猫カリシウイルス感染症の原因
猫カリシウイルス感染症は一本鎖RNAウイルスであるネコカリシウイルスによって引き起こされる病気。1950年代、ニュージーランドに暮らす猫の消化管から分離されたのが最初ですが(Fastier L., 1957)、実際はそれよりも遥か昔から存在していたものと推測されます。非常に感染率が高く、室内飼いの猫で10%、屋外の猫コロニーや動物保護シェルターといった多頭飼育環境の猫ではときに25~40%に達します。また2017年にイギリスの調査チームが発表した研究によると(→詳細)、2~3頭の多頭飼い家庭においてはウイルスの体外排出リスクが1.7倍、4~10頭の家庭においては2.8倍に高まるとされています。
カリシウイルスの感染動物
猫カリシウイルス(FCV)は種特異性が高く、基本的にはイエネコ、トラ、アフリカライオン、アムールトラといったネコ科動物にしか感染しません。しかし人間の輸血液から採取された血清を調べたところ、8.2%(374サンプル)でFCVに対する抗体が検出されたというデータもあります。また下痢症状を示した犬からFCVに似たウイルスが分離されたとの報告もあります。さらに海洋哺乳類の体内からFCVに対する中和抗体(感染歴の証拠)が数多く検出されています。
こうした事実から考えると、病原性を発揮するかどうかは別として、猫カリシウイルスは多くの動物に対する感染能力を有していることは確かなようです。
こうした事実から考えると、病原性を発揮するかどうかは別として、猫カリシウイルスは多くの動物に対する感染能力を有していることは確かなようです。
カリシウイルス強毒株
カリシウイルスの強毒株は1998年、カリフォルニア北部において初めて報告されました。特徴は死亡率が33~50%と極めて高く、感染性も強いという点です。ペンシルベニア州、マサチューセッツ州、テネシー州、ネバダ州、南カリフォルニアで発生したアウトブレーク時には、しっかりと消毒したはずの手指や医療器具を通して感染が広がり、猛威をふるいました。さらにカリフォルニア南部で発生したアウトブレークでは、発症した54頭のうち少なくとも26頭はワクチンを事前に接種していたといいます。今のところ日本における報告例はありません。
現在4つの分離株が強毒性として確認されていますが、それぞれの間に遺伝的な関連性はなく、全く別の系統から発生したものと推測されています。通常のカリシウイルスと強毒性を見分けるマーカーは発見されていませんので、臨床症状などから類推するしかありません。
弱毒性ウイルスのタンパクが皮膚上皮細胞内の細胞質、口腔粘膜、関節液中のマクロファージから検出されるのに対し、強毒性ウイルスのタンパクは粘膜、皮膚、呼吸器の上皮細胞のほか、膵臓の腺房細胞、内皮細胞、肝細胞からも検出されます。こうした事実から、強毒性ウイルスの特徴は血流に入り込む能力が高く、全身に広がりやすい点ではないかと考えられています。
弱毒性ウイルスのタンパクが皮膚上皮細胞内の細胞質、口腔粘膜、関節液中のマクロファージから検出されるのに対し、強毒性ウイルスのタンパクは粘膜、皮膚、呼吸器の上皮細胞のほか、膵臓の腺房細胞、内皮細胞、肝細胞からも検出されます。こうした事実から、強毒性ウイルスの特徴は血流に入り込む能力が高く、全身に広がりやすい点ではないかと考えられています。
カリシウイルス日本固有株
日本国内には独自の進化を遂げた固有の野外株があるようです。麻布大学の調査チームが日本国内で採取されたカリシウイルス野外株21種と世界共通株30種の遺伝子型を調査しました(Sato, 2002)。その結果、世界共通株はすべてが遺伝子型Iに分類されたのに対し、日本野外株21種のうち14種(67%)は遺伝子型IIに分類されたといいます。こうした結果から調査チームは、日本国内には世界に類を見ない独自の遺伝子型を保有した日本固有株があるとの結論に至りました。
これらの日本固有株は、キャプシド遺伝子のB領域およびF領域におけるアミノ酸で多くの変異が見られたといいます。カリシウイルスの抗原性を決めるのは遺伝子E領域にある33個のアミノ酸と考えられていますので、「一般的に使われているワクチンがまったく効かない」ということはないようです。
これらの日本固有株は、キャプシド遺伝子のB領域およびF領域におけるアミノ酸で多くの変異が見られたといいます。カリシウイルスの抗原性を決めるのは遺伝子E領域にある33個のアミノ酸と考えられていますので、「一般的に使われているワクチンがまったく効かない」ということはないようです。
