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子猫の育て方・実践編~週齢ごとの適切な保育方法から子猫に多い病気まで

 基本的なケアの仕方を覚えたらいよいよ実践です。子猫は生まれてからの半年間で劇的に成長しますので、週齢に合わせた適切な育て方を知っておかなければなりません。また子猫に多い病気についても知って緊急事態に備えておきましょう(🔄最終更新日:2023年4月)。なお子猫を迎える準備がまだできていない方は子猫の育て方・準備編から、子猫の基本的なケアをマスターしていない方は子猫の育て方・基本編からご覧ください。

子猫の成長曲線

 以下でご紹介するのは普通の短毛種が成猫になるまでの成長曲線です。日本国内で飼育されている猫は8割近くが雑種(短毛種)ですので、かなりの人にとっては参考になるでしょう。なお特定品種に属するいわゆる「純血種」に関しては、フランス国内における代表的な15品種の出生時体重(最小二乗平均値)が報告されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。 純血猫の平均的な出生時体重一覧リスト

子猫の体重変化(8週齢まで)

 以下のグラフは子猫が生まれてから生後8週齢(56日齢)になるまでの体重変化を記録したものです。フロリダ大学の調査チームがオス115頭とメス111頭の子猫を対象として行った観察が元データになっています。猫たちは純血種ではなく普通の短毛種で、栄養状態は良好です出典資料:DiGangi, 2020)生まれてから8週齢になるまでの子猫の体重変化
  • 誕生時:オス110g | メス110g
  • 2週齢:オス300g | メス290g
  • 4週齢:オス490g | メス470g
  • 6週齢:オス690g | メス630g
  • 8週齢:オス960g | メス880g
 生後8週間(56日間)における平均成長率は、出産数が2頭の場合が「13.7g/日」、7~8頭の場合が「7.3g/日」くらいと言われます(Deag, 1988)。きょうだい猫の数が多ければ多いほど成長率が悪くなるのは、1頭あたりの栄養摂取量が減るためです。ただしこれは「母乳」という限られた資源を栄養としたときの成長率であり、ここに人工栄養が加われば、たとえたくさんのきょうだい猫がいても、1頭あたりの栄養量を増やすことができるしょう。

子猫の成長曲線(8週齢以降)

 以下は8週齢以降の子猫が成猫(78週齢)になるまでの一般的な成長曲線です。2022~23年にかけて公開された最新の大規模データを元にしています。アメリカにおける調査報告ですが、日本国内で同様の調査が行われるまでは基準値として利用できるでしょう。

不妊手術を行っていない場合

 オス猫への去勢やメス猫への避妊手術を行っていない場合、以下に示すような成長曲線を示します。元データは1994年7月から2016年11月までの期間、北米を中心に900超の一次診療医院を展開するBanfield®Pet Hospitalを受診したオス3,103頭、メス3,987頭です(2004年以降が3/4を占める)。グラフ中「%」はパーセンタイルのことで、「50%」と記載されている赤い曲線が母集団のちょうど中央(≒標準的)という位置づけになります。詳しい報告は以下のページをご参照ください。 子猫の正常な成長曲線・去勢避妊手術をしていない場合 未去勢オス猫の標準的成長曲線(8~78週齢) 未避妊メス猫の標準的成長曲線(8~78週齢)

不妊手術を行った場合

 オス猫への去勢やメス猫への避妊手術を行った場合、性別を問わず未手術猫と比較して体重が増加することが明らかになっています。元データとなったのは1994年7月から2016年11月までの期間、北米を中心に900超の一次診療医院を展開するBanfield®Pet Hospitalにおいて不妊手術を受けた猫たち(2004年以降が77%を占める)。
 増加した体重を平均すると明らかな肥満とは判定されないレベルですので、人間で言うと「ふっくらした」程度でしょうか。詳しい報告は以下のページにまとめてあります。 子猫の正常な成長曲線・去勢避妊手術済みの場合  なお病的なレベルではないとは言え肥満は万病の元ですので、正常な成長曲線としては先述した「不妊手術を行っていない場合の成長曲線」を参照してください。

