猫の被毛パターンを決めるもの
猫の被毛は千差万別なパターンを示します。どのような被毛になるかは、以下に示したいくつかの要因とそれに関連した遺伝子によって決定され、その組み合わせは膨大です。
ベースカラー
ベースカラーとは、猫の被毛全体に渡って満遍(まんべん)なく現れる基底色のことです。両親から受け継ぐカラー遺伝子の組み合わせにより、以下に述べるような系統に分類されます。
ホワイト系
全身にわたって真っ白な被毛は、「W」という遺伝子を両親のどちらかから1つでも受け継いだ場合に発現します。両親から受け継いだ場合が「WW」、どちらか片方から受け継いだ場合が「Ww」です。両親から劣性遺伝子である「w」を一つずつ受け継ぎ、遺伝子型が「ww」になった時だけ白色化が抑えられ、有色になります。なおこのW遺伝子は聴覚と深いつながりを持っており、被毛がホワイトでブルーの目を持った猫は、高確率で聴覚障害を発症します。
シャムやオリエンタルショートヘアーなど、ごく一部の品種で散見される突然変異種で、色素を作り出すことができません。優性遺伝子であるW遺伝子によって発現するホワイトを「優性ホワイト」(Dominant White)と呼ぶのに対し、劣性遺伝子によって発現するアルビノのことを「劣性ホワイト」(Recessive White)と呼ぶこともあります。アルビノに関連した遺伝子としては、現在「C」、「c」、「ca」、「cb」、「cs」という5つが確認されており、全身が真っ白になるのは「cc」、および「caca」という遺伝子型の時だけです。
W遺伝子による優性ホワイトとアルビノホワイトの見分け方は、目を見ることです。前者が黄色~ブルーの色を持っているのに対し、色素を持たない後者はライラック~レッドの色を呈します。これは瞳孔の奥にある血管が透けて見えるからです。
ちなみにかつて、アルビノをスタンダードとして組み入れた「ヨーロピアンアルビノ」という品種が作出されようとしていましたが、「アルビノ関連遺伝子は健全とはいえない」との見解から公認団体が付かず、結局立ち消えとなりました。
W遺伝子とは全く別の遺伝子によって全身が真っ白になった猫が「アルビノ」(albino)です。ちなみにかつて、アルビノをスタンダードとして組み入れた「ヨーロピアンアルビノ」という品種が作出されようとしていましたが、「アルビノ関連遺伝子は健全とはいえない」との見解から公認団体が付かず、結局立ち消えとなりました。
ブラック系
ブラック系の猫は、黒色の元となるユーメラニンの生成に関わるBという遺伝子を最低一本持っています。このB遺伝子と色を薄めるddという遺伝子が混在した場合は「ブルー」になり、さらにこの「ブルー」に色を薄めるDmという遺伝子が作用すると「ブルーキャラメル」になります。
チョコレート系
チョコレート系の猫は、B遺伝子の劣性遺伝子であるb遺伝子を最低一本持っています。このb遺伝子と色を薄めるddという遺伝子が混在した場合は「ライラック」(ラベンダーとも)になり、さらにこの「ライラック」に色を薄めるDmという遺伝子が作用すると「ライラックキャラメル」(トープとも)になります。
シナモン系
シナモン系の猫は、b1遺伝子によって発現します。この遺伝子は2本そろって「b1b1」という形にならなければ発現しません。シナモンに色を薄めるddという遺伝子が混在した場合は「フォーン」になり、さらにこの「フォーン」に色を薄めるDmという遺伝子が作用すると「フォーンキャラメル」になります。
レッド系
レッド系の猫は、赤色の元となるフィオメラニンの生成に関連したO遺伝子によって発現します。この遺伝子は性別を決定するX染色体と共存している点、そして一見モノトーンのようでも、実は後述するタビー(縞・斑点模様)を常に伴っているという点が大きな特徴です。このO遺伝子と色を薄めるddという遺伝子が混在した場合は「クリーム」になり、さらにこの「フォーン」が薄まると「アプリコット」になります。
オスの性染色体は 「XY」で X 染色体を一本しか持っていませんので、必然的にO遺伝子も1つしか持つことができません。パターンは「OY」か「oY」のいずれかで、前者の時のみ赤系統の色を発現します。一方、メスの性染色体は「XX」なのでO遺伝子を2つ持つことができます。すなわち優性遺伝子「O」と劣性遺伝子「o」の組み合わせにより、「OO」、「Oo」、「oo」の3パターンがありうるというわけです。赤系統の色を発現するのは「OO」の時だけで、「Oo」のときは後述する「トータスシェル」、「oo」のときは赤以外の色を発現します。 ある特定の品種でだけ発現するレッド系の色があります。まずノルウェジャンフォレストキャットにだけ見られる特殊な色調変化は「ブラックモディファイア」(MC1R遺伝子中のE座)と呼ばれる遺伝子によって発現するもので、ブラックの被毛がアンバー(琥珀色)に、ブルーの被毛がライトアンバーに変色します。またバーミーズにだけ見られるラセット(赤茶色)と呼ばれる色調は、MC1R遺伝子の特定区画が欠失変異することで生み出されます。