猫カリシウイルス感染症の症状
猫カリシウイルスは鼻汁、唾液、目やにを介して猫から猫に感染します。グルーミングや食器の共有などを通して猫の体内に侵入したウイルスはのどの奥の方(咽頭や喉頭)で増殖し、感染から3~4日で一過性のウイルス血症を引き起こします。ウイルスが感染した上皮細胞では壊死が起こり、舌辺縁部の小胞が潰瘍へと発展するのが常です。猫の免疫力が正常な場合、2~3週間で自然治癒し、以後はウイルスを保有しているけれども症状を示さないキャリアーとなります。ウイルスが潜伏しているのは扁桃腺の上皮と考えられていますが、腺を切除してもウイルスが体内から消えないため、他の組織にも潜伏している可能性が大です。
弱毒株による初期症状
それほど重篤な症状を引き起こさない弱毒株ウイルスの潜伏期間は2~10日です。初期症状はウイルスの系統や併存症の有無によってやや異なりますが、子猫で最も一般的なものは以下です。
カリシウイルス初期症状
- 舌の潰瘍
- 口内炎
- 流涎(よだれ)
- くしゃみ
- さらっとした鼻水
- 発熱
- 食欲不振
リンピング症候群
リンピング症候群(limping syndrome)とは、発熱を伴う一過性の荷重不全のことです。「FCV-2280」「FCV-F65」「FCV-LLK」といった分離株が原因と考えられており、関節内で急性・重度・出血性・好中球性の滑液包炎が起こることにより、足を引きずったりその場にへたりこんだりします。ウイルス感染やワクチン接種後に見られ、自然感染下では口内症状や呼吸器症状が出現してから数日~数週後に現れます。
強毒株による全身症状
強毒株による全身症状とは強毒性全身性ネコカリシウイルス(VS-FCVs)と呼ばれる毒性が強い株によって引き起こされる重篤な症状のことです。おもにアメリカやヨーロッパで報告されていますが、日本における症例はまだありません。かつての名称は「出血様熱」で、1980年代の半ばに登場したウサギ出血病に似ていますが、ウイルス間に関連性があるのかどうかはわかっていません。
強毒全身性株が引き起こす一般的な症状は以下です。猫の生育環境、ウイルスの病原性、宿主の免疫応答によって多少変動します。
強毒全身性株が引き起こす一般的な症状は以下です。猫の生育環境、ウイルスの病原性、宿主の免疫応答によって多少変動します。
強毒株による全身性症状
- 抗生物質に反応しない発熱
- 浮腫(頭部 | 耳介 | 手足の先)
- 口内の潰瘍(舌 | 皮膚粘膜移行部)
- 皮膚潰瘍(耳介 | 肉球 | 鼻部 | 眼球周辺 | 下肢先端部)
- かさぶた様病変
- 肝細胞の壊死や膵炎に伴う黄疸
- 肺浮腫に伴う呼吸困難
- DICに伴う点状出血、斑状出血、鼻出血、血便
- 多臓器不全
- 死亡(最大で67%)
猫カリシウイルス感染症の検査
カリシウイルス感染症は他の病原体と併存することが多いため、臨床症状だけから診断を下す事は困難です。具体的な併存症としてはヘルペスウイルスI型、クラミジア、ボルデテラなどが挙げられます。確実にカリシウイルスに感染していることを確認するためには、ウイルスに固有の要素を猫の体内から検出しなければなりません。
PCR検査
PCR検査とはFCVのRNAを検出する方法のことです。検体には結膜や口内スワブ、血液、皮膚のスクレイピング(表面の細胞を削り取る)、肺組織などが用いられます。FCVのゲノムが多種多様であるため検出率はまちまちで、ラボごとに検査結果が異なることもしばしばです。なお強毒性に特徴的なゲノムマーカーは見つかっていません。
ウイルス分離
ウイルス分離とはウイルスを培養して存在を確認する方法のことです。検体には鼻汁、結膜分泌液、咽頭喉頭スワブなどが用いられます。検体中のヴィリオン(ウイルス粒子)が少ないため検出できないこともしばしばです。その他、抗体による中和作用が結果に干渉することもあります。
抗体検査
抗体検査とは患猫の体内に形成された免疫応答タンパク(抗体)をELISAと呼ばれる手法で検出することです。抗体価を調べることは、猫がFCVに対して抵抗力を有しているかどうかの指標にはなりますが、ウイルス由来とワクチン由来の抗体までは区別できません。つまり「現在感染している」のか「かつて感染していた」のか「ワクチンを接種したけれども感染歴はない」のかを区別できないということです。
ウイルスのキャプシドタンパクに含まれるアミノ酸が多様であるため、それに連動して抗原性も多様になります。その結果、体内に抗体はあるけれども、試験に用いた抗原にはたまたま反応しなかった(偽陰性)という結果が生じうるのが難点です。