子猫の成長率曲線

 以下のグラフは、純血種ではない普通の短毛種が自由に餌を食べた時における成長率を表したものです(Massey University, 2018)。横軸が「週齢」、「縦軸が1週間に増える体重(g)」、青線が「オス猫」、赤線が「メス猫」を示しています。例えば10週齢における増加体重が120gの場合、「生後9週齢から10週齢に至る1週間で体重が120g増加する」という意味になります。 短毛種の子猫が自由摂食環境にあるときの雌雄別成長率グラフ  猫は人間と同じく性的二形成を持った動物ですので、生後3週齢ころからオスとメスとの成長率に差が生まれ始めます。成長率のピークを迎えるのはメスの場合が13週齢(3ヶ月齢過ぎ)ころ、オスの場合が15週齢(4ヶ月齢弱)ころです。ピークを過ぎてからは緩やかに成長を続け、70週齢(1歳半)ころになるとオスもメスも成熟年齢に達して成長がストップします。
 子猫の成長率データはニュージーランド・マッセー大学の繁殖コロニーで飼育されていた212頭の猫を元にしたもので、不妊手術ステータスもバラバラ(去勢オス97頭 | 未去勢オス8頭 | 避妊メス46頭 | 未避妊メス61頭)ですが成長の目安にはなってくれるでしょう。
グラフで示したように生後半年間は子猫の体が劇的に大きくなりますので、しっかりとした栄養を責任持って与えなければなりません。では具体的な育て方を見ていきましょう!

週齢ごとの育て方

 子猫は生後半年の間でとりわけ急激に成長します。週齢ごとに必要とするエネルギーの量が劇的に変化しますので、1日単位で与えるミルクの量を調整しなければなりません。

1週齢の育て方

 「1週齢」とは「誕生~7日齢」の期間です。この時期は1日の80~90%を寝て過ごしますので、飼い主はしっかりとベッドを整え、定期的にミルクを与えなければなりません。それぞれの詳しいやり方は子猫の育て方・基本編を参考にしてください。

授乳の量と回数

 授乳量や回数に関しては以下の表を参考にしながら与えます。授乳回数は6~8回ですので、朝だろうが夜中だろうが3~4時間に1回の頻度で授乳しなければなりません。 1週齢の子猫に必要な授乳量の目安と回数
数値の元データ ✓必要熱量=0.24kcal/g/日
✓ミルク濃度=0.83kcal/ml
✓1回授乳量=胃の容量
✓1日授乳量=必要熱量÷ミルク濃度
 生まれたばかりの子猫の平均体重は100g前後ですが、50~150gと個体差があります。体の大きさによって胃袋の容量が変わりますので、しっかりと体重を測って下さい。また正常なら1日10~15gのペースで体重が増加していきます。たった3日で必要カロリー数も胃の容量も変わりますので、毎日デジタルスケールに乗せて体重の変化をモニタリングし、結果に合わせてミルクの量を調整します。
 1週齢の子猫は1日の80~90%を寝て過ごします。「寝てばかりいる」と少し不安になるかもしれませんがそれが正常ですので、授乳とおしっこが終わったらすみやかにベッドに戻してぐっすりと眠らせてあげましょう。

0~7日齢の子猫の成長

 以下は、1週齢(0~7日齢)の子猫に見られる一般的な成長過程です。これらの過程が観察される場合は、順調に成長していると判断できます。なお子猫にへその緒がついている場合、大抵は1週間以内に自然に取れますのでわざわざハサミで切る必要はありません。
子猫の成長(0~7日齢)
  • 体重1日最低10gのペースで体重が増える。1週間で100g増えるのが目安。生後7日時点での体重は150~225gくらい。
  • 視覚4日齢ではすでに大脳皮質における視覚の電位が記録され、6日齢には網膜電図が記録可能となる。
  • 聴覚生後2~3日ごろから電位が見られ、生後6日目までに200~6,000ヘルツまで可聴域が広がる。
  • 運動能力下半身を骨盤で支え、前肢で体重を支えようとする「踏みなおし反射」は、3.5日齢くらいから見られるようになる。その後、5.7日齢くらいになると、前肢で体重を支えることができるようになる。
  • 触覚生まれたときから鋭敏で、特に鼻先は0.2度の温度変化でも感知できる。

特徴や注意点

 子猫の目は、生後7日頃まで開かないため、外の世界はもっぱら嗅覚、触覚、聴覚によって把握しようとします。特に前足(前肢)の役割は重要で、自分の位置を変えるときや、母猫の腹部に対して「ミルクトレッド」と呼ばれる行動を取るときに用いられます。ミルクトレッド(milk tread, ニーディングとも)とは、乳房をマッサージするような動きのことで、これにより母乳の出がよくなると言います。 母乳の出を良くするために行う子猫の本能的な行動「ミルクトレッド」  子猫の鼻先は、母猫の乳首を探すためや、巣から迷い出たときのため、温度に対して非常に敏感にできています。迷子になった子猫は、巣に向かって続く温度勾配を鼻先で感知し、自分の進むべき方向を決めているそうです。これは、母猫が連れ戻しに来なかったときのための生得的な安全装置なのでしょう。
 母猫から子猫を引き離した後、再び一緒にすると、頭部を母猫の被毛の中にうずめるもぐりこみ反射と呼ばれるしぐさを見せます。成猫でも、顔面を両手で覆うとおとなしくなる場合があるのは、子猫の頃のこうした安心感を覚えているためだと考えられます。