オスの性染色体は 「XY」で X 染色体を一本しか持っていませんので、必然的にO遺伝子も1つしか持つことができません。パターンは「OY」か「oY」のいずれかで、前者の時のみ赤系統の色を発現します。一方、メスの性染色体は「XX」なのでO遺伝子を2つ持つことができます。すなわち優性遺伝子「O」と劣性遺伝子「o」の組み合わせにより、「OO」、「Oo」、「oo」の3パターンがありうるというわけです。赤系統の色を発現するのは「OO」の時だけで、「Oo」のときは後述する「トータスシェル」、「oo」のときは赤以外の色を発現します。 ある特定の品種でだけ発現するレッド系の色があります。まずノルウェジャンフォレストキャットにだけ見られる特殊な色調変化は「ブラックモディファイア」(MC1R遺伝子中のE座)と呼ばれる遺伝子によって発現するもので、ブラックの被毛がアンバー(琥珀色)に、ブルーの被毛がライトアンバーに変色します。またバーミーズにだけ見られるラセット(赤茶色)と呼ばれる色調は、MC1R遺伝子の特定区画が欠失変異することで生み出されます。
トータスシェル
トータスシェル(トーティ)とは赤系統の被毛が体全体に散らばったように配色されている模様のことです。亀の甲羅(tortoiseshell)に似ていることからこう呼ばれ、日本では「サビネコ」などともいわれます。
トータスシェルの発現パターン
トータスシェルは、赤い色を作り出すO遺伝子とその劣性遺伝子であるo遺伝子が組み合わさり、「Oo」という遺伝子型になったときに発現します。赤系統以外の色はさまざまで、例えばベースカラーが「ブラック」の場合は「ブラック+赤系統=ブラックトーティ」、ベースカラーが「チョコレート」の場合は「チョコ+赤系統=チョコトーティ」といった具合になります。
O遺伝子もo遺伝子も性別を決定するX染色体と共存しており、オス猫の性染色体が「XY」で、メス猫のそれが「XX」です。ですからこのトータスシェルに必要な「Oo」という組み合わせは、X染色体を2本持つメス猫にしか発現しません。
O遺伝子もo遺伝子も性別を決定するX染色体と共存しており、オス猫の性染色体が「XY」で、メス猫のそれが「XX」です。ですからこのトータスシェルに必要な「Oo」という組み合わせは、X染色体を2本持つメス猫にしか発現しません。
トータスシェルの発現メカニズム
赤系統の毛色を生み出すO遺伝子には他の色を抑制する働きがあるため、細胞内でこの遺伝子が活性化された場合は赤系統の色が優先的に発現します。一方、劣性遺伝子であるo遺伝子には、優性遺伝子であるO遺伝子のように他の色を抑制する働きがありません。よって細胞内でこのo遺伝子が活性化されても、ブラックやチョコレートなど、他の色が赤系統を押しのけて優先的に発現してしまいます。
さて、人間や猫を始めとするメスの体内では、「X染色体の不活性化」という現象が起こります。これは、2本あるX染色体のうちの1本を機能停止することによって、遺伝子情報過多による細胞内の混乱を避けるというメカニズムです。この不活性化はランダムに起こるものであり、体のある部分では右側の染色体が不活性化し、また他の部分では左側の染色体が不活性化するといった具合に、全くデタラメに発生します。 この「X染色体の不活性化」という現象が、X染色体上にOo遺伝子を保有したメス猫で起こった状態が「トータスシェル」です。「X染色体の不活性化」により、メス猫の体内のある部分ではO遺伝子が不活性化されてoが活性化し、また他の部分ではo遺伝子が不活性化されてO遺伝子が活性化するといった状態が発生します。その結果、体のある部分ではO遺伝子の影響によって赤系統が発現し、他の部分ではo遺伝子の影響によって赤以外の色が発現するという現象が起こります。このようにして赤系統と他の色がランダムに入り混じり、まだら模様になったのが「トータスシェル」というわけです。なおX染色体が不活性化されるメカニズムに関しては、2015年に発表された最新の研究で少しだけ明らかになりました。詳しくは以下の記事もご参照ください。
