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猫が媒介するペストに要注意

 14世紀、当時の全人口のおよそ22%にあたる1億人を死に追いやったことで知られる「ペスト」が、アイダホ州に暮らす犬や猫の間で小流行を見せています(2016.12.26/アメリカ)。

詳細

 「ペスト」は、通性嫌気性のグラム陰性桿菌である「Yersinia pestis」によって引き起こされる疫病の一種。感染すると皮膚が黒くなること、および治療しなかった場合の致死率が極めて高いことから「黒死病」とも呼ばれています。本来は森林や原野に生息するげっ歯類の感染症ですが、種特異性が低いため、ネコ、イヌ、クマ、ラクダ、ブタ、ヒツジ、そしてヒトにも感染する能力を有しています。 ペスト菌(Yersinia pestis)の電子顕微鏡写真  アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2016年12月、アイダホ州における犬や猫の感染例がちらほらと報告されていることを受け、当症に関する注意喚起を行いました。以下は簡単な経緯です。
【2015年5月】
 アイダホ州の野生動物や環境保全を担当している州機関「IDFG」が、リス科動物の一種「Urocitellus mollis」の死体からペスト菌を検出した。
【2015年6月】
 アイダホ公衆衛生局(DPH)は州の南東部に位置する4つの郡で開業している獣医師に対し、感染の疑いがある動物に出くわした場合は速やかに報告するようにとのお達しを出した。しかし2015年中、ペストの報告例はなかった。
【2016年5月30日~7月26日】
 アイダホ州東部~南東部の獣医師達から、ペストに感染している疑いがあるとして立て続けに犬5頭と猫12頭が報告された。確定診断のために死後解剖とDNA検査を行ったところ、猫12頭のうち6頭でペスト菌が確認された。6頭のうち5頭は最初にペスト菌が確認されたジリスと同じ南東部からの報告で、残りの1頭は東部からのものだった。
 感染が確認された6頭の猫を更に詳しく調べた所、以下のような事実が浮かび上がってきたと言います。
ペスト感染猫の特徴
  • 年齢は生後10ヶ月~14.5歳(中央値4歳)
  • オス猫4頭+メス猫2頭
  • 5頭(83%)は屋外に出る機会があり、残りの1頭は常時屋外で生活していた
  • すべて短毛種
  • 全て不妊手術済み
  • リンパ節腫脹が4頭(67%)で見られた
  • 肺の症状は見られなかった
 患猫のうち3頭は死亡もしくは安楽死、2頭は抗菌薬治療を受けて一命をとりとめ、残りの1頭は治療後に安楽死となったそうです。またすべての猫は、病気に感染する前の段階で野生のジリスもしくはその他のげっ歯類やウサギと接触機会があったとのこと。
 これらの事例を受けて地元の公衆衛生局は2016年6月、アイダホ州南東部4つの郡および東部8つの郡の獣医師に対し、感染の疑いがある動物に接したときは自分自身が感染してしまわないよう十分気をつけるようにとの注意喚起を改めて行いました。 Plague in Domestic Cats-Idaho, 2016(CDC)

解説

 犬に比べて猫はペストにかかりやすいとされています。これは犬と猫の体質の違いというよりは、感染源であるげっ歯類と接する機会の違いでしょう。1926年から2012年の間、アメリカ国内で発生した人間の肺ペスト感染例では、すべてのケースで猫との接触が報告されていますので注意が必要です。ペスト菌は猫の呼吸器から排出される体液に含まれており、引っ掻き傷や噛み傷を通して容易に人間に菌を移します。また菌を保有したノミを家庭内に運んでくるという側面もあります。「媒介動物であるネズミを退治してくれるから猫のいる地域でペストは流行しない」という風説がかつてありましたが、逆に猫自身が媒介動物であるといっても過言ではないようです。 2000~2009年の期間においてペストの感染報告があった国  日本国内では幸い、1926年以降ペストの感染例は報告されていません。しかし海外から輸入されるプレイリードッグなどを通じて、常に菌が持ち込まれる危険にさらされているといいます。突然のアウトブレークで気が動転しないよう、事前に予防策を含めた知識を持っておきましょう。 国立感染症研究所「ペスト」
ペストの基本情報
  • 感染ルートペスト菌を保有したノミの咬傷。感染した動物の体液が傷口や粘膜に接触すること。犬や猫から人間に移ることもありうる。
  • 症状人間における症状は、腺ペストの場合が40℃前後の突然の発熱、リンパ節腫脹、インフルエンザ様症状など。敗血症型ペストの場合がショック症状、昏睡、手足の壊死、紫斑など。
    猫における症状は発熱、食欲不振、倦怠、リンパ節の腫脹(顎の下75%)など。
  • 治療ストレプトマイシンなどの抗菌薬。
  • 予防人間における予防法は、ワクチン接種や抗菌薬の予防投与など。
    猫における予防法は猫を屋外に出さない事、ノミのコントロールをしっかりすること、野生のげっ歯類との接触を可能な限りなくすことなど。