2週齢の育て方

 「2週齢」とは、おおよそ「8~14日齢」の期間です。授乳と排泄補助に関する基本事項は子猫の育て方・基本編を参考にしてください。

授乳の量と回数

 授乳量や回数に関しては以下の表を参考にしながら与えます。授乳回数は6~8回ですので、朝だろうが夜中だろうが3~4時間に1回の頻度で授乳しなければなりません。 2週齢の子猫に必要な授乳量の目安と回数
数値の元データ ✓必要熱量=0.24kcal/g/日
✓ミルク濃度=0.83kcal/ml
✓1回授乳量=胃の容量
✓1日授乳量=必要熱量÷ミルク濃度

8~14日齢の子猫の成長

 以下は、2週齢(8~14日齢)の子猫に見られる一般的な成長過程です。これらが観察される場合は、順調に成長していると判断できます。
子猫の成長(8~14日齢)
  • 体重1日最低10gのペースで体重が増える。1週間で100g増えるのが目安。生後14日時点での体重は250~325gくらい。
  • 視覚7~10日齢頃に目が開き始め、2~3日かけて完全に開く。
  • 聴覚生後7日目には定位反応が見られ、13~16日齢までには音の聞こえる方向へ探索をするようになる。外耳道は6~14日齢に開き、おおよそ17日齢で完成する。
  • 運動能力10日齢頃から後肢で下半身を支えるようになり、14.3日齢頃から後肢による踏みなおし反射が見られるようになる。
  • その他暖かいものの中へ頭から入り込もうとする「もぐりこみ反射」が16日齢まで見られる。体温調整が自力でできるようになると自然消滅。

特徴や注意点

 この時期において特筆すべきは、生後2週目(8日齢)あたりから社会化期(しゃかいかき)が始まるという点です。社会化期とは、猫の性格を形成する上で極めて重要な時期であり、この時期に同腹の猫、他の動物、人間などと幅広く接していると、将来的に人懐こくて社交的な猫が育つと言われています。社会化期は長期的に続くわけではなく、およそ生後7週目で終了してしまう期間限定のものですので、この時期における子猫の扱い方はデリケートに考慮しなければなりません。具体的な接し方は「猫の性格」で詳述してありますのでご参照下さい。 猫の性格

3~5週齢の育て方

 「3~5週齢」とは、おおよそ「15~35日齢」の期間です。授乳と排泄補助に関する基本事項は子猫の育て方・基本編を参考にしてください。この時期は乳歯が生え揃う「離乳期」ですので、少しずつミルクから離乳食に移行していく必要があります。また自力で排泄できるようになる時期ですので、敷居の低い小さな容器と固まらないタイプの猫砂も用意しておきましょう。

授乳の量と回数

 授乳量や回数に関しては以下の表を参考にしながら与えます。3週齢(15~21日齢)頃から乳首に吸い付く吸引反射が徐々になくなっていきますが、これは正常な変化です。このころから少しずつ離乳の準備を始めます。
3週齢の授乳
 15日齢ころからミルクに少量の離乳食を混ぜて味に慣らせていきます。おかゆのような市販の離乳食を用意し、授乳するたびボトルの中にスプーンの先くらいの量を混ぜていきましょう。市販の離乳食は「1~1.3kcal/g」ですが、少量であればミルクのカロリー濃度を大きく変えることはありません。 3週齢の子猫に必要な授乳量の目安と回数
4週齢の授乳
 4週齢(22日齢)くらいから少しずつ離乳食の割合を増やしていきます。具体的には1日の必要エネルギーの20%程度を離乳食で補うようにします。右端に熱量(kcal)の目安を記載してありますので参考にして下さい。例えば25kcalとある場合、市販の離乳食が「1kcal/g」のときは25g、「1.3kcal/g」のときは20gくらいが目安になります。この時期の目標は舌を使ってぴちゃぴちゃなめとることです。 4週齢の子猫に必要な授乳量の目安と回数  床が汚れてもいいようにタオルなどを敷き、離乳食(硬さはおかゆやペースト状のおやつくらい)を安定性の高いお皿などにとりわけて与えてみます。ピチャピチャと自発的になめ始めたら成功です。ひげを含めた口元が汚れますのでよく拭いてあげましょう。 【画像の元動画】How to Wean Orphaned Kittens onto Solid Foods 猫の離乳食は安定性のあるお皿に取り分けて与える  口をつけないようなときはミルクを少量加えて「汁かけご飯」にしたり、逆にミルクの中に離乳食を混ぜて「スラリー」(懸濁液, slurry)にして授乳しても構いません。味に慣れてきたらもう一度お皿から与えてみましょう。舌を使って自力で舐め取ってくれたら成功です。
5週齢の授乳
 猫が30日齢くらいになったら、1日の必要エネルギーの50%程度を離乳食で補うようにします。右端に熱量(kcal)の目安を記載してありますので参考にして下さい。例えば75kcalとある場合、市販の離乳食が「1kcal/g」のときは75g、「1.3kcal/g」のときは58gくらいが目安です。この時期の目標は舌を使ってぴちゃぴちゃなめとることと離乳食に体を慣らせることです。 5週齢の子猫に必要な授乳量の目安と回数  汚れてもよいよう床にタオルなどを敷き、安定性の高いお皿などにとりわけて与えましょう。なおミルクの量が少なくなった分、体に必要な水分を別の場所から摂取しなければなりません。安定性の高いお皿に水を入れ子猫がアクセスしやすい場所に置いてあげてください。水は6時間ごとに入れ替えるようにします。
 離乳食の割合を増やしたことにより軟便や下痢が出やすくなるかもしれません。体重が減少するほどひどい場合はいったん離乳食の割合を20%程度まで減らし、ミルクの量を多くして体液量を回復しましょう。