ウイルスのキャプシドタンパクに含まれるアミノ酸が多様であるため、それに連動して抗原性も多様になります。その結果、体内に抗体はあるけれども、試験に用いた抗原にはたまたま反応しなかった(偽陰性)という結果が生じうるのが難点です。
猫カリシウイルス感染症の治療
猫カリシウイルスを体内からきれいさっぱり駆逐してくれる特効薬はありません。出てきた症状の軽減に努める支持療法がメインとなります。また多頭飼育環境や保護施設(シェルター)環境では、患猫を健康な猫からすばやく隔離することも重要です。
日本国内ではインターフェロンオメガという製剤が「インターキャット」(東レ)という商品名で認可されています。対象疾患はネコカリシウイルス感染症で、静脈注射によって投与します。39頭の猫を対象とした比較調査では、猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方に糖質コルチコイド、他方にインターフェロンオメガ(0.1MU/経口)を投与して90日に渡って比較を行いました(Hennet, 2011)。その結果、インターフェロングループでのみ調査初日と90日後における「痛みのスコア」で有意差が認められたといいます。
猫カリシウイルスの支持療法
- 輸液による脱水の回復
- 電解質の補給
- 栄養補給
- NSAIDs(非ステロイド系抗炎症剤)による鎮痛
- 分泌物の除去
- 膿性の分泌物が出ている場合は粘液溶解性の薬剤
- インターフェロンオメガ
- 肺炎を併発している場合は酸素吸引
日本国内ではインターフェロンオメガという製剤が「インターキャット」(東レ)という商品名で認可されています。対象疾患はネコカリシウイルス感染症で、静脈注射によって投与します。39頭の猫を対象とした比較調査では、猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方に糖質コルチコイド、他方にインターフェロンオメガ(0.1MU/経口)を投与して90日に渡って比較を行いました(Hennet, 2011)。その結果、インターフェロングループでのみ調査初日と90日後における「痛みのスコア」で有意差が認められたといいます。
猫カリシウイルス感染症の予防
猫カリシウイルスにはワクチンがありますので、感染の危険性がある猫に対しては接種しておいたほうが無難です。またエンヴェロープを持たないウイルスであるため消毒に強く、環境中で長期に渡って生存し続けます。特に多頭飼育環境においては消毒を徹底し、ウイルスをしっかり不活性化する必要があります。
ワクチン接種
猫カリシウイルスに対するワクチンは、生育環境にかかわらず接種すべき「コアワクチン」に数えられています。ワクチンの役割は、万が一ウイルスに感染してしまったときの症状を軽減することであり、決して感染そのものを防いだり感染後のウイルス排出を抑制することではありません。
ワクチンの種類
猫カリシウイルスは、ウイルスのキャプシドタンパクに含まれるアミノ酸が微妙に置き換わることで変異種が生まれやすいのが特徴です。多くの場合、1つの系統に感染していれば、その他の系統に感染しても高い確率で交差免疫が働いてくれますが、すべての野外株に対応した万能ワクチンは今のところ開発されていません。
現時点において日本国内で認可されているカリシウイルス向けワクチンは以下です。「対象感染症名」「メーカー」「ワクチンタイプ(生・不活化)」「アジュバント」の順で記載してあります。詳しくは以下のページもご参照ください。
現時点において日本国内で認可されているカリシウイルス向けワクチンは以下です。「対象感染症名」「メーカー」「ワクチンタイプ(生・不活化)」「アジュバント」の順で記載してあります。詳しくは以下のページもご参照ください。
3種ワクチン
全てに共通している対象疾患は猫カリシウイルス感染症、猫ウイルス性鼻気管炎、猫汎白血球減少症の3つです。
- 猫用ビルバゲンCRP上記3疾患 | ビルバックジャパン | 生 | 無 | 詳細
- ノビバックTRICAT上記3疾患 | インターベット | 生 | 無 | 詳細
- ピュアバックスRCP上記3疾患 | ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン | 混合 | 無 | 詳細