さて、人間や猫を始めとするメスの体内では、「X染色体の不活性化」という現象が起こります。これは、2本あるX染色体のうちの1本を機能停止することによって、遺伝子情報過多による細胞内の混乱を避けるというメカニズムです。この不活性化はランダムに起こるものであり、体のある部分では右側の染色体が不活性化し、また他の部分では左側の染色体が不活性化するといった具合に、全くデタラメに発生します。 この「X染色体の不活性化」という現象が、X染色体上にOo遺伝子を保有したメス猫で起こった状態が「トータスシェル」です。「X染色体の不活性化」により、メス猫の体内のある部分ではO遺伝子が不活性化されてoが活性化し、また他の部分ではo遺伝子が不活性化されてO遺伝子が活性化するといった状態が発生します。その結果、体のある部分ではO遺伝子の影響によって赤系統が発現し、他の部分ではo遺伝子の影響によって赤以外の色が発現するという現象が起こります。このようにして赤系統と他の色がランダムに入り混じり、まだら模様になったのが「トータスシェル」というわけです。なおX染色体が不活性化されるメカニズムに関しては、2015年に発表された最新の研究で少しだけ明らかになりました。詳しくは以下の記事もご参照ください。
タビー
タビーとは薄い部分を地色とし、濃い部分が縞状に交互に現れる模様のことです。草むらなどで獲物から身を隠す際のカムフラージュとして発達したと考えられています。タビーに関しては2021年、スタンフォード大学を中心としたチームが遺伝子調査を行い、面白い仮説を提唱しています。詳しくは以下の記事もご参照ください。
マックレルタビー
マックレル(mackerel)とは魚の「サバ」という意味で、日本では「サバ」「トラ」「キジ」などと呼ばれています。祖先であるリビアヤマネコから受け継いだ被毛パターンで、薄い部分を地色とし濃い部分が縞状に交互に現れます。多くの場合、額にアルファベットの「M」に似た模様が現れます。
2021年に行われた最新の遺伝子調査により、ネコB1染色体上にあるDkk4(Dickkopf 4)遺伝子が野生型、つまり何の変異も抱えていない場合に模様として発現することが明らかになりました。
2021年に行われた最新の遺伝子調査により、ネコB1染色体上にあるDkk4(Dickkopf 4)遺伝子が野生型、つまり何の変異も抱えていない場合に模様として発現することが明らかになりました。
クラシックタビー
クラシックタビーは「ブロッチドタビー」とも呼ばれ、マックレルのような明瞭な縞模様ではなく、不規則な模様が全身を覆います。ブロッチ(blotch)とは「不規則な斑点」という意味です。アメリカンショートヘアの脇腹によく現れる丸い斑点は「ブルズアイ」(牛の目)、もしくは「オイスター」などとも呼ばれ、多くの場合、額にアルファベットの「M」に似た模様が現れます。
これまでマックレルタビーと同じ遺伝子(Dkk4)の変異が原因と考えられてきましたが、最新の調査ではネコA1染色体上にあるTaqpep(Transmembrane aminopeptidase Q)という別の遺伝子における機能喪失性変異によって発現する可能性が示されました(:Kaelin, 2012)。ただしマックレルタビーに比べると細胞内におけるDkk4遺伝子の発現量が少ないという特徴があるようです。ちなみに同じ遺伝子変異を抱えたチーターは「キングチーター」と呼ばれ、アメショとよく似た被毛パターンを示すようになります。
これまでマックレルタビーと同じ遺伝子(Dkk4)の変異が原因と考えられてきましたが、最新の調査ではネコA1染色体上にあるTaqpep(Transmembrane aminopeptidase Q)という別の遺伝子における機能喪失性変異によって発現する可能性が示されました(:Kaelin, 2012)。ただしマックレルタビーに比べると細胞内におけるDkk4遺伝子の発現量が少ないという特徴があるようです。ちなみに同じ遺伝子変異を抱えたチーターは「キングチーター」と呼ばれ、アメショとよく似た被毛パターンを示すようになります。
スポッテドタビー
ティックドタビー
ティックドタビーは四肢、首、しっぽに薄く縞模様が現れるものの、その他の部分はティックドになったパターンのことです。
2021年に行われた最新の遺伝子調査により、タビーの発現に関わっているDkk4遺伝子の「p.Cys63Tyr」という変異によって生み出される可能性が示されました。具体的には、システインのノット構造内におけるジスルフィド結合が阻害され、細胞内におけるタンパクの分泌が60%未満に減ることでタビーが部分的に消失すると考えられています。