15~35日齢の子猫の成長

 以下は3~5週齢(15~35日齢)の子猫に見られる一般的な成長過程です。これらの過程が観察される場合は、順調に成長していると判断できます。
子猫の成長(15~35日齢)
  • 体重1日最低10gのペースで体重が増える。1週間で100g増えるのが目安。生後21日時点での体重は350~425gくらい、生後35日時点での体重は550gくらい。
  • 視覚15~25日齢頃から奥行きを認識したり、物を追ったり母猫を探すといった行動が発達する。生後25~35日齢頃から、障害物を避けることができるようになる。瞳はまだ青く、やや外斜視の傾向がある。
  • 聴覚3~4週齢で同腹の子猫や人間の音声を認識し、防衛反応(背中を丸めてシャーシャー音を出す)も見られる。31日齢までに耳介が深くくぼんでいく。
  • 運動能力2週齢まではあまり動かず、四肢をゆっくりばたつかせて泳ぐような進み方を示す。3週齢からはおぼつかない歩き方が認められ始める。4週齢になるまでは寝場所から遠く離れることは無い。5週齢頃になると、一瞬、走るような様子を見せるようになる。よじ登りは23~40日齢頃から。空中で体勢を立て直す「空中立位反射」は生後21~30日齢に出現する。
  • 乳歯は2週齢(8~14日齢)ころから生え始め、5週齢(29~35日齢)で生えそろう。
  • その他爪の出し入れ、および自力での体温維持は3週齢までにできるようになる。4~5週齢の時期には古典的条件付けが成立する。すなわち、「犬の絵と一緒に電気ショックを与えると、犬のことを嫌いになる」といったように、中立的な刺激と生理的反応とをワンセットで記憶することができるようになる。

特徴や注意点

 生後23~39日齢になると、股間への刺激に応じておしっこやうんちをする排尿排便反射が消失し、ようやく自力で排泄できるようになります。ベッドの中におしっこやうんちの痕跡があったり、刺激してもおしっこが出なくなったら今まで膝の上で行っていた排泄物の処理を猫用トイレの上に切り替え、そのままトイレのしつけに移行しましょう。 子猫の最初のトイレは敷居の低い容器と固まらないタイプの猫砂を用いる  敷居の低いトイレに固まらないタイプの砂を入れ、そこに入れてあげます。固まるタイプだと子猫が食べてしまったり足にネバネバが付いてしまいます。うまく手に入らない場合は匂いのついていない粒子が細かい砂を選ぶようにしましょう。
 たいていの猫は本能的にトイレと理解し、自発的にそこで排泄するようになるはずです。なかなか出ない場合はティッシュなどを持ち、トイレの上でしっぽの付け根を刺激してあげましょう。いつでも排泄ができるよう、ベッドの近くにおいてあげるのがベストですが、今まで使っていた箱では小さいという場合は、このタイミングでペットサークルなど大きめの囲いに引っ越して下さい。まだ買い揃えていない場合は子猫に必要なベッド・寝床用品を参考にしながら選びます。 【画像の元動画】How to Set Up Space for Foster Kittens 猫が自力で排泄ができるようになったら寝床の近くにトイレを  3週齢(21日齢)までには爪の出し入れもできるようになりますので、猫を生活用品に慣らすを参考にしつつ爪切りに慣らすと同時に、爪とぎのしつけをしていきます。いつでもガリガリできるよう、部屋の複数箇所にスクラッチポストを置いておきましょう。
 少し高い場所から飛び降りたり走る能力を身につけるのもこの頃です。きょうだい猫がいる場合、4週齢頃から社会的遊びを見せるようになります。いつの間にかベッドを抜け出し、勝手に部屋の中を冒険して不慮の事故に遭わないよう、猫が喜ぶ部屋の作り方猫にとって危険な毒物を再確認して部屋の中を安全にしておきましょう。
 生後28~35日で脳が完全に発達し、平均すると生後35日で乳歯26本が生えそろいます。子猫の口の中を覗いてみて、細い牙(きば)のような歯が生えているのは乳歯です。生後3週齢までに体温調整ができるようになりますが、まだ皮下脂肪が薄く低体温症になりやすいので、あんかや湯たんぽはそのまま置いておきましょう。寝床周辺の温度の目安は3週齢までが26~29℃、4週齢までが23~26℃です。