- フェロガード・プラス3上記3疾患 | ゾエティスジャパン | 生 | 無 | 詳細
- フェロセルCVR上記3疾患 | ゾエティスジャパン | 生 | 無 | 詳細
- フェロバックス3上記3疾患 | ゾエティスジャパン | 不活化 | エチレン・アクリル酸・油 | 詳細
4種ワクチン
- ピュアバックスRCP-FeLV猫カリシウイルス感染症・猫ウイルス性鼻気管炎・猫汎白血球減少症・猫白血病ウイルス感染症 | ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン | 混合 | 無 | 詳細
5種ワクチン
- フェロバックス5猫カリシウイルス感染症・猫ウイルス性鼻気管炎・猫汎白血球減少症・猫白血病ウイルス感染症・猫クラミジア感染症 | ゾエティスジャパン | 不活化 | エチレン・アクリル酸・油 | 詳細
- ピュアバックスRCPCh-FeLV猫カリシウイルス感染症・猫ウイルス性鼻気管炎・猫汎白血球減少症・猫白血病ウイルス感染症・猫クラミジア感染症 | ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン | 混合 | なし | 詳細
ワクチン接種のタイミング
子猫が生まれた時に母猫から受け取るカリシウイルスに対する移行免疫は生後15日程度で半減します。個体差は大きいものの、抗体価が持続するのはせいぜい生後10~14週間だと推測されますので、免疫力が低下したタイミングを見計らってワクチンを接種し、獲得免疫を体内に形成しなければなりません。
一般的な接種プログラムは初回接種が生後6週~8週齢、3~4週あけて2回目、移行抗体が十分に弱まった生後16~20週齢に3回目をもってくるという流れです。その1年後にブースターを接種し、以後は3年に1回となります。
一般的な接種プログラムは初回接種が生後6週~8週齢、3~4週あけて2回目、移行抗体が十分に弱まった生後16~20週齢に3回目をもってくるという流れです。その1年後にブースターを接種し、以後は3年に1回となります。
ワクチン接種の注意点
猫の繁殖を行っているキャッテリー環境においては、妊娠前の段階で母猫にワクチンブースターを接種することが推奨されています。妊娠中のワクチン接種は、特に生ワクチンが血液経由で胎子に感染してしまう危険性があるため避けなければなりません。
免疫力が低下した猫では、ワクチンを接種しても十分な免疫応答が起こらず、抗体が形成されない可能性があります。また生ワクチンだとワクチンそのものが病原性を発揮してしまう危険性があるため、不活化ワクチンが望ましいとされています。たとえば猫エイズウイルス感染症陽性猫や猫白血病ウイルス感染症陽性猫においては、健康であること、ウイルスと接触する可能性があること、不活化ワクチンを使うことが接種の条件となります。
免疫力が低下した猫では、ワクチンを接種しても十分な免疫応答が起こらず、抗体が形成されない可能性があります。また生ワクチンだとワクチンそのものが病原性を発揮してしまう危険性があるため、不活化ワクチンが望ましいとされています。たとえば猫エイズウイルス感染症陽性猫や猫白血病ウイルス感染症陽性猫においては、健康であること、ウイルスと接触する可能性があること、不活化ワクチンを使うことが接種の条件となります。
ワクチンの防御力
すべての野外株に対して効果を発揮する万能ワクチンはありません。2003年から2006年の期間に採取された野外株58種を対象とし、市販のワクチンによって抗体が形成された血清がどの程度の中和能力をもっているかが検討されました(Masubuchi, 2010)。3種のワクチンを使って調べたところ、防御率に43.1%、63.8%、86.2%という大きな開きが見られたといいます。
58種の野外株を調べたところ、ウイルスのキャプシド遺伝子E領域に含まれるアミノ酸に明白な違いがあり、それぞれ異なる抗原性を有していることが明らかになりました。ワクチン間で見られた防御率の格差は、ある系統の野外株に対しては免疫応答が起こるけれども、別の系統の株に対しては起こらないというムラによって生み出されているものと推測されています。
ワクチンを接種することにより、ウイルスに感染したときの症状を軽減してくれることは確かです。しかし、日本国内に存在している数十種類の野外株全てに対して等しく防御力を発揮してくれるわけではありません。「ワクチンを打ったからもう安心だ!」と考えるのはとんでもない早合点です。