アグーティ
アグーティとは、本来あるはずの濃い部分が全体的に不明瞭になり、被毛がティックドになったパターンのことです。体全体が薄い部分だけで占められているため、ただ単に「アグーティ」、もしくは「ノンストライプタビー」と呼ばれることもあります。名称の由来は、このパターンの典型例である中南米に生息する「オオテンジクネズミ」(agouti)です。
2021年に行われた最新の遺伝子調査により、タビーの発現に関わっているDkk4遺伝子の変異によって生み出される可能性が示されました。具体的には「p.Ala18Val」という変異で、細胞内におけるシグナルペプチド(生合成されたタンパク質の輸送と局在化を指示する構造)の機能を狂わせ、タンパクの分泌がほぼゼロになることでタビーが消失すると考えられています。
カラーポイント
カラーポイントとは、耳、顔面、四肢の先端、しっぽの被毛色だけが濃い状態のことです。ベースカラーから特定部分の色がアルビノ遺伝子の影響によって脱色することでこのようなパターンが現れます。体の末端部分だけ脱色が抑制されるのは、体温が下がりやすく、その分アルビノ遺伝子も不活発になるためだと考えられています。一般的に、子猫の時はホワイトですが、成長するにしたがってポイントカラーが現れます。また暖かい地域よりも寒い地域において、コントラストがより鮮明になります。
薄い部分と濃い部分のコントラストにって分類したのが以下の基本3種です。各種類は、ベースカラーや模様によってさまざまなサブクラスに枝分かれしていきます。
薄い部分と濃い部分のコントラストにって分類したのが以下の基本3種です。各種類は、ベースカラーや模様によってさまざまなサブクラスに枝分かれしていきます。
- ヒマラヤンパターンヒマラヤンパターンは「シャーミーズパターン」とも呼ばれ、薄い色と濃い色のコントラストが強いカラーポイントのことです。「cs」と呼ばれるアルビノ遺伝子が「cscs」という遺伝子型になったときに発現します。典型例はヒマラヤンやシャムです。
- ミンクパターンミンクパターンは「トンキニーズパターン」とも呼ばれ、薄い色と濃い色のコントラストが中程度のカラーポイントのことです。「cs」と「cb」が組み合わさり、「cscb」という遺伝子型になったときに発現します。典型例はトンキニーズです。
- セピアパターンセピアパターンは「バーミーズパターン」とも呼ばれ、薄い色と濃い色のコントラストが弱いカラーポイントのことです。「cb」と呼ばれるアルビノ遺伝子が「cbcb」という遺伝子型になったときに発現します。典型例はバーミーズです。
ホワイトスポット
ホワイトスポット(パイボールド)とは、体の一部に白が入った状態のことです。ベースカラーのW遺伝子やアルビノに関連した遺伝子が被毛全体を白くするのに対し、ホワイトスポットに関連したS遺伝子は、被毛を部分的に白くするという特徴を持っています。S遺伝子の作用は気まぐれで、ほんの一部にしか現れないこともあれば(Ss)、全身を埋め尽くすほど大胆に現れることもあります(SS)。こうした不安定なホワイトの現れ方に関しては「メラニン形成芽細胞移動説」、「アポトーシス説」などが考えられていますが、いまだにはっきりしたことは分かっていません。2016年に発表された最新の研究によると、胚の状態にある時に遺伝子がメラニン芽細胞の分裂を抑制し、結果としてまだら模様が生まれるという説が有力だとされています。
ホワイトの割合による分類
被毛におけるホワイトの割合によって分類したものが以下の3種です。
- ローグレード全身における白の割合が40%未満の状態。
- バイカラー全身における白の割合が40%以上60%未満の状態。
- ハイグレード全身における白の割合が60%以上の状態。
ホワイトスポットと愛称
またホワイトの現れ方により、以下に示すような愛称で呼ぶ場合もあります。
- ミトンミトンとは、四肢の先端にホワイトが入った状態のことです。ちょうど手袋と靴下を着けたような感じになります。
- タキシードタキシードとは、顔、胸元、おなかにホワイトが入った状態のことです。ちょうどタキシードを着たような感じになります。
- マスク&マントルマスク&マントルとは顔、胸元、おなか、四肢にホワイトが入った状態のことです。ホワイトの部分ではなく有色の部分に着目した場合、マスクを付けてマントを羽織っているような感じになります。