6週齢の育て方

 「6週齢」とは、おおよそ「36~42日齢」の期間です。この時期になると子猫の乳歯がすでに生えそろっていますので、ミルクよりも離乳食の量を多くするようにします。目標は子猫用のウエットフードやドライフードの味に慣れさせることと、あごをつかってくちゃくちゃ噛ませることです。

食事の量と回数

 以下は、1日の必要エネルギーの75%を離乳食でまかなったときの数値目安です。オス、メス、品種などによって体重の個体差が大きくなり始めますのでしっかりと計測しておきます。授乳回数は2回ですので、ミルクはもはや主食ではなくおやつといったところです。 6週齢の子猫に必要な授乳量の目安と回数  離乳食に関しては、市販されている猫用離乳食のほか、子猫用のウエットフードやドライフードを水でふやかしたものを用います。ふやかす場合はすこしフードの塊が残る「オートミール」程度に調整して下さい。こうすることで子猫が口に入れた時、自然な咀嚼運動(かむこと)が促されます。 【画像の元動画】How to Wean Orphaned Kittens onto Solid Foods 離乳食の中に塊を残して咀嚼運動を促す  いきなりフードの内容を変えると子猫が受け付けてくれず下痢になってしまいますので、「市販離乳食90%+ふやかしたフード10%」→「市販離乳食80%+ふやかしたフード20%」という具合に少しずつ入れ替えるようにします。
 牛肉、湯がいた鶏ササミ、白身魚などをフードプロセッサにかければ自宅でも作れますが、人間にはOKでも猫にはNGという食材はたくさんあります。猫の毒となる食物には必ず目を通しておいてください。また猫にドッグフードを与えることは基本的にNGです。
 汚れてもよいよう床にタオルなどを敷き、安定性の高い食器に子猫用の離乳食を盛ってあげます。ぬるい場合はレンジなどで軽く温めてください。胃袋の大きさが決まっていますので、食事量は基本的に子猫に任せますが、吐き戻さないよう6~7回に分けた方がよいでしょう。食べきれなかった分は密閉して冷蔵しましょう。
 必要エネルギーの25%程度はミルクで補ってあげます。哺乳瓶を受け付けない場合はこぼれないお皿に入れてぴちゃぴちゃとなめさせて下さい。ミルクだけでは体に必要な水分までは補いきれませんので、安定性の高いお皿に水を入れてアクセスしやすい場所に置いてあげます。水は6時間ごとに入れ替え、常に新鮮な状態にしておきましょう。

特徴や注意点

 生後6週齢はノミダニ薬、寄生虫の駆虫薬、ワクチンなどを投与・接種できるようになる時期です。このタイミングでいちど動物病院を受診し、虫下しとワクチン接種に関するスケジュールを獣医師と相談しましょう。また子猫を外で拾った場合は猫エイズウイルス感染症(FIV)や猫白血病ウイルス感染症(FeLV)といった病気にかかっていないかどうかもあわせてチェックします。ノミダニ、寄生虫、感染症の可能性がなくなったところでようやく先住猫と顔合わせできます。
 「国際猫医療協会」(ISFM)では「猫の避妊去勢手術は生後6ヶ月齢ころまでに行うのが望ましい」と推奨しています。避妊手術とはメス猫の卵巣と子宮を切除することで、去勢手術とはオス猫の精巣を切除することです。将来的に子猫を生む計画がない場合は、動物病院を受診したついでに不妊手術計画についても決めておきましょう。詳しくは以下のページをご参照ください。 猫の去勢と避妊手術

7~8週齢の育て方

 「7週齢~8週齢」とは、おおよそ「43~56日齢」の期間です。この時期は子猫の乳歯がすでに生えそろっていますので、ミルクから離乳食に完全に切り替えるようにします。目標はあごを少しずつ鍛えることです。