ワクチンを接種することにより、ウイルスに感染したときの症状を軽減してくれることは確かです。しかし、日本国内に存在している数十種類の野外株全てに対して等しく防御力を発揮してくれるわけではありません。「ワクチンを打ったからもう安心だ!」と考えるのはとんでもない早合点です。
ウイルスの消毒・不活性化
猫カリシウイルスは37℃乾燥環境内では1日も生存できませんが、室温乾燥環境内では21~28日、4℃の乾燥環境内では60日以上感染能力を持続できることが確認されています(Doultree, 1999)。気温が低い冬になるとヘルペスウイルスI型と共にウイルス性呼吸器感染症を引き起こすのもそのためです。ウイルスが付着した媒介物に接触することによって猫から猫へと伝播しますので、多頭飼育環境においてはしっかりとしたウイルスの不活性化が必要となります。
小物の煮沸消毒
猫カリシウイルスをお湯で不活性化させるためには、70℃で5分、100℃で1分の煮沸消毒が必要です(Doultree, 1999)。食器やおもちゃなど猫が口に入れる可能性があり、なおかつ鍋に入れることができる小さなものを消毒する際は薬剤ではなくお湯を使ったほうが有効でしょう。
施設の薬品消毒
猫カリシウイルスを薬剤で消毒する際は以下のような有効成分を用いる必要があります。ウイルスを完全に不活性化させるため、濃度はしっかり守るようにします。所要時間は最低1分です(Doultree, 1999)。
上記したような消毒薬は皮膚に付着すると炎症などを引き起こすことがあります。使用する際は床や壁などの無生物に限定してください。
衣類や布製品の消毒
漂白活性化剤を含んだ漂白剤には強い殺ウイルス作用があると報告されています(Tobe, 2012)。特にオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム(OBS)やオキシ安息香酸(OBC)を含んだものが有効とのこと。カリシウイルスが付着した衣服は、ただ単に水洗いするのではなく、上記した成分を含んだ漂白洗剤を使って洗濯することが推奨されます。
手指の消毒
手指にウイルスが付着した状態で他の猫をなでたりすると、人間がウイルス媒介物になって感染症を広めてしまいますので、しっかりと消毒を行わなければなりません。カリシウイルスは流水によるすすぎ15秒だけでもウイルス量を1/100程度(0.64%)に減少させることができると報告されています(Mori, 2006)。さらに界面活性成分を含んだハンドソープを用いると除去量がアップし、ヨード化合物(ポビドンヨード)を含んだハンドソープを用いると不活化が促進されるとも。
繰り返し洗うことでさらにウイルス量が減るとされていますので、ヨード化合物を含んだ薬用石鹸を使い、水を流しながら繰り返し手を洗うことで感染予防になるでしょう。
医薬用殺菌薬としてエタノールと混ぜて用いられるクロルヘキシジンは、ウイルスの半分くらいしか不活化できないようです。家庭用消毒スプレーなどに含まれる第四級アンモニウム塩はウイルス生存率が15%程度ですが統計的に有意とは判断されませんでした。唯一効果が認められたのはヨード化合物を含んだ消毒剤で、99.7%のウイルスを不活化できることが明らかになりました。
ウイルスの不活化力に関してはクロルヘキシジンを除く3つ(第四級アンモニウム塩 | 安息香酸 | PHMB)で有効性が確認されました(PHMB=ポリヘキサメチレンビグアナイド)。アルコールを含んだ消毒用ウエットティッシュで手指を拭いてもほぼ確実にウイルスが残ってしまうことは覚えておいたほうが良いでしょう。
速乾性消毒剤の効果
カリシウイルスはエンヴェロープを持たないため薬剤に対する強い抵抗性を持っています。その結果、市販されているアルコール消毒薬にはほとんど殺ウイルス効果がありません。一般的な速乾性消毒剤のカリシウイルスに対する効果は以下です(Mori, 2007)。
速乾性消毒剤は手にシュッと出してそのまますり込むタイプの薬剤ですので、種類にかかわらずウイルスを物理的に除去する能力はほとんど持っていません。その結果、ウイルスの残存率が98%と高いままです。医薬用殺菌薬としてエタノールと混ぜて用いられるクロルヘキシジンは、ウイルスの半分くらいしか不活化できないようです。家庭用消毒スプレーなどに含まれる第四級アンモニウム塩はウイルス生存率が15%程度ですが統計的に有意とは判断されませんでした。唯一効果が認められたのはヨード化合物を含んだ消毒剤で、99.7%のウイルスを不活化できることが明らかになりました。