- キャップ&サドルキャップ&サドルとは頭部、背中、しっぽを除いた部分がホワイトになった状態のことです。ホワイトの部分ではなく有色の部分に着目した場合、帽子(キャップ)をかぶって背中に鞍(サドル)を乗せたような感じになります。
- マグピーマグピーとは白と黒が鮮やかなカササギという鳥のことで、ホワイトを基調とし、ところどころに有色模様が入った状態を指します。
- ハーレクインハーレクインとは斑点模様の衣装を着た道化師のことで、ホワイトを基調とし、しっぽと体のところどころに有色模様が入った状態を指します。犬では唯一グレートデンだけがこの模様を発現します。
- バンパターンバンパターンとはホワイトを基調とし、しっぽと耳の付け根辺りに赤色系の模様が入った状態のことです。このパターンを示す代表猫種・ターキッシュバンにちなんでこう呼ばれます。
ホワイトスポットのレアパターン
極めてまれなパターンとしては以下のようなものがあります。
- ベルトベルトとは、一筋のホワイトが、まるで胴体にベルトを巻き付けたかのように入った状態のことです。
- ブランケットブランケットとは、まるで背中に毛布を掛けたかのように入った状態のことです。
- スワール スワールとは渦巻きのことで、ホワイトの筋がまるでかき混ぜたカプチーノのように入り乱れた状態のことです。
- スカンクスカンクとは、まるで動物の「スカンク」のように、ホワイトが背骨に沿ってまっすぐ入った状態のことです。
- ブリンドルブリンドルとは、ホワイトが一か所に集まるのではなく、地色の中に細かく入り込んだ入った状態のことです。トータスシェルの赤色を作る遺伝子が何らかの異常を起こし、本来赤になる部分が白になってしまったと考えられます。
ホワイトと間違えやすい病変
以下に示すのはホワイトスポットではなく、何らかの病変の兆候です。
- 尋常性白斑尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)とは、メラニン細胞が何らかの病変を起こして、皮膚や毛から色素が抜けていくいく病気のことです。最初はポツポツとした脱色から始まり、次第に白い部分が広がっていきます。また目の周りだけ白くなるという変わったパターンもあります。
- 白癬白癬とは皮膚糸状菌によって引き起こされる病気のことで、部分的な脱毛を引き起こします。脱毛した部分が円形のホワイトスポットに見えることから、英語では「リングワーム」とも呼ばれます。実際には毛が白くなっているのではなく、被毛がなくなることで地肌が現れ、白く見えているだけです。
- 怪我怪我によって色素を作り出すメラニン細胞が死んでしまうと、その部分だけ脱毛したり脱色したりします。人間でいうと「十円ハゲ」のような状態です。
- 老化老化に伴ってメラニン細胞の働きが衰え、部分的に被毛が白くなることがあります。多いのは口の周りです。
ティッピング
ティッピングとは、ベースカラーの下にシルバーかゴールドの色合いが入った状態のことです。シルバーの遺伝子を持っている場合は根元の色がシルバーになり、先端の色がベースカラーになります。同様に、ゴールドの遺伝子を持っている場合は根元の色がゴールドになり、先端の色がベースカラーになります。全体的には、ベースカラーに少量のシルバーやゴールドを混ぜたような感じです。
シルバーティッピング
一例ですが、ベースカラー「ブラック」にシルバーが組み合わさると、以下に示すような外観になります。銀色になるのは毛の先端ではなく根元の方です。毛に含まれるシルバーの割合により、「チンチラ」、「シェイド」、「スモーク」の3種に分類されます。
- シルバーチンチラ一本の毛の大部分がシルバーで、先端部分だけがベースカラーになります。
- シルバーシェイド一本の毛の半分くらいシルバーで、残りがベースカラーになります。
- シルバースモーク一本の毛の根元だけがシルバーで、大部分がベースカラーになります。
ゴールデンティッピング
一例ですが、ベースカラー「ブラック」にゴールドが組み合わさると、以下に示すような外観になります。黄金色になるのは毛の先端ではなく根元の方です。毛に含まれるゴールドの割合により、「チンチラ」、「シェイド」、「スモーク」の3種に分類されます。
- ゴールデンチンチラ一本の毛の大部分がゴールドで、先端部分だけがベースカラーになります。
- ゴールデンシェイド一本の毛の半分くらいゴールドで、残りがベースカラーになります。
- ゴールデンスモーク一本の毛の根元だけがゴールドで、大部分がベースカラーになります。
毛の長さ