食事の量と回数

 標準的な体重は7週齢(49日齢)で850g、8週齢(56日齢)で925g程度ですが、個体差がありますのであくまで目安とお考え下さい。1日に必要なエネルギーと水の計算式は以下です。例えば子猫の体重が800gの場合、必要エネルギーは「192kcal」、必要水分は「104~176ml」、胃の容量は「32ml」となります。
子猫の適正給餌計算式
  • 必要なエネルギー=24kcal/100g
  • 必要な水分=13~22ml/100g
  • 胃の容量=4ml/100g
 離乳食は子猫用のウエットフードやドライフードを水でふやかしたものを優先的に用います。子猫が自発的にあごを使ってくれるよう、今までよりやや大きめの塊が残るよう水分量を調整して下さい。ちょうど「大きめ野菜がゴロゴロ入ったカレーライス」のようなイメージです。
 胃の容量には限界がありますので、1度の食事ですべての離乳食を平らげることはできません。吐き戻さないよう、6~7回に分けるようにします。食べきれなかった離乳食は出しっぱなしにせず、必ず密閉して冷蔵してください。
 水分の摂取は子猫の自由飲水に任せます。あまりにも水を飲まないときは市販されている子猫用のミルクなども試してみて下さい。

特徴と注意点

 7週齢(43~49日齢)は社会化期の最終週です。外の世界に対する好奇心が強く、脳が柔軟なうちに部屋の中を探検させておきましょう。ただし高い場所や危険物がある場所には絶対行かせないで下さい。必ず飼い主が付き添った状態で探索をさせます。また繰り返しになりますがあらかじめ猫が喜ぶ部屋の作り方を参考にして部屋の中をキャットプルーフにしておいて下さい。
 野猫の場合、2~4ヶ月齢は母猫から狩りの方法や獲物のとり方を教わる時期です。母親が自分の尻尾をつかってじゃれさせたり、生きたままの獲物を持ち帰り、止めを刺す練習を子猫にやらせることもあります。子猫の身体能力を鍛えるため、飼い主が母猫代わりになって遊んであげましょう。ただし手を使って子猫をあやすのは絶対NGです。人間の手をおもちゃと勘違いし、ひっかきや噛み付き癖が付いてしまいます。 猫と遊ぶ

3~5ヶ月齢の育て方

 「3~5ヶ月齢」とは、おおよそ「61~150日齢」の期間です。100日齢くらいまでは歯がほとんど乳歯ですので、これまで通り離乳食を与えるようにします。一方、100日齢以降から「歯牙脱換期」(しがだっかんき)に入り、180日齢くらいまでにすべての乳歯が永久歯に変わります。この時期の目標はドライフードを噛み砕けるようになることです。
永久歯が生え始める時期
  • 切歯=3~4ヶ月齢
  • 犬歯=4~5ヶ月齢
  • 前臼歯=4~6ヶ月齢
  • 後臼歯=4~5ヶ月齢

食事の量と回数

 子猫が100日齢くらいになったら、子猫が確実に咀嚼運動をするよう、やや大きめの塊をフードの中に残すようにしましょう。ウエットフードを使う場合はそのまま与え、ドライフードを使う場合は水で硬さを調節した上で与えます。ちょうど「大きめの肉が入ったカレーライス」のようなイメージです。
子猫の適正給餌計算式
  • 必要なエネルギー=24kcal/100g
  • 必要な水分=13~22ml/100g
  • 胃の容量=4ml/100g
 120~130日齢くらいになったら子猫のあごを鍛えることに主眼をおきましょう。ドライフードをふやかす時に用いる水の量を少なくし、少しずつ従来の「カリカリ」の硬さに近づけていきます。ちょうど、カップラーメンに入れるお湯の量を少しずつ減らしてベビースターラーメンに近づけるようなイメージです。粒が大きなフードを使うと子猫が飲み込めないこともありますので、最初は子猫用の小さな粒を用いてください。胃の容量から考え、食事回数は1日最低4~5回に分けるようにします。 水分量を減らして段階的にフードを固くしていく  150日齢(5ヶ月齢)くらいになると永久歯への入れ替わりが進みます。フードの水分含量をさらに減らし、30日くらいかけて徐々にドライフードの硬さに近づけていきましょう。子猫の食が進まない場合は、乳歯と永久歯が重なって痛いとか、奥歯が生え切っていないのにフードが硬すぎる・大きすぎるといった可能性があります。口の中を覗き込み、前臼歯や後臼歯が十分に伸びていないときはいったん水分含量を増やして噛みやすいように調整してあげましょう。 猫の乳歯は生後180日齢(6ヶ月齢)までの間にだいたい永久歯に入れ替わる  180日齢くらいになると、臼歯を含めたほとんどの乳歯が永久歯に入れ替わります。ドライフードをそのまま与えてみましょう。奥歯で「カリッ」とフードを噛み砕けるようになったら移行は成功です。
もう硬いものでも噛めるはずですので、月齢に応じたカロリー数を与えて下さい。

