詳細
調査を行ったのは、RSPCA(※オーストラリアの動物保護団体)と複数の大学などから成る共同研究チーム。2006年7月1日~2010年6月30日の期間、「ShelterMate」と呼ばれるデータベースシステムに記録を残していた州や特別地域のRSPCAからデータを収集し、統計的な解析を行いました。その結果、合計191,512頭の猫が、複数回の持ち込みを含み、合計195,387回保護施設に持ち込まれ、そのうち90,985回(47.5%)が成猫、104,402回(52.5%)が子猫だったといいます。その他の基本的な解析結果は以下です。
持ち込む人のステータス
- 一般市民=81%
- 公的な職員=18%
- その他=1%
市民による持ち込み理由
- 合計156,695回
- 野良猫=58%
- 飼育放棄=40%
- 安楽死希望=1%
- 里親からの出戻り=1%
持ち込み時の生殖能力
- 合計107,856回
- 手術済み=36%
- 未手術=64%
飼育放棄の理由
- 理由が判明した合計49,393回
- 飼い主の側の問題=91%
- 猫の側の問題=4%
- その他=5%
飼い主の問題の内訳
- 合計45,009回
- 住居の問題=21%
- 家の中に動物が多すぎる=18%
- 飼い猫が子猫を生んだ=17%
- いらなくなった=13%
- 経済的理由=11%
- 世話ができない=6%
- 遺棄された動物=4%
- アレルギー=3%
- 関係の悪化=2%
- 飼い主の死亡=1%
- 赤ん坊が生まれた=1%
猫の問題の内訳
- 合計1,834回
- 不適切な排泄行為=22%
- 攻撃行動=21%
- 人になつかない=20%
- 子供と仲が悪い=9%
- 捕食行動=7%
- 問題行動=6%
- 破壊行動=4%
- 過剰な活動性=3%
- 脱走癖=3%
- 恐怖症=2%
- 不安症=1%
- 噛み付き=1%
月別持ち込み数
Numbers and Characteristics of Cats Admitted to Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals (RSPCA) Shelters in Australia and Reasons for Surrender
解説
持ち込みの81%が「一般市民」によるものだったことから、保護施設による引き取りを減らすためには、市民による「野良猫の持ち込み」や「飼い猫の飼育放棄」を減らすような対策が必要になるだろうとしています。
一方、一般市民による野良猫の持ち込み91,293回のうち、54,603回(59.8%)は子猫だったといいます。人間から餌だけをもらう「半飼い猫」に餌付けしている人に対する過去の調査では、33%が「猫を飼っている」と回答したのに対し、22%が「猫を飼っているわけではない」と回答したとのこと。また「半飼い猫」は人間と住居を共有する「飼い猫」よりも不妊手術を受けている率が低く、飼い猫の出産経験が7%なのに対し、半飼い猫のそれは30%に達することもあるそうです。つまり餌を与えるだけで不妊手術や健康管理といった責任は回避している「半飼い人」が、不妊手術を受けていない「半飼い猫」を養うことによって子猫が増え、結果として子猫の持ち込み回数を増やしているという構図があるわけです。
市民による野良猫の持ち込み
一般市民による野良猫の持ち込み91,293回のうち、36,690回(40.2%)は成猫だったといいます。野良猫を保護施設に持ち込んだ人のうち59%は猫に対して何らかの世話をしていた来歴があり、33%は1ヶ月以上何らかの関わりを持っていたとのこと。また野良猫を保護施設に持ち込む理由としては「猫のことが心配で」(72%)、「保護施設の方が野良猫生活よりはましだろう」(59%)という思いがあったそうです。つまり猫のことを心配した結果、殺処分される確率が少なくない保護施設に持ち込むという皮肉な構図があるというわけです。一方、一般市民による野良猫の持ち込み91,293回のうち、54,603回(59.8%)は子猫だったといいます。人間から餌だけをもらう「半飼い猫」に餌付けしている人に対する過去の調査では、33%が「猫を飼っている」と回答したのに対し、22%が「猫を飼っているわけではない」と回答したとのこと。また「半飼い猫」は人間と住居を共有する「飼い猫」よりも不妊手術を受けている率が低く、飼い猫の出産経験が7%なのに対し、半飼い猫のそれは30%に達することもあるそうです。つまり餌を与えるだけで不妊手術や健康管理といった責任は回避している「半飼い人」が、不妊手術を受けていない「半飼い猫」を養うことによって子猫が増え、結果として子猫の持ち込み回数を増やしているという構図があるわけです。
市民による飼育放棄
一般市民による飼い猫の飼育放棄61,755回のうち、放棄の理由がわかったのは49,393回だけでした。そのうち、飼い主の側の問題が91%、猫の側の問題が4%だったことから、大部分を占める「飼い主の側の問題」を減らすことが、猫の持ち込み数を減らす際に必要となってくるだろうと予想されています。具体的には、問題の中で筆頭に来ている「住居の問題=21%」を解決することが最優先とのこと。過去に行われた調査では、ペット可の物件に住んでいる人はペット不可の物件に住んでいる人よりも長く居住する傾向があるとの結果が出ているため、賃貸物件のオーナーにその辺のメリットを説明し、ペットの飼養を許可してくれるよう働きかけることが有効だとしています。ペット可の物件が増えれば、引っ越しや賃貸契約を理由に猫を施設に持ち込む人の割合が減るという寸法です。
今回の調査で明らかになったのは、不妊手術が義務化されているACT(オーストラリア首都特別地域)においてさえも、他の地域に比べて子猫の持ち込み数が期待したほど減っていなかったという事実です。この現象の理由として研究チームは、「 一部の飼い主が法令を無視していたり、子猫を出産してしまった後で手術が施されているからではないか」との予測を立てています。この予測に基づき、施設に持ち込まれる子猫の数を減らすためには、不妊手術を法的に義務付けるのみならず、低価格~無料の不妊手術サービスを公的に展開し、猫に餌付けをしているだけの「半飼い人」にも積極的に頭数制限計画に参加してもらうことが重要であるとしています。またこうした活動は、特に子猫の持ち込み数が増える暖かい季節(オーストラリアの場合は9~12月)に行うのが効果的だろうとのこと。
日本においては、埼玉県上尾市と上尾伊奈獣医師協会が2016年3月、飼い主がいない野良猫に対して無償で不妊・去勢手術を実施することを定めた協定に調印しています。対象は市内に生息する全ての野良猫で、有効期間は4月1日から1年間。同協会の藤倉勉会長は「これからもかわいそうな命を増やさないように、そして公衆衛生の面でも有効なので、会員みんなで実行していきたい」と抱負を語っています(出典:産経ニュース, 2016.3.22)。また和歌山県では「県動物愛護管理条例」が改正され、原則として野良猫への餌付けが禁止されました。しかしオーストラリアの先例から考察すると、「ルール違反をする人が必ず出てくる」という事態を想定し、上尾市のような無償手術サービスと組み合わせたほうが高い効果を得られると考えられます。