毛の長さを決定する遺伝子は「L」で、優性遺伝子「L」の場合は短毛を作り、劣性遺伝子「l」(※数字の1ではなくLの小文字)の場合は長毛を作ります。つまり遺伝子型が「LL」や「Ll」の場合は短毛となり、「ll」という組み合わせの時だけセミロング~長毛になるというわけです。
一方、「H」という遺伝子はヘアレス、すなわち「無毛猫」の発現に関与しています。知られているのは「h」(劣性遺伝子)、「hd 」(劣性遺伝子)、「Hp」(優性遺伝子)、「hr」(劣性遺伝子)、「Hp」(優性遺伝子)などです。「hr」はスフィンクスの無毛を作り出している遺伝子であり、劣性遺伝子であるため基本的には両親から一つずつ「hr」を受け継がなければ発現しません(※例外あり)。対して「Hp」はドンスコイやピーターボールドの無毛を作り出している遺伝子であり、優性遺伝子であるため両親のどちらかから「Hp」を一つでも受け継げば発現します。 ちなみに2011年に行われた実験により、猫の被毛の長さと、おしっこの臭いの原因となるフェリニンの濃度が相関しているという可能性が示されました(:Plantinga, 2014)。実験の対象となったのは、8つの品種に属するオス猫83頭。尿中に含まれるクレアチニンと呼ばれる物質に対するフェリニンの含有率が精査されました。その結果が以下で、数値が大きければ大きいほど、高い濃度でフェリニンを含んでいることを意味しています。
一方、「H」という遺伝子はヘアレス、すなわち「無毛猫」の発現に関与しています。知られているのは「h」(劣性遺伝子)、「hd 」(劣性遺伝子)、「Hp」(優性遺伝子)、「hr」(劣性遺伝子)、「Hp」(優性遺伝子)などです。「hr」はスフィンクスの無毛を作り出している遺伝子であり、劣性遺伝子であるため基本的には両親から一つずつ「hr」を受け継がなければ発現しません(※例外あり)。対して「Hp」はドンスコイやピーターボールドの無毛を作り出している遺伝子であり、優性遺伝子であるため両親のどちらかから「Hp」を一つでも受け継げば発現します。 ちなみに2011年に行われた実験により、猫の被毛の長さと、おしっこの臭いの原因となるフェリニンの濃度が相関しているという可能性が示されました(:Plantinga, 2014)。実験の対象となったのは、8つの品種に属するオス猫83頭。尿中に含まれるクレアチニンと呼ばれる物質に対するフェリニンの含有率が精査されました。その結果が以下で、数値が大きければ大きいほど、高い濃度でフェリニンを含んでいることを意味しています。
猫種と尿中フェリニン濃度
長毛種であるノルウェジャンフォレストキャットでは数値が低く、短毛種であるアビシニアンでは数値が高いという事実に着目した研究者たちは、被毛の長さと尿中のフェリニン濃度が関係しているのではないかという仮説を提唱しています。その理由としては、「被毛にもフェリニンにもシステインと呼ばれるアミノ酸が関係しているため、被毛の成長に大量のシステインを奪われる長毛種では、尿中に現れるフェリニンが少なくなる」などが考えられています。
毛の質
毛質とは一本一本の毛が持っている特性のことです。「カール」や「縮れ」といった毛質に関連している遺伝子のほとんどは品種固有のものですので、道端を歩いている猫が持っていることはまずありません。しかしもし万が一変わった毛質を持った猫を発見した場合は、全く新しい突然変異種という可能性もあります。
現在知られている毛質にかかわる遺伝子は以下です。
現在知られている毛質にかかわる遺伝子は以下です。
- r 遺伝子劣性遺伝子/コーニッシュレックス
- gr遺伝子劣性遺伝子/ジャーマンレックス
- re遺伝子劣性遺伝子/デボンレックス
- ro遺伝子劣性遺伝子/オレゴンレックス(絶滅)
- Se遺伝子優性遺伝子/セルカークレックス
- Lp 遺伝子優性遺伝子/ラパーマ
三毛猫の不思議
「赤系統+白+第三の色」という3色パターンを持った猫は「三毛猫」、もしくは「キャリコ」(calico)と呼ばれます。この三毛猫の被毛は、「赤系統+他の色」というトータスシェル遺伝子(Oo)とホワイトスポット遺伝子(S)を併せ持っているときに発現するパターンです。非常によく見かけるありふれた猫ですが、ちょっと変わった側面も持っています。
オスの三毛猫
トータスシェルのセクションで解説した通り、トータスシェル遺伝子(Oo)を持てるのはX染色体を2本持つメス猫だけです。これは、パターンの発現に必要なO遺伝子とo遺伝子が、X染色体と共存しているためです。しかし極めてまれではありますが、X染色体を1本しか持っていないにも関わらず、なぜかオス猫にトータスシェルが発現する場合があります。
