チームは、以前からあった「あらかじめ模様が決まっている」とか、「メラニン芽細胞の移動が遅くなることで有色の部分と白い部分が生まれる」といった仮説を覆す発現パターンを明らかにしました。 まだら模様を示したキメラマウス(Chimeric Mouse) Reconciling diverse mammalian pigmentation patterns with a fundamental mathematical model Scientific American

解説

 猫で頻繁にみられる「パイボールド」は、白い被毛を作り出す「S」遺伝子による不完全優性遺伝によって生み出されると考えられています。しかし、具体的にこの遺伝子がどのように白い部分を発生させているのかに関してはよくわかっていませんでした。今回の調査で判明した事実を猫に当てはめて考えると、以下のような仮説が浮上してきます。
S遺伝子を持っていない猫
S遺伝子を持っていない猫における胚の成長
  • 1胚の状態。
  • 2後にメラニン細胞になるメラニン芽細胞が、神経堤と呼ばれる部分から全身に広がる。
  • 3胚が成長するとともに、メラニン芽細胞がひび割れ状態になる。
  • 4メラニン芽細胞が分裂増殖を繰り返し、ひび割れ部分を埋める。
S遺伝子をもっている猫
S遺伝子をもっている猫における胚の成長
  • 1胚の状態。
  • 2後にメラニン細胞になるメラニン芽細胞が、神経堤と呼ばれる部分から全身に広がる。
  • 3胚が成長するとともに、メラニン芽細胞がひび割れ状態になる。
  • 4S遺伝子の作用により、メラニン芽細胞の分裂と増殖が抑えられ、ひび割れが埋められないまま成長する。
 キメラマウスにおける「Kit」遺伝子と、猫における「S」遺伝子が似たような作用をするのであれば、上記したように胚の発達初期段階で生じたひび割れ部分が、メラニン芽細胞によって埋められることのないまま成長した状態が「パイボールド」ということになります。「SS」遺伝子型では抑制力が強くてひび割れ部分(後の白い部分)が多くなり、「Ss」遺伝子型では抑制力が弱くてひび割れ部分が少なくなる、といった感じです。しかしこのモデルだけでは説明できない奇妙な被毛パターンもあるため、猫の毛色を決定している遺伝子には、まだまだ未知の部分が残されていると考えた方が妥当でしょう。 猫の被毛パターン~Sなしによる黒・SSによる白優位型・Ssによる有色優位型 猫の模様と色