ウエットティッシュの効果
抗ウイルス成分を含んだウエットティッシュのカリシウイルスに対する効果は以下です(Mori, 2007)。
クロルヘキシジンを除くどのティッシュでもウイルスの残存率が0.5~2%ですので、98%以上を物理的に除去する能力は持っているようです。ティッシュに含まれていた界面活性剤(ラウリル硫酸塩やポリオキシエチレンアルキルアミン)の効果が大きいのではないかと考えられています。ウイルスの不活化力に関してはクロルヘキシジンを除く3つ(第四級アンモニウム塩 | 安息香酸 | PHMB)で有効性が確認されました(PHMB=ポリヘキサメチレンビグアナイド)。アルコールを含んだ消毒用ウエットティッシュで手指を拭いてもほぼ確実にウイルスが残ってしまうことは覚えておいたほうが良いでしょう。
機能水の効果
人為的な処理を施された機能水のカリシウイルスに対する効果は以下です(Mori, 2007)。
次亜塩素酸を主成分とした水溶液「強酸性電解水」にしても「オゾンのナノバブル水」にしても物理的な除去能力とウイルスに対する不活化力が認められました。しかし流水によるすすぎ15秒よりも有効と判断されたのは「手指洗浄用ハンドソープによる揉み洗い10秒+強酸性電解水によるすすぎ15秒」だけでした。強酸性電解水を手洗い用に準備しているのは特殊な施設だけですので、先述したヨード化合物を含んだ薬用石鹸を使い、水を流しながら繰り返し手を洗うという方法を用いる方が現実的でしょう。
ストレス管理
カリシウイルスに感染した猫は多くの場合自然治癒し、以降は症状を示さないまま体内にウイルスを保有するキャリアになります。ウイルスは扁桃腺に潜んでいると考えられていますが、その他の組織に隠れている可能性も否定できません。
気をつけなければならないのは、ストレス、免疫不全を引き起こす病気、免疫抑制剤の投与、老化、栄養不足などによってウイルスがぶり返し、目や鼻の分泌液中に排出されて他の猫に移してしまうことがあるという点です。まずは完全室内飼いを徹底して猫エイズウイルス感染症や猫白血病ウイルス感染症といった免疫力を低下させる疾患にかからないようにしましょう。また室内環境を整え、猫がストレスを溜め込まない生活を手助けしてあげることも重要です。
カリシウイルスにはワクチンが開発されており、事前に接種しておけば症状の軽減に役立ってくれます。日本国内に強毒株はありませんが、遺伝子型が異なる日本固有株が確認されています。今の所「ワクチンが効かない」という最悪の状況にはなっていないようですので、ウイルスと接触する機会がある猫にはコアワクチンとして打っておいたほうが無難でしょう。
ひとたびウイルスに感染した猫は、たとえ症状が消えたとしても体内にウイルスを保有するキャリアになります。ストレス、免疫不全を引き起こす病気、免疫抑制剤の投与、老化、栄養不足などによってウイルスがぶり返して再び環境中に排出されることがありますので、ストレス管理はしっかり行いましょう。
気をつけなければならないのは、ストレス、免疫不全を引き起こす病気、免疫抑制剤の投与、老化、栄養不足などによってウイルスがぶり返し、目や鼻の分泌液中に排出されて他の猫に移してしまうことがあるという点です。まずは完全室内飼いを徹底して猫エイズウイルス感染症や猫白血病ウイルス感染症といった免疫力を低下させる疾患にかからないようにしましょう。また室内環境を整え、猫がストレスを溜め込まない生活を手助けしてあげることも重要です。
まとめ
猫カリシウイルスは非常にありふれたウイルスで、口の中の炎症を主体とした症状を引き起こします。消毒に強く環境中で長期に渡って感染能力を保ちますので、病歴がわからない猫を触った後、家で飼っている猫をむやみに触らないようにしましょう。カリシウイルスにはワクチンが開発されており、事前に接種しておけば症状の軽減に役立ってくれます。日本国内に強毒株はありませんが、遺伝子型が異なる日本固有株が確認されています。今の所「ワクチンが効かない」という最悪の状況にはなっていないようですので、ウイルスと接触する機会がある猫にはコアワクチンとして打っておいたほうが無難でしょう。
ひとたびウイルスに感染した猫は、たとえ症状が消えたとしても体内にウイルスを保有するキャリアになります。ストレス、免疫不全を引き起こす病気、免疫抑制剤の投与、老化、栄養不足などによってウイルスがぶり返して再び環境中に排出されることがありますので、ストレス管理はしっかり行いましょう。