この謎の答えの一つが「クラインフェルター症候群」です。これは性染色体が「XXY」という具合に、本来よりも1本多い突然変異のことを指します。突然変異によってX染色体を2本もった結果、オスに必要な「XY」という組み合わせも保ったまま、トータスシェルに必要な「XX」という組み合わせを持つことも可能になったというわけです。しかしこの現象は、ミズーリ大学の統計によると3,000分の1程度の確率とされていますので、ほとんどお目にかかることはできないでしょう(:vetstreet, 2013)
- 南極猫「たけし」
- 「オスの三毛猫」は、その珍しさから船旅のお守りとして乗船させられていたこともあります。その典型例が南極観測船「宗谷」に乗って南極へ渡った「たけし」です。1956年、第1次南極観測隊が旅立つ2日前の11月6日、動物愛護団体の女性が「旅のお守りに」ということで事務所を訪れ、急きょ乗船が決まったといいます。南極といえばタロとジロがあまりにも有名ですが、こうした主役の陰に隠れて活躍していた「たけし」は、さしずめ助演男優賞といったところでしょう。
キメラ猫
三毛猫3000頭に1頭の割合でしかオス猫がいないのだとすると、比率は0.03%ということになります。しかし実際にはもっと高い確率で産まれているのではないかという推計もあります。
イギリス・ブリストル大学の調査チームは英国内15ヶ所にある動物病院の獣医師にアンケートを行い、特定の1週間で診察した猫たちの被毛色に関する統計データを集めました(:Leaman, 1999)。その結果、合計9,816頭のうち三毛猫が1,467頭おり、さらにそのうち20頭までもがオスだったといいます。割合に換算すると1.36%で、先に述べた0.03%に比べると45倍も多いという奇妙な結果です。
一見すると獣医師の勘違いや集計ミスに思えますが、実はそうとも言い切れません。理由の1つが「キメラ猫」の存在です。これは母猫の体内にいるとき、異なる遺伝情報を持った2つの受精卵が融合し、そのまま成長してしまった猫のことで、遺伝的にはありえない被毛色やパターンを示すことで知られています。 オスの三毛猫がクラインフェルター症候群でしか発現しないなら0.03%かもしれませんが、キメラを通じた発現パターンを加えると1%を超えるような高い割合で生まれるのかもしれません。例えば上の写真で紹介した三毛猫は「XX」(メス猫)と「XY」(オス猫)が融合したまま個体発生した「異性型キメリズム」の実例です。
イギリス・ブリストル大学の調査チームは英国内15ヶ所にある動物病院の獣医師にアンケートを行い、特定の1週間で診察した猫たちの被毛色に関する統計データを集めました(:Leaman, 1999)。その結果、合計9,816頭のうち三毛猫が1,467頭おり、さらにそのうち20頭までもがオスだったといいます。割合に換算すると1.36%で、先に述べた0.03%に比べると45倍も多いという奇妙な結果です。
一見すると獣医師の勘違いや集計ミスに思えますが、実はそうとも言い切れません。理由の1つが「キメラ猫」の存在です。これは母猫の体内にいるとき、異なる遺伝情報を持った2つの受精卵が融合し、そのまま成長してしまった猫のことで、遺伝的にはありえない被毛色やパターンを示すことで知られています。 オスの三毛猫がクラインフェルター症候群でしか発現しないなら0.03%かもしれませんが、キメラを通じた発現パターンを加えると1%を超えるような高い割合で生まれるのかもしれません。例えば上の写真で紹介した三毛猫は「XX」(メス猫)と「XY」(オス猫)が融合したまま個体発生した「異性型キメリズム」の実例です。
奇跡の模様
アメリカで「ヴィーナス」(Venus)という名の非常に変わった模様を持った猫が有名になりました。この猫は顔の中央で被毛色が分かれ、ちょうど「ハーフアンドハーフ・ピザ」のようになった猫のことです。左右の目の色も別々であることから、体の部位によって異なる遺伝情報を有する「キメラ」ではないかという噂がまことしやかに流れましたが、実際は極めて珍しい三毛猫の一種です。通常、赤系統の色とその他の色の発現を決定する「X染色体の不活性化」(→トータスシェルの発現メカニズム参照)はランダムでが起こりますが、このヴィーナスの場合はなぜか顔の中央を境にしてきれいにこの現象が起こったようです。
Venus's Page(Facebook)
