詳細
調査を行ったのは、中国・北京大学の研究チーム。短尾を特徴とするジャパニーズボブテイルのしっぽの形状と、東南アジアや中国南部の猫で見られるしっぽの形状とが似通っていることに着目したチームは、両者の間に共通の遺伝子変異があるはずだという仮定の下、しっぽの長さがバラバラな猫を対象とした大規模な遺伝子調査を行いました。チームはまず、中国南部で見つけた短曲尾の猫20頭と正常なしっぽを持った猫20頭を対象とし、尾無しで知られるマンクスの「T-box」遺伝子変異を調べました。その結果、尾の変形と関連した4つの変異は一つも見つからなかったと言います。
次にチームは、中国南部で見つけた短曲尾のメス猫と正常尾のオス猫をかけ合わせ、2腹11頭の子猫を出産させました。子猫たちのしっぽを観察したところ、3頭は正常尾、3頭は軽度の短曲尾、5頭は中等度の短曲尾だったと言います。こうした発現様式から、短曲尾が常染色体優性遺伝である事は確認されたものの、しっぽの長さにばらつきがあったことから不完全優性（優性遺伝子が100%発現するとは限らない現象）であることも同時に確認されました。
その後、正常なしっぽをもった猫と短曲尾を持った猫とを対象とした数百頭レベルの大規模な比較調査を行ったところ、以下のような事実が明らかになったといいます。
追加で12頭のジャパニーズボブテイルを調査したところ、全頭において「HES7」の変異が見られたと言います。一方、遺伝子変異がなかったのに短曲尾を示した20頭を詳しく調べましたが、これらの猫だけに見られる特有の変異は発見できなかったそうです。
こうした事実から調査チームは、東南アジアや中国南部でよく見られる短曲尾を生み出しているのは「HES7」における遺伝子変異であるという結論に至りました。ただし変異を保有していなくても短曲尾を示す猫がいることから、猫の短曲尾にはマンクスの「T-box」、ジャパニーズボブテイルの「HES7」のほか、未だに知られていない第3の遺伝子が関わっているはずだと推測しています。 Whole Genome Sequencing Identifies a Missense Mutation in HES7 Associated with Short Tails in Asian Domestic Cats
Xiao Xu, Xin Sun, et al. 2016
次にチームは、中国南部で見つけた短曲尾のメス猫と正常尾のオス猫をかけ合わせ、2腹11頭の子猫を出産させました。子猫たちのしっぽを観察したところ、3頭は正常尾、3頭は軽度の短曲尾、5頭は中等度の短曲尾だったと言います。こうした発現様式から、短曲尾が常染色体優性遺伝である事は確認されたものの、しっぽの長さにばらつきがあったことから不完全優性（優性遺伝子が100%発現するとは限らない現象）であることも同時に確認されました。その後、正常なしっぽをもった猫と短曲尾を持った猫とを対象とした数百頭レベルの大規模な比較調査を行ったところ、以下のような事実が明らかになったといいます。
猫の短曲尾と遺伝子の関係
- 短曲尾の原因遺伝子はE1染色体上にある「HES7」
- 「HES7」のTがCに置き換わるとしっぽの変形が生まれる
- 遺伝子型が「C/T」というヘテロ型のときは軽～中等度の短曲尾
- 遺伝子型が「C/C」というホモ型のときは重度の短曲尾
- 短曲尾は尾椎の減少、半椎体、癒合椎という3つの変化によって形成される
- 「HES7」はしっぽと肋骨以外の身体的な奇形には関わっていない
- 「HES7」は生殖能力や生存率には影響を及ぼさない
- 「HES7」の変異がなくても短曲尾を示す猫がいる
- 正常なしっぽを持った猫の中に「HES7」の変異を持ったものはいない
追加で12頭のジャパニーズボブテイルを調査したところ、全頭において「HES7」の変異が見られたと言います。一方、遺伝子変異がなかったのに短曲尾を示した20頭を詳しく調べましたが、これらの猫だけに見られる特有の変異は発見できなかったそうです。こうした事実から調査チームは、東南アジアや中国南部でよく見られる短曲尾を生み出しているのは「HES7」における遺伝子変異であるという結論に至りました。ただし変異を保有していなくても短曲尾を示す猫がいることから、猫の短曲尾にはマンクスの「T-box」、ジャパニーズボブテイルの「HES7」のほか、未だに知られていない第3の遺伝子が関わっているはずだと推測しています。 Whole Genome Sequencing Identifies a Missense Mutation in HES7 Associated with Short Tails in Asian Domestic Cats
Xiao Xu, Xin Sun, et al. 2016
解説
2015年、カリフォルニア大学デーヴィス校を中心としたチームは、短いしっぽで知られるマンクスとジャパニーズボブテイルのDNAを解析しました。その結果、ジャパニーズボブテイルの遺伝子からはマンクスの短尾を生み出す「T-Box」遺伝子の変異は見つからなかったといいます。今回の調査で「ジャパニーズボブテイル12頭におけるHES7の遺伝子変異保有率が100%」という事実が確認されたことから、この品種の短尾はおそらく「HES7」によって生み出されているものと推測されます。
日本の長崎には短曲尾を持つ猫がたくさんおり、「長崎猫」という愛称で親しまれています。京都大学名誉教授・野澤謙氏によると、これらの猫の祖先は東南アジアと長崎の出島を行き来していた東インド会社の商船に乗って入国した可能性が高いとのこと。この仮説が正しいとすると、現在日本国内にいる短曲尾猫の祖先は、そもそも東南アジアや南中国に生息していたという可能性が浮かび上がってきます。東南アジアや中国の猫で発見された「HES7」の遺伝子変異が、日本を原産国とするジャパニーズボブテイルの遺伝子変異と重なったという事実は、「東南アジアや中国の短曲尾猫→長崎の短曲尾猫（長崎猫）→ジャパニーズボブテイル」という遺伝子の流れを意味しているのかもしれません。
日本の長崎には短曲尾を持つ猫がたくさんおり、「長崎猫」という愛称で親しまれています。京都大学名誉教授・野澤謙氏によると、これらの猫の祖先は東南アジアと長崎の出島を行き来していた東インド会社の商船に乗って入国した可能性が高いとのこと。この仮説が正しいとすると、現在日本国内にいる短曲尾猫の祖先は、そもそも東南アジアや南中国に生息していたという可能性が浮かび上がってきます。東南アジアや中国の猫で発見された「HES7」の遺伝子変異が、日本を原産国とするジャパニーズボブテイルの遺伝子変異と重なったという事実は、「東南アジアや中国の短曲尾猫→長崎の短曲尾猫（長崎猫）→ジャパニーズボブテイル」という遺伝子の流れを意味しているのかもしれません。