子猫に多い病気

 子猫の免疫力は完全ではないので、成猫よりも病気にかかりやすい状態になっています。具体的には以下です。子猫が生後6週齢(36日齢)を超えたタイミングで病院を受診し、駆虫薬を処方してもらうと同時に、ワクチン接種プログラム不妊手術の時期について相談しましょう。

ノミ・ダニ

 子猫の被毛の中にネコノミがいたり、耳の中にミミダニがいることがよくあります。成猫であれば殺ノミ薬や殺ダニ薬を投与することによって対処できますが、子猫の場合は薬剤によって中毒に陥る危険性が高いため使えません。ノミにしてもダニにしても、薬剤を投与できるようになる生後6~8週齢まで我慢する必要があります。
 ネコノミは子猫の血液を吸い取って貧血を引き起こしますので、取り急ぎお風呂場などに連れて行ってノミとりコームを使って丹念に取り除いてあげましょう。取った成虫や卵はすぐに流してしまいます。コームは1回1回乾いたキッチンペーパーなどで拭いて下さい。急激な体温の上昇や低下は臓器不全につながりますので、自力で体温調整ができるようになる20日齢くらいまではお風呂やシャワーも控えるようにします。
 ミミダニによって耳の外側に出てきた粉末コーヒーのような黒い汚れだけは綿棒などできれいにしてあげましょう。感染力が強いため、他の子猫と一緒の箱に入ってる場合は隔離する必要があります。また子猫のベッドとその周辺は毎日チェックし、タオルの交換と拭き掃除をします。

寄生虫

 母猫が寄生虫を保有している状態で子猫を生むと、血液や胎盤を経由して子猫にまで寄生虫が移ってしまいます。しかし仮に寄生虫を持っていたとしても、虫下しは生後6~8週齢からしか使えませんので、それまでは子猫の免疫力に頑張ってもらうしかありません。市販の駆除薬や家の中に余ってる先住猫の駆虫薬は絶対に使わないでください。最悪のケースでは死亡してしまいます。
 吐いたものや排泄物の中に切れた輪ゴムのような回虫が混じっているときは速やかに回収してトイレなどに流してしまいます。またお尻の周辺から糸くずのような条虫の一部が出ている場合は濡れティッシュなどで拭き取ってあげましょう。ベッドにも落ちているはずですので、コロコロなどをかけてきれいにし、タオルは洗濯に回します。

感染症

 子猫でよく見られるのがカリシウイルス猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)による上気道感染症です。カリシウイルスは主に口の中、ヘルペスウイルスは主に結膜の症状を引き起こし、複合感染していることも少なくありません。主な症状は結膜炎、舌炎、くしゃみ、鼻水、大量の目やになどです。感染力が強いため、先住猫やきょうだい猫から隔離しておかなければなりません。 ヘルペスウイルスは眼症状、カリシウイルスは口内症状を引き起こしやすい  カリシウイルスにしてもヘルペスウイルスにしても100%の有効性が実証されている抗生物質はありません。また副作用、投与法の制限(経口薬しかない)、耐性菌の出現といった懸念から使わないほうがよいという考え方もあります。ただし重症化して肺炎を併発しているようなケースでは二次感染を緩和する目的で抗生物質が投与されることもあります。
 ヘルペスウイルスでは結膜炎が重症化して眼球が癒着し、失明につながってしまう危険性があるため、抗生物質を含んだ局所点眼薬(目薬や軟膏)を処方してもらった方がよいでしょう。目の炎症は多くの場合ブドウ球菌、パスツレラ菌、大腸菌といった他の病原体による二次感染ですので抗生物質が奏功します。
 母猫が各種感染症にかかってる状態だと、血液や胎盤を経由して子猫にまでウイルスを移してしまうことがあります。このような垂直感染(経胎盤感染)を予防するためには、母猫が妊娠する前にワクチン接種を完了しておくことが必要です。

低体温

 低体温症の目安は、出生時で34.4℃未満、3日齢で35.6℃未満、7日齢で37.2℃未満です。代表的な症状は落ち着かない、ずっと泣き続けている、食欲がない、口の粘膜が真っ赤、触ると冷たいなどです。
 体温が低下するにつれて腸管の運動が遅くなり、最終的には腸閉塞を引き起こします。このような状態でチューブによる強制的な給餌を行うと、ミルクが逆流して肺に入ったり、摂取したものが発酵して呼吸困難を引き起こします。また体温の低下によって細胞免疫機能が低下し、細菌に感染しやすくなってしまいます。
 治療にあたっては1時間当たり1℃を超えないゆっくりとしたペースで体温を上げていかなければなりません。これ以上のペースで急速に温めてしまうと遅延臓器不全を引き起こし、呼吸数の増加、呼吸困難、チアノーゼ、下痢、けいれんといったより重篤な症状につながってしまいます。