しかし謎も残っています。それは、通常はホワイト遺伝子Wと共存するはずのブルーの瞳が左側に見られるという点です。遺伝学者も首をひねるこの奇妙な現象には、ひょっとするとオホサスレスの瞳に見られるような、特殊な遺伝子が影響しているのかもしれません。
模様と色ギャラリー
以下でご紹介するのは、膨大な数に及ぶ猫の被毛パターンのうち、ほんの一部をピックアップしたものです。猫の色と模様に影響を与える「ベースカラー」、「トータスシェル」、「タビー」、「カラーポイント」、「ホワイトスポット」、「ティッピング」、「毛の長さ」、「毛の質」といった要因とからめて考えていくと、複雑に思えるパターンも比較的わかりやすくなります。
いわゆる「白猫」です。目の色がライラックやレッドではないので、ホワイトを生み出しているのはアルビノではなく優性のW遺伝子であることがわかります。しかしもし体のどこかに少しでもマークが入っていた場合は、W遺伝子ではなくホワイトスポットのS遺伝子が極端に発現したということになります。写真の出典はこちら。
- ベースカラー=ホワイト
- トータスシェル=なし
- タビー=なし
- カラーポイント=なし
- ホワイトスポット=なし
- ティッピング=なし
- 毛の長さ=短毛
- 毛質=ノーマル
いわゆる「茶トラ」です。オス猫の場合は遺伝子型が「OY」、メス猫の場合は「OO」になります。はっきりした統計はないものの「茶トラはオスに多い」とよく言われます。オス猫の場合は優性の「O遺伝子」を一本でも保有していたら茶色を発現するのに対し、メス猫の場合は二本そろわないと発現しません。2本目が揃うかどうかは両親の遺伝子次第ですので、その分確率が下がってしまうというわけです。イギリスのブリストル大学が行った調査では、茶トラ猫1,207頭のうちオスが915頭(75.8%)だったといいますので、オス:メスの比率は3:1くらいと見積もるのが妥当でしょうか。写真の出典はこちら。
- ベースカラー=レッド
- トータスシェル=なし
- タビー=マックレル
- カラーポイント=なし
- ホワイトスポット=なし
- ティッピング=なし
- 毛の長さ=短毛
- 毛質=ノーマル
柄はマックレル(縞)ではなくブロッチ(斑点)に近いため、「クラシックタビー」に分類されます。額には特徴的な「M」の模様が入っています。脇腹に大きめの斑点が現れた場合、その部分は「ブルズアイ」、もしくは「オイスター」と呼ばれます。写真の出典はこちら。
- ベースカラー=ブラック
- トータスシェル=なし
- タビー=クラシック
- カラーポイント=なし
- ホワイトスポット=なし
- ティッピング=なし
- 毛の長さ=短毛
- 毛質=ノーマル
いわゆる「三毛猫」です。複数ある色のうち、一番濃い部分がベースカラーになります。ベースカラーと赤系統を作っているのがトータスシェルの「Oo遺伝子」で、ホワイト部分を作っているのが「S遺伝子」です。さらにこの猫の場合は、ベースカラー部分にマックレル(細い縞)を含んでいますので、濃い部分と薄い部分の2色に分かれています。つまり全体としては「薄いベースカラー+濃いベースカラー+赤系統+ホワイト」という「四毛猫」状態というわけです。ちなみによほどの偶然でない限り、この猫はメスでしょう。 写真の出典はこちら。
- ベースカラー=ブラック
- トータスシェル=あり
- タビー=マックレル
- カラーポイント=なし
- ホワイトスポット=ローグレード
- ティッピング=なし
- 毛の長さ=短毛
- 毛質=ノーマル
「猫を背負った猫」として有名になった写真です。ホワイトスポットを作り出す「S遺伝子」の気まぐれな作用によってこのような模様が出来上がったと考えられます。有色部分が頭、背中、しっぽに限定されていることから、分類上は「キャップ&サドル」(帽子と鞍)になるでしょう。写真の出典はこちら。
- ベースカラー=ブラック
- トータスシェル=なし
- タビー=マックレル
- カラーポイント=なし
- ホワイトスポット=ハイグレード
- ティッピング=なし
- 毛の長さ=短毛
- 毛質=ノーマル
立派な口髭で有名になった「ハミルトン」の写真です。この口髭も、ホワイトスポットを作り出す「S遺伝子」の作用によって生み出されています。ベースカラーのブルーは、ブラックがダイリュート遺伝子「dd」の作用によって薄くなったものです。ですから厳密には「グレー」といった方が正確かもしれません。 写真の出典はこちら。
- ベースカラー=ブルー
- トータスシェル=なし
- タビー=なし
- カラーポイント=なし
- ホワイトスポット=ローグレード
- ティッピング=なし
- 毛の長さ=短毛
- 毛質=ノーマル