低血糖

 低血糖とは血液中の糖分(グルコース)が少なくなりすぎた状態のことで、「30ml/dL」を下回ると発症すると考えられています。代表的な症状は震える、泣き続ける、知覚が鈍る、けいれんする、ぐったりしているなどです。
 生まれたばかりの子猫は肝臓の機能がまだ弱く、グリコーゲンと呼ばれるエネルギーの塊を貯蔵することができないため、24時間ほど授乳が中断されただけですぐに発症してしまいます。例えばきょうだい猫に押し出されて母猫の乳首に到達できない子猫や、うっかり人工授乳を忘れてしまった子猫などです。授乳を母猫に任せている場合は、すべての子猫が均等に母乳を飲んでいるかどうか常に確認するようにしましょう。
 病院における緊急治療では、高濃度のデキストロースを口の中に直接投与したり、5~10%デキストロース生理食塩水をゆっくりと静脈内投与します。

脱水症状

 脱水症状とは体内における水分量が標準を下回った状態のことです。子猫の体重の82%は水分で占められており、水の代謝は成猫の約2倍です。水に対する要求が13~22ml/100gと高いため、水分の摂取量が少ないとすぐに脱水症状に陥ってしまいます。
 原因として多いのは下痢や嘔吐による体液の喪失、肺炎、ミルク不足、高すぎる環境温度による不感蒸泄などです。また体表面積が広くて代謝率が高く、腎臓における尿の濃縮能力が低い(=おしっことして出て行く水分が多い)といった子猫特有の体質も脱水症の発症に拍車をかけています。
引き伸ばした皮膚の戻り具合から脱水を推測する「スキンテント」は子猫には使えない  成猫の場合、背中の皮膚を摘んで戻るまでの時間を計測する「スキンテント」(Skin torgor test)が1つの目安になりますが、子猫においては皮膚の緊張度が全く違いますのでこの方法は使えません。そのかわり口の中を覗き込み、頬の粘膜を観察するようにします。粘膜が乾いているような場合は10%程度の脱水が疑われるということです。
 脱水が疑われる場合は、取り急ぎミルクを与えて水分を補給しましょう。また子猫の寝床は暑すぎないかを温度計でチェックします。下痢や嘔吐が続く場合は一旦動物病院を受診したほうがよいかもしれません。治療においては液剤を口から投与したり皮下もしくは静脈投与したりします。

衰弱症候群

 子猫衰弱症候群(こねこすいじゃくしょうこうぐん, fading syndrome)は特定の病気を指すわけではなく、何らかの理由により生後まもなく死んでしまった子猫に対して与えられる総合診断名です。それまで元気だった子猫が急に死んでしまったり、弱々しい状態で数日間生死の境をさまよった後に死んでしまうというパターンが多く見受けられます。
 原因は多岐にわたりますが、難産に伴う低酸素症や外傷、免疫性の溶血症、先天的奇形、飼い主の不注意による低体温症などです。最後の原因は予防可能ですので、子猫の体温が下がらないよう、飼い主は十分に注意します。

新生子溶血

 「新生子同種溶血現象」(しんせいしどうしゅようけつげんしょう)とは、母猫の初乳が子猫の血液中にある赤血球を破壊することで生じる貧血症状のことです。免疫性溶血症(めんえきせいようけつしょう)とも呼びます。
 本来、初乳というものは中に含まれる抗体の作用により、子猫の免疫力を高めてくれるものです。しかし、母猫と父猫の血液型の組み合わせによっては、味方であるはずの抗体がなぜか子猫の赤血球を破壊してしまい、溶血現象を引き起こして子猫の命を奪ってしまうのです。
 具体的には、母猫がB型(遺伝子型B-B)で父猫がA型(遺伝子型A-A)の場合は100%、母猫がB型(遺伝子型B-B)で父猫がA型(遺伝子型A-B)の場合は50%の確率で本症を発症します。詳しくは猫の血液型をご参照ください。

先天的奇形

 子猫の体の一部に、異常がある状態で生まれてくるものがいます。具体的には 水頭症小脳障害心臓の病気横隔膜ヘルニア、胸郭奇形、口蓋裂などです。 猫の先天的奇形である水頭症と口蓋裂  原因としては近親交配、母猫の妊娠中に投与された薬剤などが挙げられます。生まれたときにはわからないものの、成長とともにはっきりしてくるものもあるため、飼い主は猫の見た目や様子の変化に、常に気を配るようにします。

品種別の好発疾患

 子猫が雑種ではなく純血種の場合、品種特有の好発疾患というものが存在しています。中には子猫の頃から症状を示すものもありますので念のため確認しておきましょう。
詳しくは純血種の猫に多い病気というページで解説してあります!